ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 直杉の後ろを、二十人ほどの女子たちが憧憬に瞳を潤ませながらゾロゾロと付き従っている。
 歓呼の声は、それらの女子から発せられているのだ。
「フン。ここは宝塚じゃないんだぞ」
 直杉に群がる女子をあからさまに軽視しながら、樹里が忌々しげに鼻を鳴らした。
 それを承けて、充が苦い笑みを浮かべる。
「直杉だって不本意だろうさ。女たちが勝手に付き纏ってるだけだろうし。歴とした女なのに大変だな、あいつも」
 そう、徳川直杉は女なのだ。
 直杉は、M市屈指の名旧家である徳川家の嫡子として、この世に生を受けた。
 偏屈で頑固な祖父が、彼女が生まれる際に『名前は男でも女でも《直杉》だ』と言い通したため、彼女には男らしい名前がつけられたのである。
 名前の効果なのか、直杉は名家のお嬢様だというのにお嬢様らしくは育たなかった。
 華道や茶道よりも武道を好む気質の持ち主なのだ。
 学園では弓道部に所属しているが、他の武道も一通り会得していると噂されている。
 武芸に秀で、かつ中性的な容姿を持つ直杉に群がる少女の数は、日に日に増える一方であった。本人の望む望まないは別として。
「ナオちゃん、おはよう!」
 近寄ってくる直杉に向かって、水柯は元気よく手を振った。
 こちらに気づいた直杉が、悠然と歩み寄ってくる。
 熱烈な直杉信奉者の女子たちは、落胆したように足を止めた。
 それでも熱い視線を直杉に注ぐことは止めない。
「袴なんか履いちゃって、どうしたの?」
 袴姿の直杉を物珍しげに眺めながら、水柯は小首を傾げた。
「日曜に隣の陵蘭高校と親善試合がある。少し練習しておこうと思ってな」
「嫌味な奴だな。練習する必要なんて全然ないくせに」
 樹里が仏頂面で直杉を見遣り、揶揄を込めた言葉を投げつける。
「それは私の力量を評価してくれているのか、田端。ならば、今の言葉は賛辞として受け取っておくが」
「ケナしてんだよ」
 樹里がソッポを向く。
「樹里って、ナオちゃんに冷たいよね」
 二人のやり取りを聞いて、水柯は溜息をついた。
 声には、樹里の刺々しい態度に対する非難が自然と滲み出てしまう。
 直杉は水柯の友人だし、樹里にとってもクラスメイトだ。
 もう少し樹里の方から歩み寄ってもいいのではないか、と水柯は常々思う。
 だが、樹里にはそんな心遣いなど微塵もないようだった。
「樹里は女なら誰にでも冷たいんだよ。女の子には最大限に優しくする義務が、男にはあるのにな」
 充が唇の端を歪めながら樹里の顔を覗き込む。
「充の考え方には賛同できないし、僕は水柯と徳川を女だと思ったことは一度もないね」
「手厳しいことで。でも逆に、樹里の評価の中では高ランクだってことだ、お二人さん」
「素直に喜んでいいものかどうか、複雑な心境だな」
 直杉が無表情のまま首を捻る。
「わたし、ちっとも嬉しくないわよ」
 水柯は頬を膨らませ、恨みがましく樹里を睨めつけた。
「うるさいな。――早く制服に着替えてこいよ、徳川。ただでさえ目立つのに、いつまでもそんな格好してるなよ」
 集中非難を浴びたことにムッとしたのか、樹里が直杉に理不尽な文句を叩きつける。
 そうかと思うと彼は急に身を転じ、一人でさっさと新校舎の方へと歩き出してしまった。
「オイ、待てよ!」
 充が慌てて樹里を追いかける。
 水柯は直杉を見上げ、お手上げだというように肩を竦めてみせた。




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2009.05.17 / Top↑
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