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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.09.26[10:37]
 露店を離れ、通りから細い裏路地へと身を移す。
 しばらく歩いたところで、グラディスは立ち止まった。
 アナンに向き直り、手に入れたばかりの首飾りを彼女の首へかける。
 艶やかな褐色の肌の上で黄金細工の首飾りが眩く煌めく。
 想像通り首飾りはアナンに相応しく、彼女の優美さをより一層引き立てた。
「こんな高価な代物はいただけませんわ」
「僕が君に贈りたいんだ。君は素直に受け取ってくれればいい」
「私には分不相応の贅沢です」
 アナンの柳眉がひそめられる。
「そんなことはないよ。とてもよく似合っている。綺麗だよ」
 グラディスが思ったままに讃美すると、アナンは顔を朱に染め、恐る恐る胸元を飾る首飾りに手を触れた。
「私――今、解りましたわ。この宝玉は、あなたと同じ清廉な輝きを放っています。だから、惹かれたのですわね」
 ようやくアナンの顔に笑みが広がる。
 彼女の指は愛おしげに緑の宝玉を撫でていた。
「それは光栄だね。今のうちに君のその姿を目に焼きつけておくよ。新王が選定されれば、君はまた神殿暮らしに戻るのだろうからね」
 グラディスは幾ばくかの寂しさを込めて言葉を紡いだ。
 それを承けて、アナンが申し訳なさそうに瞼を伏せる。
「……ええ。私が外の世界に出られるのは、これが最後になるかもしれません」
「僕と君が一緒にいられるのも、王都までの僅かな道程だけだってことだ。いずれ君は神殿生活に戻る。そして時が経つにつれて、僕のことなど忘れてしまうんだろうね」
「忘れたりなんかしませんわ」
 思いがけずアナンが強い語調で応じたので、グラディスはしばし茫然とした。
 アナンは瞼を開き、真っ直ぐにグラディスの顔を見つめている。
 緑の双眸には純真な光が宿っている。
 その輝きに惹かれ、グラディスは自然と片手を伸ばしていた。
 しかし、アナンの頬に指先が触れる寸前で慌てて腕を引っ込める。
 ――これ以上は踏み込んではいけない領域だ。僕が求めているものは、彼女が望むそれとは違う。彼女は星神の巫女なのだから。
 必死に自制するが、胸に苦いものが込み上げてくるのは禁じ得なかった。
「その首飾りに触れた時には、僕を思い出してくれると嬉しいね。――そろそろ帰ろうか」
 グラディスは胸に生じた鈍痛を誤魔化すように明るく告げ、アナンの華奢な手を握った。
 すると意外にも彼女は力強く手を握り返してきた。
「私、この首飾りを生涯大切に致しますわ」
 アナンの震えを帯びた声が耳を掠める。
「もしも私にレイジィほどの勇気と決断力が備わっていたならば、私は……私は――」
「勇気がないのは、僕も同じだよ」
 グラディスはアナンの言葉を遮り、彼女の手を引いて歩き始めた。
「今、僕が君を抱き締めたり、君に口づけしたりすれば、僕は星神の怒りを買い、神罰を与えられて憤死するんだろうね。まあ、僕は別にそれでも構わないんだけど。どうせ五年前に死んでる人間だしね」
 グラディスは前を見据えたまま素っ気なく呟いた。
 思わず口の端に自嘲の笑みが浮かぶ。
 イル・アナンを美しいと――愛しいと想う。
 数日前に出逢ったばかりの彼女に間違いなく惹かれている。
 だが、彼女の愛を得ようなどと考えてはいけないのだ。
 それは赦されないことだ。彼女は星神に遣える巫女――自分が想いを遂げることは、彼女の星守人としての人生を奪ってしまうことになる。
 他人の人生や未来を捻じ曲げてしまうほどの強引さや気骨が、今のグラディスにはなかった……。
「私はこの世に生を受けて以来、星守人として生きてきました。これからの未来もそれが変わることはないでしょう。星を護ることだけが私の使命――私に許された生き方なのです」
 静かで穏やかなアナンの声。
 だが、それは明らかに拒絶の言葉だった。
 悪意が全くないだけに、彼女の台詞は残酷にグラディスの耳に響いた。


     *


いつもご来訪下さり、ありがとうございます♪
この記事でfc2掲載、1000コ目です!!
いえ、ちょっと自分でも記事の多さにビックリしたので、書いてみました←
もう二度と引越なんてしたく……な……い――――(笑)

妖しさ満載の当ブログですが(汗)、これからもよろしくお付き合い下さいませ~!

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