ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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一.鏡月魔境



 眩い朝陽が大きな窓から射し込んでいる。
 光に溢れたダイニングには、コーヒーの芳しい薫りが漂っていた。
「サラダ、トースト、ベーコンエッグ――準備完了!」
 榊夏生(さかき なつお)は、三人分の朝食が並んだテーブルを見回すと満足げに頷いた。
 栗色の髪を纏めていたシュシュを外し、ダイニングのドアを勢いよく開け放つ。
 一度天井を仰ぎ見てから、夏生は大きく息を吸い込んだ。
「葵ちゃん、茜ちゃん、朝ご飯よっ! 起きてー!!」
 榊家の日常は長女・夏生のこの叫び声で始まる。
 夏生の大声に反応したのか、二階でガタンッッ! と激しい物音が響く。
 それには構わずに、夏生は笑みを浮かべたままダイニングへ引き返した。
「あと二分で葵ちゃん、五分で茜ちゃんね」
 淹れたてのコーヒーをサイフォンからカップへと注ぐ。
 ソーサーに載せたカップをテーブルに置いたところで、トントントンと階段を降りてくる音が聞こえてきた。
 ダイニングのドアが開き、渋い緑色の制服を着た少年が姿を現す。
 黒曜石を思わせる切れ長の双眸と、背中で一つに束ねられたストレートの黒髪が印象的だ。
「おはよう、夏生」
 榊家の若き当主――葵は、屈託のない笑みを妹の夏生へ向けた。
「おはよう。――茜ちゃんは?」
「まだ寝てる」
「さっきの激しい物音は何なの?」
「さあ? 寝返りを打った拍子にベッドから転落でもしたんじゃないかな。茜のことだから、そのまま熟睡してると思うけど」
 葵が肩を聳やかし、着席する。
「もうっ、茜ちゃんたら!」
 夏生は頬を膨らませると、物凄い勢いでダイニングを飛び出していった。

 取り残された葵は溜息を一つ零すと、テーブルの上に置いてあった朝刊を引き寄せた。
 コーヒーを飲みながら何気なく紙面に目を走らせる。
『如月製薬 榊グループと提携してドラッグストア業界に新規参入。都内二十カ所に巨大店舗を展開――』
 そんな見出しに注意を引かれた時、夏生がダイニングへ戻ってきた。
「信じられない! 茜ちゃんたらイスごと床にひっくり返って、そのまま眠ってるのよっ! 絶対おかしいわよ。――ちょっと葵ちゃん、新聞はご飯の後にしてね」
 夏生の手が素早く朝刊をもぎ取ってゆく。
 葵は記事を読むのを諦め、再びコーヒーに口をつけた。
「イスごと転倒? 状況が把握できないな」
「オンラインゲームに没頭してたみたいよ。不眠不休でプレイしたものの疲労には勝てず、座ったまま爆睡しちゃったんじゃないの? 詳しいことは本人に訊いてよ」 
 夏生が呆れ混じりに肩を聳やかす。
 ちょうどその時、階段を降りてくる音がしてダイニングに制服姿の少年が現れた――榊家の次男・茜である。
「いや、全くその通りで……。おはよう、葵」
 寝癖だらけのボサボサの髪を片手で掻き上げ、茜が大きな欠伸を漏らす。
「おはよう。最近部屋に籠もりきりだと思ったら――また新しいゲームにはまったの?」
 葵は、自分と同じ顔をした弟に苦笑を向けた。
「そうそう。《鏡月魔境(きょうげつまきょう)》っていうオンラインゲームなんだよ」
 茜が眠そうに応えながら、双子の兄の向かいの席に腰を下ろす。
「ゲームに熱中するのはいいけど、身体だけは壊さないでね。――ハイ、茜ちゃんは野菜ジュースよ」
 夏生は茜の前にグラスを置くと自分の席に座った。
「げっ、俺、野菜嫌い。コーヒーだけでいい」
「ダメ。どうせ寝不足でご飯食べる気なんてないんでしょ? だから、ささやかだけど野菜ジュースで栄養を補うの。ノルマだからね。それじゃあ、いただきます」
 夏生は横目で茜を睨み、両手を合わせてお辞儀する。
 夏生の号令とともに榊家の朝食はスタートするのである。

 十八歳の双子の兄弟・葵と茜。
 十六歳の長女・夏生。

 今現在、榊家に住んでいるのはこの三兄妹しかいなかった。
 彼らの両親は二年前に交通事故で他界している。
 父・榊保は、日本有数の複合企業『榊グループ』の若き会長だった。
 後継者である葵は未成年ということもあり『大学を卒業するまで』という条件付きでグループの経営を親族に委任している状態だ。
 それでも彼らが富豪の子息であることに変わりはない。
 榊家の子供たちは、都内M市郊外にある邸宅で不自由なく暮らしていた。
 全ては両親が遺してくれた莫大な遺産と保険金のおかげである。



「ブラックリスト」にも登場している茜ですが……兄妹が一緒だとうっかり度が増します(汗)
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2009.09.28 / Top↑
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