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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Wed
2009.09.30[20:56]
新王候補



 さほど広くはない裏庭に黒い影が集っていた。
 頭上から降り注ぐ月と星の輝き、そして宿の窓から洩れる明かりによって、周囲は淡く照らされている。
 薄明かりの中を複数の男たちが蠢いていた。
 ユージンの予想した通り、襲撃者は黒ずくめの男たちだった。
 クシュカ族が宿屋に舞い戻ってきたのだ。
 ユージンとグラディスが裏庭に回った時、既にレイジィは男たちとの戦闘に突入していた。
 彼女の手に剣はない。風呂場へ向かう際にうっかり忘れでもしたのだろう。
 ――用心しろって言ったのに!
 胸中で毒突きながら、ユージンは腰に帯びたサーベルを抜き払った。
 油断したレイジィを責めている暇はない。
 男たちは身体の軽さを利用して、得物のないレイジィを翻弄している。
「アナンを放しなさいよっ!」
 レイジィが憤怒の叫びをあげ、近くにいた男に蹴りを放つ。
 しかし、それは男の俊敏な動作によっていとも容易くかわされてしまった。
 ユージンはイル・アナンの姿を求めて素早く辺りに視線を配った。
 彼女は、男の一人に後ろから羽交い締めにされていた。男の持つ短剣が彼女の首筋に押し当てられているのを見て、眉をひそめる。
 だが一瞬後、男がアナンを傷つけることはない、と判断を下した。
 男には星守人を害する勇気も度胸もないはずだ。
 それを知っているからこそ、人質をとられているというのにレイジィは攻撃を仕掛けているのだろう。
「ちょこまかと鬱陶しいわね!」
 レイジィの苛立たしげな叫び。
 レイジィに視線を戻すと、彼女は右の掌を男に向けて突きつけるところだった。
 掌から黄金の輝きが生まれ、膨大な氣の珠と化して放たれる。
 さすがのクシュカ族も回避することはできなかったようだ。
 男はまともに氣を喰らい、数メートルも吹き飛んだ。
 地面に叩きつけられた後は、失神したのかピクリとも動かなくなる。
 時刻は夜半――星空の下でレイジィの力は常よりも増している。星神セラの加護を受けているのだ。
 渾身の力を込めて氣を放出したのか、レイジィは荒々しく肩で息をしている。
 連続して氣を放つのは無理があるようだ。
 戦闘の場に駆けつけた途端、
「レイジィ!」
 グラディスがレイピアをレイジィに向かって放り投げた。
「ありがとう!」
 レイジィがレイピアを受け取る。
 それを確認すると、グラディスは残るもう一本のレイピアを鞘から抜き、アナンの方へと向かった。
 即座にクシュカ族がグラディスの前に立ちはだかる。
「星守人を拉致する愚かな奴らが、王になれるわけがないぜ」
 ユージンはグラディスの隣に並びながら男たち睨めつけた。
「男のうちのどちらかが新王候補のはずだ」
「新王候補を殺せ!」
 男たちが殺気を漲らせ、武器を片手に躍りかかってくる。
「死ねっ!」
 一人の男が剣を振り翳し、ユージンに向かってくる。
 男の身のこなしは、明らかにユージンより速かった。
 かわす余裕はない。
 ユージンは咄嗟にサーベルで攻撃を受け止めた。
 金属がぶつかり合う音が響き、重い衝撃が剣を介して全身に伝わってくる。
 痩身の男なのにかなりの剛力だ。
 サーベルを持つ手に痺れを感じて、ユージンは舌打ちした。
 力でも敏捷さでも劣っている。
 だが、勝負に負けるわけにはいかなかった。
 王都に行かずして殺されるのは御免だし、アナンを攫われるわけにもいかない。
 ――けど、どうやったら勝てるんだよ……!
 男はじりじりと剣を押してくる。
 打開策を発見できずに焦り、歯を食いしばっていると、唐突に身体が軽くなった。
 男が力を抜いたのだと察した時には、ユージンは態勢を崩して前につんのめっていた。
 そこへ、男が高笑いを浴びせながら剣を振り下ろしてくる。
 しかし、男の剣がユージンを傷つけることはなかった。
 目の前に小柄な影が出現したかと思うと、鮮やかな剣捌きで男の得物を弾き飛ばしたのだ。
「なにボーッとしてるのよ。しっかりしてよね!」
 レイジィがグラディスのレイピアを操りながらユージンを叱咤する。
 剣を失った男は、レイジィの鋭い突きを寸でのところで避け、恐ろしいほどの脚力で後方へと跳び去った。
「ああ、慣れないと変な感じ! 軽くて動きやいのは嬉しいけど、迫力と威力が足りないわ」
 レイジィがレイピアを一瞥し、眉根を寄せる。
 日頃、太い曲刀サーベルを愛用している彼女にとって、レイピアは物足りないらしい。
 その軽さと感覚を手に馴染ませようというのか、彼女は何度もレイピアを振り回した。
「オイ、今のはボーッとしてたわけじゃないぞ!」
 ユージンは少女に助けられたことに羞恥を感じながら、慌てて態勢を立て直した。
「そんな言い訳を考えてる暇があったら、山猿の一人や二人、蹴散らしなさいよ」
 レイジィが冷ややかな視線を送ってくる。
「おまえもな……!」
 ムッとしながらレイジィを見返す。
 直後、ユージンは地を蹴った。
 わざわざ言われるまでもない。これくらいの困難を乗り越えられなくては、王たる資格もない。
 いかに相手が強者でも、ここで躓くわけにはいかない。
 シアの玉座を手にするまでは、何事にも何人にも屈するわけにはいかないのだ。
 ユージンは襲いかかってくる男たちに果敢に挑んだ。
 繰り出される攻撃を必死にかわし、隙を衝いて攻撃に出る。
 しかし、敵の身体は柔軟で俊敏。ユージンの剣技では到底その速さについていくことができなかった。
「くそっ、ホントに鬱陶しい奴らだな!」
 気力を振り絞って闘い続けていると、間近で黄金の閃光が炸裂した。
 男が一人、その餌食となって吹き飛ばされる。
「一人じゃ敵わなくても、二人いれば何とかなるわよ」
 ふと横を見遣ると、レイジィが口元に笑みを閃かせて立っていた。
「何とか、な。――よし、レイジィ、俺が時間を稼いでる間に氣を溜めろよ!」
 如何に敏捷なクシュカ族でも、レイジィの掌から放出される氣の珠は避けきれないらしい。
 ユージンが彼らの目を引きつけておけば、レイジィには氣を蓄える時間ができる。更に、巧くクシュカ族を一所に集めることができれば効率は跳ね上がる。あとはレイジィの氣でまとめて吹き飛ばしてもらうだけだ。
「グラディス、アナンは任せたぞ!」
 ユージンはグラディスの前に立ちはだかる男に向かって突進した。
 敵の胴を目がけて剣を水平に薙ぎる。
 男がグラディスから目を離し、ユージンの方を向いた。
 その隙に、グラディスが素早く前に飛び出した。
 囚われているアナンを目指し、疾駆する。
 グラディスのレイピアがアナンを羽交い締めにしている男を狙う。
 その時、
「星守人は渡さぬ」
 低い声が響いた。
 次いで、空を裂くような不吉な音が走る。
 同時にグラディスの右肩から鮮血が噴き上がった。


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