ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「グラディスッ!」
 ユージンは悲鳴に近い叫びをあげていた。
 グラディスの肩から飛び散った血が、彼の長い髪を不気味に染めてゆく。
 しかし、グラディス本人は至って冷静だった。
 彼は瞬時に攻撃を中断させると、後ろに飛び退いた。
 怜悧な双眸は、アナンの隣をじっと見据えている。
 そこに、長身の男が立っていた。
 男が手にする長剣の先は血で染まっている。
 ユージンの視界には入らなかったが、男がグラディスを斬ったのは間違いない。
「星守人は渡さぬ」
 男が静かに繰り返す。
 クシュカ族はユージンたちに対する攻撃を停止させると、男を護るようにその前に集結した。
 突如として現れたその男こそが、彼らの主人であるらしい。
 ユージンは警戒心を強め、注意深く男を観察した。
 二十代後半と思しき若い男だ。
 炎のような紅い髪が一際目立つ。茶色の瞳は冷酷な輝きを放っていた。
 男はクシュカ族を下がらせると、悠然と前に進み出た。
 威圧的な視線が、グラディス、レイジィ、ユージン、と順に注がれる。
 ユージンは一目男を見た瞬間『嫌な奴だ』と思った。
 態度や表情に、自己に対する自信とこちらに対する侮蔑がありありと顕れていた――気に食わない。
「大丈夫か、グラディス」
 ユージンは強気な態度で男の視線をはね除けてから、グラディスの傍へと駆け寄った。
「あいつも手下と同じく敏捷らしいね。反応するのが僅かに遅れた。まあ、片手が使えなくても支障はないけれど」
 グラディスが横目でユージンを見、口の端を吊り上げる。
 だが、その言動とは裏腹に肩からは依然として血が流れ、顔は青ざめていた。
 深手を負った証拠だ。
 ユージンは怒りと悔しさに歯噛みし、グラディスを斬った張本人を睨んだ。
「何なのよ、あいつ?」
 隣へやって来たレイジィも怒りに頬を紅潮させている。
「俺が知るかよっ。山猿たちの首領なんだろうさ」
 ユージンが吐き捨てるように言うと、男が冷笑を湛えた。
「山猿、か。随分な言われようだな。私はメイ・キリエ。おまえたちと同じくシアの玉座を目指す者だ」
 クシュカ族の従えた男――メイ・キリエがあっさりと正体を明かす。
 僅かに遅れてイル・アナンが『あっ!』と小さな驚きの声をあげた。
 何も映さないはずの双眸がしっかりとキリエの方に向けられる。
「メイ・キリエ――グスタク領主メイ伯爵家の御子息ですわね?」
「その通り。メイ家の次男だ」
 キリエは余裕の笑みを浮かべたまま首肯した。
「グスタク――それで納得だわ。グスタク山に住むクシュカ族にとって、メイ家は領主、。だから、彼らはあなたに遣えてるのね」
 レイジィが得心したように呟く。その声は妙に苦々しかった。
「グスタク領主メイ伯爵家の次男ね。また面倒な場面で、厄介な人物に逢ったな。シアの貴族になんて逢う予定じゃなかったのに……」
 グラディスが僅かに眉根を寄せ、不機嫌そうにキリエを眺める。
「ホントに予定外よね。……あたしも迂闊だったわ。クシュカ族が誰の指示で動いているかなんて、ちょっと考えればすぐに解ることだったのに」
 自嘲気味にレイジィが言う。
 クシュカ族を背後で操っているのがメイ家の者だと気づいていれば、グスタクに近いレオンの街を早急に出ることもできた。
 こんな事態に陥らなくても済んだはずなのだ。
 ユージンにはレイジィの悔やみが手に取るように解った。
 しかし、彼女は何かを吹っ切るように軽く頭を振ると、強気な視線をキリエへと注いだ。
「それで、メイ家の次男坊が何の用なの?」
「星戦が開始されて一ヶ月が過ぎた。だが、新王はおろか候補すら現れない。ならば、私が王になるしかないだろう」
 メイ・キリエが冷笑混じりに告げる。
 その自信がどこから湧いてくるのか、ユージンには不思議でならなかった。
 名門貴族という育った環境から自然と生まれてくるものなのかもしれないが、やはり気に入らない。
「随分と自信がありますのね」
 未だクシュカ族の男に羽交い締めにされているアナンが、硬い声音で言葉を紡ぐ。
 ふと、キリエの視線がアナンへ向けられた。
「星を狙う者なら、誰とて『自分こそが王に相応しい』と自負しているだろう。無論、私も例外ではない。だから、手っ取り早く確かめに来た。私は王になる。私の裡に王の輝きが視えるだろう、星守人よ」
 キリエの手が乱暴にアナンの腕を掴み、クシュカ族の男から引き剥がした。
 よろめいたアナンをキリエが素早く両腕に抱く。
「何をっ――!」
 アナンの口から飛び出した焦燥の叫びが途中で消える。
 彼女は、キリエの腕の中で表情を凍りつかせていた。
 緑色の双眸が驚愕に瞠られる。
 その一瞬後には、彼女の左目は神々しい黄金の光を発していた。
《神の眼》が輝いている――それは即ち、アナンが星を感じ取ったことを意味していた。
 アナンがユージンに触れた時と同じように、彼女の左目は発光しているのだ。
 ユージンは愕然とその様子を見つめていた。
 両隣でレイジィとグラディスが息を呑む。
「星を……感じますわ。この方に星を感じますわ」
 驚愕と当惑を顔に張りつけたまま、アナンが呆けたように呟く。
「星が視えますわ」
 第二の新王候補誕生の瞬間だった。



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2009.09.30 / Top↑
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