ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 状況は明らかにクラリスたちの方が有利――
 なのに、放たれた兄の声は妙に逼迫していた。
 クラリスはセリエの手を離し、反射的に兄の姿を探した。
 視野の端で、シンシリアが同じ動作をしている。愛するマイトレイヤーに名前を呼ばれて気が逸れたのか、一瞬彼の動きが止まった。
 その隙に短刀を手にした神官が、彼の肩口を斬りつける。
 シンシリアはハッと我に返り、相手を袈裟懸けに斬り返した。難なく目前の敵を斃し、彼は改めてマイトレイヤーの姿を求め始める。
「シンッ!」
 もう一度、マイトレイヤーがシンシリアの名を呼ぶ。
 明瞭に響いた叫びに釣られて、クラリスはそちらを顧みた。
 兄の姿を確認して――きつく眉根を寄せる。
 事もあろうに、マイトレイヤーはデメオラに捕らえられていたのである。
 防御魔法を生み出すための呪文に精神集中している間に、背後から忍び寄ったデメオラに身柄を拘束されてしまったらしい……。
 デメオラの脂肪に包まれた太い腕が、マイトレイヤーの細い首にしっかりと巻き付いている。
 シンシリアが状況を把握して、小さく舌打ちを鳴らす。マイトレイヤーを人質に獲られた己の不甲斐なさに苛立っているのだろう。
 彼は、後方にいるラザァにチラリと視線を流して、目顔だけで何かの合図をしたようだった。
 ラザァが首肯すると、シンシリアの姿はパッと消えた。
 空間移動したのだ。
 クラリスが瞬きひとつする間に、シンシリアはデメオラの傍へと身を移していた。
 シンシリアの剣が鋭い軌跡を描き、マイトレイヤーの首に絡みついているデメオラの腕を切り裂く。
 怯んだデメオラが腕を緩めた瞬間を見逃さず、シンシリアは乱暴に彼の手を払い除けた。自由の身になったマイトレイヤーを素早く奪取し、後ろへ庇う。
「シン――」
 何か言いかけたマイトレイヤーだが、彼の身はラザァによってシンシリアとデメオラから即座に引き離された。
 肩口から血を流したシンシリアと腕から鮮血を滴らせるデメオラが対峙する。
 二人の視線が合致した瞬間、双方の中間地点でいきなり強烈な光が炸裂した。
「……デメオラの奴、本気だわ。魔法力なら、少しだけどシンシリアよりあいつの方が上だし――イヤな感じね」
 ふと、隣でセリエが渋面を作る。
 そこでようやくクラリスは、突如として起こった光の爆発が、シンシリアとデメオラの攻撃魔法が衝突したために起こったものであることを悟った。
「え? ちょっと……シンシリアよりあの不細工の方が強い――って赦されるの?」
 クラリスがギョッしてセリエを見下ろすと、彼女は渋い表情のまま頷いた。
「あいつ、アレでもマイセ大神殿の祭祀長なのよ。欲と野心と脂だけで、その地位まで上り詰めたわけじゃないわよ。悔しいけれど、魔法力だけなら魔法剣士に匹敵するわね」
 セリエが心底口惜しげに説明を述べる。
 その間にも、シンシリアとデメオラは魔法による激しい攻防を繰り広げていた。
 瞬く間に、パンデルク平原は放出される強大な魔法力によって妖しい気配に包まれた。
「セリエ様、クラリス! こちらへ――」
 近くからラザァの険しい声が飛んでくる。
 咄嗟にクラリスはセリエの腕を掴み、そちらへ向かって駆け出していた。
 シンシリアとデメオラの魔法戦は思いの外に激しい。余波を受ける危険がある。ラザァの傍を離れない方が賢明だ。
 クラリスがセリエと共に合流すると、ラザァは性急に何かの呪文を唱えた。
「結界を張ってくれたのよ」
 クラリスが疑問を発するより早く、セリエが簡潔に告げる。魔術に関しては本当に素人なので、説明してくれるのは有り難かった。
 ラザァの結界のおかげで、周囲の空気は魔法による光弾や魔風で荒れ狂っているというのに、クラリスたちのいる場所だけは静かだった。
「シンの――加勢には行ってくれないのですか?」
 ふと、マイトレイヤーが不安に顔を青ざめさせ、縋るようにラザァを見上げる。
 ラザァの首がゆるり横に振られる。
「それは……出来ません。マイセの祭祀長と魔法剣士の法術戦です。当然、凄まじい魔法力が放出されて、それがぶつかり合っています。外は膨大な魔法力の奔流――残念ながら、私でさえこの結界の維持だけで手一杯です」
 ラザァの薄い水色の双眸が遠くのシンシリアへと馳せられる。瞳の中には、口惜しさが見え隠れてしていた。彼とてシンシリアに助力したい気持ちは、マイトレイヤーと変わらないのだ。
 高度な魔法を会得している魔法剣士に淡々とそう告げられ、マイトレイヤーは口を噤むしかなかった。
 結界の外はシンシリアとデメオラの放った攻撃魔法で大荒れ――彼も魔術師であるからよく解る。加えて、長時間魔法を使い続けているラザァが、シンシリアを助けながら結界の維持も同時に行うことはかなりの負担だし、無理があるのも理解している。
 魔法戦は己の精神との闘いだ。
 精神統一を欠いてしまえば、どんなに凄腕の魔術師でも危機を招いてしまう……。
 クラリスは、兄とラザァの会話を横耳で聞きながら、シンシリアへと視線を戻した。
 外は、嵐の真っ只中にいるような有り様だ。
 距離を措いてデメオラと対峙するシンシリア。
 両者から生み出される攻撃魔法が衝突し、四散する。その度に爆風が荒れ狂うのだ。
 目を凝らして、シンシリアたちの姿を捕らえ――クラリスは眉根を寄せた。
「何、あの光……?」
 無意識に唇から疑問が零れ落ちた。
 クラリスの声に誘われるようにして、他の者たちも結界の外を注目する。
 デメオラの掌から如何にも妖しげな黒紫の放出され始めているのだ。
「……まさか、あれは――!?」
 真っ先にラザァが何かに気がついたようだった。
 端整な顔に驚愕の色が走る。
「いけない――シンッ! そいつに防御魔法は効かない! 空間を歪めて逃げろ、シン――シンシリアッッ!!」
 やにわにラザァが声を荒げる。常に物静かな雰囲気を纏っている彼にしては、珍しく取り乱していた……。
 ラザァの必死の叫びがシンシリアに届いたようには思えなかった。
 シンシリアは吹き荒ぶ魔法力の中、魅入られたかのようにデメオラの創り出す光の球に目を奪われている。
 黒紫の不吉な光は、デメオラの手を離れると真っ直ぐにシンシリアへと突き進んだ。
 不可思議なことに、ソレは爆発を引き起こすわけでも鮮血を飛び散らせるわけでもなく――恐ろしいほど静かにシンシリアの胸から体内へと吸い込まれていった。
 一拍の間を措き、シンシリアの身体がその場に崩れ落ちる。
 ただ、それだけだった――



もうすぐ終わりなのに、何だろう……このまったり感(滝汗)
10月中にはホントに完成させたいです(笑)←ああ、どんどん伸びてる……スミマセンッ(汗)

 にほんブログ村 小説ブログへ  
← NEXT
→ BACK
スポンサーサイト
2009.10.01 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。