ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「ねえ、《鏡月魔境》って――眠りを忘れるほど面白いゲームなの?」
 夏生が興味津々の体で訊ねる。
「あー、普通のオンラインゲームだと思うけど? 確か、《AYA》っていう人が製作したんじゃなかったかな……。ゲームの世界にはドラゴンとか妖精とか鬼とか人魚とか――とにかく、そういうファンタジックな種族がいて、国盗り合戦をしてるだけだよ」
「茜ちゃんのキャラは?」
「俺は海賊」
「海賊? 架空の種族だけじゃなくて人間もいるのね」
「人間も何種類かはいるみたいだな。――で、昨日は俺の船に《RYU》っていう吸血鬼が乗り込んできやがってさ、そいつと延々闘ってたわけだ。そいつ、ムカつくことに物凄く強いんだよ。何度リベンジしても勝てなくて、血を吸われまくったな……」
 ゲームの内容を反芻しているのか、茜が眉間に皺を寄せる。
「俺、プレイヤー名《SAKAKI》で遊んでるんだけど、あいつ出逢った瞬間に『こんばんわ、榊茜くん。やっと逢えたね』って話しかけてきたんだ。アレ、絶対知り合いだぜ。学校の奴らか会社の連中に決まってる。あー、思い出したらまたムカついてきた。次に遭遇したら、必ず叩きのめしてやる」
 茜が野菜ジュース片手に力説する。
 負けず嫌いの茜にとって、昨夜ゲーム内で起こった出来事は許せないものであるらしい。
「本当に知り合いで、偶然ゲームの中で出逢っただけならいいけどね」
 ふと、葵が表情を曇らせる。
 茜は眉間の皺を深めて、双子の兄を見遣った。
「どういう意味だよ? 何も心配することなんかないぜ」
「でも、その《RYU》って人は、茜に遭った時『やっと』と言ったんだよね? それって、ずっと茜を捜していた――ってことになるんじゃないのかな」
「俺が《鏡月魔境》愛好者なのを知ってる奴なら、プレイヤー名からすぐに勘づくんじゃないか? 俺、クラスメイトにはプレイしてるって明言してるし」
「……そうだね。考えすぎだね。今度、僕も参加してみるよ。話を聞いたら興味が湧いてきたな。何だか不思議なゲームみたいだし」
「だから、ただのオンラインゲームだって。――っと、そういえば不思議というか奇妙なことが一つだけあったな」
 野菜ジュースを一口呑み込んだ後、茜がフッと真顔になる。
「オープニングが暗闇なんだ。闇の中を金と銀の糸が舞っていてさ、そのうちに平安時代のお姫様みたいな格好をした《織姫》ってキャラクターが出て来るんだよ」
「へえ、闇に金銀に織姫ね。星空がモチーフだなんて素敵!」
 夏生は素直に感嘆した。幻想的なものを好む夏生の脳裏では、ゲーム画面がハリウッド映画並に壮大なスケールで展開されている。
「その織姫が『糸を紡ぎますか? 切りますか?』って訊いてくるわけだ」
「変わった質問だね。何の意図があるのかな?」
 葵が解せないように首を傾げる。
「さあ。意味が解らないから適当に『切ります』を選択したら、次は金銀どっちの糸を切るか訊いてくる。俺は金を選んだ。でもって、最後に扉が出現するんだ。そこでまた金と銀どちらの扉を選ぶか訊かれるわけだな」
「それも金を選んだんだね」
 単純明快な弟の性格を踏まえて、葵が微苦笑を湛える。
「もちろん。面倒なのは苦手だから同じ色で通す。選んだ扉を開けて《鏡月魔境》に足を踏み入れればゲームはスタート。織姫からの質問はプレイヤーの属性や能力を決定するためのものだろ。ただ、クラスの連中に訊いたら扉を選択するところまでは一緒だけど、開けた瞬間の織姫の台詞がちょっと違うみたいなんだな、俺……」
「茜ちゃんだけ特別なんて、何だか狡いわね」
「俺だけ最悪の属性かもしれないだろ? とにかく、クラスの奴らは『ようこそ、鏡月魔境へ』と笑顔で迎えられるらしいんだけど、俺は違った。……織姫は物凄く哀しそうな顔で俺が選んだ扉を開けたんだ。ゲームのキャラとは思えないほど、リアルな泣き笑いの表情だったな」
 茜の顔に翳りが射す。
 そんな弟を不安げに見つめながら、葵は先を促した。
「茜は彼女に何て言われたの?」
「お帰りなさい、鏡月魔境へ――」



     「二.羽」へ続く



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2009.10.03 / Top↑
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