ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 グスタクの東――ハザ地区に到着するのに、さほど長い時間は要しなかった。
 メイ・キリエが逃げ込んだ別荘が、レオンから近い場所にあることが幸いした。
 ――これならグラディスに追いつける。
 ユージンは焦る気持ちを落ち着かせるように、何度も何度も己に言い聞かせた。
 急ごうとするする意志に反して足の進みは遅い。
 力むあまりに不必要な筋肉まで酷使しているせいだ。
 解ってはいるが、心の焦りはなぜか拭えなかった。
 ハザ地区へと続く細長い一本道が、やけに長く――果てしなくさえ感じられる。
「ねえ、メイ家の別邸って、あれじゃない?」
 ポツポツと民家が見え始めたところで、レイジィが弾んだ声をあげた。
 彼女の指は道の上を真っ直ぐ差している。
 急峻なグスタク山を背景に広がる集落。
 簡素な民家の中に、一つだけ異彩を放っている屋敷があった。煉瓦造りの豪奢な二階建て建造物。広い敷地をぐるりと石塀が取り囲んでいる。
 明らかに庶民の住む家ではない。巨大な屋敷がグスタク領主メイ伯爵家の別荘であるのは間違いない。
「わざわざ住民に尋ねる必要はないみたいだな」
 ユージンは、真正面に立ちはだかる屋敷を険しい表情で見据えた。
 単身乗り込んだグラディスの安否が気に懸かる。
 彼がメイ・キリエと対面していないことを胸中で切に祈り、ユージンは地を踏み締める足に力を込めた。



 メイ家の別荘はひっそりと静まり返っていた。
 グラディスが忍び込んだことにより引き起こされたであろう騒動の形跡も、喧噪の名残も感じられない。
 それどころか見張りの者さえいない有り様だった。
 屋敷の窓にも人影らしきものは見えず、広大な庭にも警備兵の姿はない。
「やけに静かね」
 石塀を乗り越え、庭の隅に着地した直後、レイジィが硬い声を発する。大きな青い瞳は、胡散臭そうに周囲を探っていた。
「クシュカ族の姿も見えないな」
 ユージンは注意深く四方に視線を巡らせた。
 やはり人の気配があるようには思えない。
「グラディスがここに来ていない、ってことはないわよね?」
 レイジィの懸念たっぷりな眼差しがユージンへ向けられる。
「魔法剣士が言うんだから間違いなくキリエはここにアナンを拉致し、グラディスはアナンを助けるために侵入したはずなんだけどな。屋敷の前の通りには真新しい足跡があったし……キリエがこの屋敷を使ったことは疑う余地もないだろ」
「けれど、静かすぎるわ。キリはもうここを出ちゃったんじゃない? それとも、嵐の前の静けさって奴かしら?」
 不服げなレイジィの声。
 それに呼応するかのように、ユージンの視界の端を黒い影がよぎった。
「どうやら後者みたいだぜ」
 ユージンは表情を引き締め、サーベルを鞘から抜き払った。
 直後、頭上から漆黒の塊が降ってくる。
 ユージンは反射的に顔を上げた。
 陽光に照らされて、銀色の刃物がキラリと煌めく。
 それを確認するなりユージンは俊敏に地を蹴り、真横に跳んだ。
 レイジィも曲刀サーベルを手に取り、反対側へと跳ぶ。
 間を空けずに、一瞬前までユージンたちが立っていた地点に黒き塊が落ちてきた。
 漆黒の衣装に身を包んだクシュカ族の男だ。
 男の剣は地面に突き刺さっている。
 狙いを外したことに舌打ちを鳴らすと、男は素早く剣を抜き、ユージンへと向かってきた。
「呆れるぐらい高いところが好きな奴らだな!」
 ユージンは毒を吐きつつ、突進してくる男へ向けてサーベルを薙いだ。
 間一髪、男はユージンの攻撃をかわし、超人的な跳躍力で石塀の上へと逃れる。
 その間にも、頭上からは幾人ものクシュカ族たちが舞い降りてきていた。
 高所を得意とする彼らは、屋根の上からこちらの様子をしっかりと窺っていたらしい。
「ほんっと、しつこい連中よね」
 レイジィの大剣が唸りをあげる。
 しかし、男たちは優れた身体能力の活かして、彼女の剣を避けた。
 次々と漆黒の影が地上に降臨する。
 あっという間に敵の数は十人にも増えていた。
「レイジィ、さっさと蹴散らして屋敷に侵入するぞ!」
 ユージンは声高に叫び、屋敷へ向かって駆け出した。
 直ぐ様、敵が前方に立ちふさがる。
「この野郎っ! 退きやがれ!」
 ユージンは渾身の力を込めて剣を打ち下ろした。
 こんなところで時間を取られてはたまらない。
 今、こうしている間にもグラディスは一人キリエに立ち向かっているかもしれないのだ。
 しかし、最大限の力と速さで振り下ろしたユージンの剣を、クシュカ族は易々と弾き返してしまうのだ。
「くそっ!」
 ――昨日と同じ失態を繰り返してたまるか!
 ユージンはよろけながらも鋭く敵を睨みつけた。
 片手が地面に着いたところで歯を食いしばり、四肢に力を込める。
 地に着いた片手を支軸に下半身を捻り、思い切り蹴りを放ってやった。
 敵はユージンが不様に地に転がると予想して油断していたのだろう。脚にまともに蹴りを喰らって見事に転んだ。
「ざまあみやがれ!」
 思わずユージンは喜びの声を発していた。
 しかし、その喜びも束の間、男に次いでユージン自身も横転した。
 そこへ別の男が悪鬼のような形相で斬りかかってくる。
 ユージンは慌てて立ち上がった。男は眼前まで迫っている。
 ――殺られる!
 ユージンは目を瞠った。
 だが、不思議なことに男はユージンを目前にしてピタリと動きを止めた。
 刹那、男の首が胴から離れ、放物線を描いて地に転がる。
 僅かに遅れて、頭部を失った首から鮮血が噴き出す。
 男の胴体は血を噴射させながら、ゆっくりと地面に頽れた。



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2009.10.04 / Top↑
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