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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.10.04[09:59]
 突然の出来事に、ユージンは訳が解らず目をしばたたかせた。
 クシュカ族たちも首から血を流している仲間に恟然とした視線を注いでいる。
「早くも危機的状況に陥るとは情けない」
 不意に揶揄混じりの声が響く。
 ユージンは驚いて顔を横向けた。
 視界で真紅のマントが揺れる――魔法剣士ガレルだ。
 ガレルの右手には長剣が握られている。その尖端は血に濡れていた。
 彼が神業のような速さで敵の首を斬り飛ばしたのだ、という事実を呑み込むのにしばしの時間を要してしまった。
「な、何だよっ。近くにいたなら、もっと早く出て来いよ!」
 あまりの凄さに仰天し、ユージンは理不尽な叫びをあげた。
 ガレルが恐ろしいほど冷静な眼差しでユージンを一瞥する。
「自力で切り抜けなければ意味がないだろう。そう思って見守っていたが、おまえのあまりの不甲斐なさに静観する気も失せた。おまえが死んでも私の胸は痛まないが、実際に死んでもらっては困る。あの方との約束があるからな」
 淡々と言葉を紡ぎ、ガレルはクシュカ族の男たちを冷たい眼差しで見渡した。
 クシュカ族が畏怖したように息を詰め、顔を強張らせる。
「ガレルさん、あたし山猿って苦手なの!」
 唐突にレイジィが叫ぶ。
 ユージンはギョッとして彼女を見遣った。
 彼女の顔はガレルの出現を心から喜ぶように綻んでいる。
「だから、後は任せたわ!」
 至極勝手な言葉を残して、レイジィは手近な窓を目がけて跳躍した。
 体当たりで硝子を突き破り、そのまま屋敷の中へと消えてしまう。
 クシュカ族が魔法剣士の出現に意識を奪われている隙を衝いた、迅速な行動だった。
「魔法剣士である私をこき使う気とは……。あの娘もおまえも心底不貞不貞しいな。――まあ、いい。おまえも早く行け」
 溜息一つ落とし、ガレルが剣を一振りする。
 刀身を濡らす血を払拭すると、ガレルの姿はユージンの隣から消えた。
 未だ驚愕から抜け出ていないクシュカ族の前に、忽然と紅い影が現れる。
 男の一人が、剣で胴を真っ二つにされて絶息する。
 同時に、ガレルの左手が別の男に向けられた。彼に触れられた途端、男が見えない力に弾き飛ばされ、屋敷の外壁に衝突する。
 ガレルは剣を繰り出すのと平行して、魔術をも自由自在に駆使しているのだ。
「すっげぇ……。敵じゃなくてよかった」
「何をしている。早く行け!」
 神速のような剣技でクシュカ族を斃しながら、ガレルが叱咤を飛ばす。
 ユージンは慌てて我に返った。
 魔法剣士の凄まじさに呆気に取られている暇はない。
 ユージンは気を引き締め直すと駆け出した。
「ありがとなっ!」
 ガレルに感謝の言葉を投げ、ユージンはレイジィが突き破った窓へと身を躍らせた。
 勢いよく屋敷の中に飛び込む。
 レイジィが豪快に破壊した硝子片が、着地した足の下で小気味よい音を立てた。
「ユージン、急いで! 手当たり次第に捜すわよ」
 部屋の出入口で、レイジィが待っていた。
 ユージンが後に続くことを微塵も疑っていなかったらしい。
 ユージンは一つ頷くと、軽快にレイジィの元と駆けつけた。
 彼女とともに部屋を飛び出す。
 細長い廊下に出た。
 廊下の両脇には、幾つもの扉が並んでいる。
 アナンとグラディスを発見するには、虱潰しに部屋の扉を開けていかなければならない。
 ユージンは廊下の右側に並ぶ扉の一つへと向かった。
 それを見て、レイジィが素早く左側の扉へと歩み寄る。
 ユージンはもどかしい気持ちを胸に抱きながら、扉の把手に手を伸ばした。



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