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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2009.10.04[10:03]
 息を呑む気配がした。
 メイ家別邸の一階――廊下の突き当たりまで辿り着いた時のことだった。
 これまで確認した部屋は、全て空振りに終わった。
 一階で残すところは、突き当たりの左右二つの部屋だけだった。
 ――どうせ、ここも空だろう。
 ユージンは半ば諦め気分で右の扉を開けた。
 結果、室内にはやはり人影はなかった。
 しかし、ユージンが落胆の溜息を落とした瞬間、背後でレイジィがハッと息を呑んだのだ。
 彼女の全身を縛った緊張感が、空気を介してユージンにも伝わってきた。
「どうした?」
 訝しさに顔をしかめ、レイジィを振り返る。
 彼女は扉に手をかけたまま凝固していた。
 彼女の傍らに移動し、その横顔を一瞥する。
 レイジィは双眸を大きく見開き、前方を見つめていた。顔はひどく青ざめている。
「嘘よ……」
 喉の奥から絞り出したような声がレイジィの唇から洩れる。
「オイ――」
 ユージンはますます怪訝に思い、レイジィの肩を掴んだ。
 転瞬、レイジィの身体が大きく震えた。
 鋭い眼差しがユージンを見上げ、すぐにまた扉へと戻される。
「嘘よ……。何かの間違い――見間違いだわ!」
 やにわにレイジィは声を荒げた。
 物凄い勢いで開けたばかりの扉を閉める。
「何か見つけたのか? 退けよ。俺が見てやる」
 ユージンはレイジィを脇に押し退けた。
 レイジィの様子はあからさまにおかしい。
 彼女がこんなにも取り乱すなんて、今まで一度としてなかった。
 この部屋の中に何か異変を発見したのは間違いないだろう。
 ユージンが把手に手をかけると、レイジィは慌てたようにその手を掴んだ。
「駄目! 開けないで、ユージン!」
 レイジィが金切り声で制する。
 彼女の声音には恐怖が織り込まれていた。
 だが、ユージンは彼女の言葉を無視して、把手を握る手に力を加えた。
 レイジィがそれほどまでに動揺するものを確かめずにはいられなかった。
 レイジィに手首を掴まれたまま、強引に扉を押し開ける。
 室内を眺めた。
 真っ先に視界に飛び込んできたのは、鮮やかな赤だった。
 部屋の中央に真紅の染みが広がっている。
 その中に、長い髪を散らして横たわっている人間が見えた。
 壊れた人形のように、人影はピクリとも動かない。
 ――あれは……何だ?
 その凄惨な光景を目の当たりにした途端、ユージンの思考は凍りついた。
 今、目にしているものが信じられない――信じたくない。
 ユージンは悚然とその場に立ち竦んだ。
 全身からサーッと血の気が引く。
 我知らず、唇が震えた。
「なあ、レイジィ。あれは……何だ? 何に見える?」
 泣き笑いの表情でレイジィを見遣る。
 彼女は質問には答えず、やり切れないような表情を浮かべると顔を逸らしてしまった。
「俺には……グラディスに見える」
 ユージンは、自分のものとは到底思えない嗄れた声が口から洩れるのを聞いた。



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