ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 温かい。
 レイジィは、他人の体温をひどく身近に感じて目を醒ました。
 瞼を開けた瞬間、視界にユージンの顔が飛び込んでくる。彼は上半身を起こした状態で、レイジィの顔を覗き込んでいた。
 驚きのあまり口から出かけた欠伸が喉の奥に引っ込み、目が点になった。
「他人の寝顔を観察するなんて、悪趣味ね」
「いや、盛大な鼾をかきながら熟睡してるから、起こすのも悪いかなと思って」
 ユージンの顔に意地悪な笑みが浮かぶ。
 レイジィが文句を投げつける前に、彼は素早くレイジィの額に口づけし、寝台から滑り降りてしまった。羞恥に顔を赤らめるレイジィを余所に窓際へ移動し、遮光布を開け放つ。
 眩い光が窓から射し込んできた――もう朝なのだ。
 昨夜、歌い疲れたレイジィはユージンの傍でうとうとしていた。結局そのまま眠りに落ち、朝まで熟睡してしまったらしい。
「おっ、いい天気だな。朝飯食ったら、さっさと出発しようぜ」
 窓の外を眺め、ユージンが快活な口調で告げる。
 その横顔から疲労の影が消失しているのを見て、レイジィは目をしばたたかせた。明るい声音から体調が回復していることも窺える。ユージンを苛んでいた高熱は、すっかり身を潜めてしまったようだ。
「具合は大丈夫なの?」
「腹が減ってるだけで、あとは何ともない。レイジィのおかげだな。星守人が歌う唄には、魔法が織り交ぜられてるんじゃないのか? 発熱してたのが嘘のように身体が軽い」
 振り返ったユージンの顔には、晴れやかな笑みが刻まれてみた。
 昨夜、悪夢にうなされていた人間と同一人物だとは思えない。
 まるで憑き物が落ちたような清々しさだ。
「さてと、飯の前に風呂でも入ってくるかな。汗まみれで気持ち悪いし」
 ユージンが己の全身を見回し、微かに眉をひそめる。
 そうかと思うと、彼は急に上着を脱ぎ始めるのだ。
「脱ぐのはお風呂場に行ってからにしてよ」
 レイジィが非難の眼差しを浴びせると、ユージンはふと動きを止めた。
「悪い。ついグラディスと一緒にいる時の癖で――」
 そこまで言って、彼は自嘲気味に唇を歪めた。
 脱いだばかりの上着を片手に持ち、レイジィの視線を遮るように室内を横切る。
 レイジィは渋い表情で、上半身裸のユージンを見遣った。
 まだ完全に乗り越えたわけでも、吹っ切ったわけでもないのだ。
 友人を酷い目に遭わせてしまった現実に、彼の心は深く傷ついている。
 今もなお痛みを発し続けているのだ。
 ――大丈夫。ユージンはきっと立ち直る。彼はこれからもっと強くなるわ。
 レイジィは自分自身に言い聞かせるように胸中で呟いた。
 目は相変わらずユージンを追っている。無意識に引き締まった上半身に目がいく。
 ユージンが扉の把手に手をかけたところで、不意にレイジィは身を強張らせた。
 ユージンの背中に見てはならないものを発見した。
「待って、ユージン!」
 思わず、悲鳴のような叫びが口から迸った。
「何だよ? 一緒に風呂に入りたいのか?」
 ユージンが首だけでこちらを振り返る。
「馬鹿ね、そんなんじゃないわよ!」
 レイジィは寝台から身を起こした。ユージンの背を食い入るように見つめる。
 やはり見間違いではない。肩胛骨の間に小さな痣が浮かび上がっている。
 それは見慣れた形――八つの頂点を持つ星形をしていた。
 確認した瞬間、落雷にでも遭ったような衝撃が全身を駆け巡った。
「その、背中の痣は何?」
 レイジィは愕然と質問を繰り出した。
 なぜ、自分の右手に刻まれているのと同じものが彼の背中にあるのか不思議でならなかった。
 それは、在ってはならないものだ。
 シアの玉座を目指すユージンに刻印されていてはいけないものだ。
 それは星神セラに選ばれし星守人の証――星刻に相違ないのだから。
「痣……? 背中に痣なんかあったっけ? 自分の背中なんて見たことないからな」
 ユージンが訝しげに首を捻る。
 レイジィはいてもたってもいられなくなって寝台を飛び降りた。
 ユージンに駆け寄り、その背に刻まれた八芒星をしげしげと眺める。
 ユージン自身は、今までその存在を知らなかったらしい。
 レイジィにも、それが生来のものなのかは判別がつかなかった。もしかしたらアナンに触れた時、《神の眼》に触発されて眠っていたものが覚醒したのかもしれない。
 何にせよ、星刻があるということは、彼が星守人である紛れもない証拠だ。
 レイジィは恐る恐る右手を伸ばし、ユージンの星刻にそっと己の星刻を重ねてみた。
「うわっ!」
 ユージンが短い叫びをあげ、飛び退く。
「何するんだよっ? 今、星刻から氣を発しただろ!」
 ユージンがムッとしたようにレイジィを見下ろす。
 レイジィは己が右手を見つめた。
 星刻は輝きを発してはいない。
「あたしは何もしてないわよ」
 レイジィはユージンの眼前に右手を突き出した。
 それを見て、ユージンが眉根を寄せる。
「あたしの星刻に反応したのはユージンの方よ。――ねえ、あなた、本当にミラ・ユリスの子供じゃないの?」
 レイジィは泣きたい衝動をグッと堪え、ユージンを見上げた。
 アナンの発した質問が脳裏に甦る。
 星を感じる能力に長けたアナンは、いち早くユージンから発せられる星の輝きに疑問を抱いたのだろう。ユージンの裡から発せられる輝きを王気と誤解してしまったかもしれない、と危惧したのだ。
 だから、アナンはあんなにも真剣に彼に問いかけた。
 星守人ミラ・ユリスの血を引いてはいないのか、と……。
「それは……どういうことだよ?」
「あなたの背中には、あたしと同じ――星刻があるの。怒らないで聞いて。あなたはシアの王にはなれないわ」
 言い終えた瞬間、ユージンの顔が凍りついた。



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2009.10.08 / Top↑
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