ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ユージンの驚愕の眼差しがレイジィに注がれる。
「男性の星守人が生まれることは稀にあるの。あなたの身体には間違いなく星刻があるわ。つまり、あなたはあたしと同じ星守人。国王の星を護るためにセラに選ばれた番人なの。だから、決して王にはなれないわ」
 ユージンの視線が自分を責めているように感じられて、レイジィは矢継ぎ早に言葉を連ねた。
「あなたが触れても、国王の星は輝かない。あたしたちは星を護るための力をセラから与えられているけど、輝きを失った星に再び光を宿す力は与えられていないのよ」
「星守人には国王の星を輝かす力はない、ってことか」
 ユージンが渋面で呟く。
 しかし、彼の表情から驚きの色は消えていた。ひどく落ち着いているようにさえ見える。
「あまり驚かないのね?」
「昨日、アナンに訊かれた時から薄々気づいてたからな。もしかしたら、星守人の血を引く人間は王にはなれないんじゃないか――って。アナンは俺が星守人の血を引いていると思ったから、あんな質問をしたんだろ?」
 ユージンが困ったように肩を竦めてみせる。
「まさか、俺自身も星守人として生まれていたなんてな……。当然ミラ・ユリスは俺の星刻に気づいてたよな。けど、敢えて俺には内緒にしてたわけだ」
「やっぱり、あなたはユリスの息子なの?」
 さらりと重大発言をするユージンに詰め寄り、レイジィは声高に疑問を発した。
「アナンに嘘をついたの?」
「いや、それは違う。訊かれたことに対しては、ちゃんと真実を述べた」
 レイジィの剣幕にたじろいだようにユージンが一歩後ずさり、苦笑を湛える。
「ミラ・ユリスは確実に俺の母親じゃない。ただ、生みの母親も星守人だったんだ」
「実の母親も星守人……? どうして、そんな大事なことを黙ってたのよ?」
「事実を話せば、セラ大神殿中の星守人が仰天するからだよ」
 ユージンが暴露してしまおうかどうか思案するように視線を宙に泳がせる。
 レイジィは双眸に力を込めて彼を見据え、先を促した。
 観念したようにユージンが溜息を落とす。
 その口の端が皮肉げな笑みを刻んだ。
「俺を生んだ母親は――ミラ・ディータだ」
「ミラ・ディータ?」
 レイジィは茫然としながら鸚鵡返しに呟いた。
 ミラ・ディータ――先代星守姫。
 確かに、それは全ての星守人に驚愕を与える事実だ。
 星神セラに一生を捧げるはずの星守人――しかも、その長たる星守姫が子供を生んでいたとは俄には信じられない。
「神殿ではどう伝わってるのか知らないけど、子供を身籠もったのはユリスじゃない。姉のディータの方なんだ」
「……真実なの?」
 アナンから聞いた話では、子供を身籠もったのはユリスだった。
 しかし、その噂自体が間違っているとユージンは言っているのだ。
「ユリスがそう言ったんだから間違いないだろ。子供を宿したのはディータだ。彼女は病弱なことを理由に《星守の間》に引きこもり、密かに子供を出産した。――で、姉の名誉を護るためにユリスは妊娠したのは自分だと偽り、生まれたばかりの赤ん坊を連れて神殿を出たんだとさ。その赤ん坊が――俺だ」
 一息に語り、ユージンは自嘲気味に唇を歪める。
 ミラ・ディータは身体が弱く、妹が失踪する数ヶ月前から人前に姿を現さなくなった、とアナンは言っていた……。
 しかも、失踪した妹の捜索を早々に切り上げているらしい。それは、妹と腹を痛めて生んだ我が子を無事に逃がすためだったとも考えられる。
 ――ユージンの語ることは全て事実なのね。
 レイジィは思いがけぬ展開に困惑していた。
 ディータが母親でもユリスが母親でも、ユージンが星守人の血を受け継いでいるのは事実。彼は、星守人としての証である星刻を持つ者だ。
 ユージンがシアの王になれる確率は皆無と化した。
 先代星守姫が出産していたことよりも、そちらの方がレイジィにとっては衝撃的だった。
「昔、大神殿で何が起こったの? どうしてディータは自害したの?」
「それは、今の星守姫が知ってるんじゃないか?」
「ファ・ルシア? 確かに彼女ならアナンより年上だし、色々知ってるとは思うけど……」
「大神殿に行けば、いずれ答が出ることだろ。今は余計なことで悩むなよ。俺たちはキリエに追いつかなきゃならないんだからさ」
 ユージンがやけに明快な口調で宣告する。
 レイジィはハッと目を見開いた。驚きの眼差しでユージンを見上げる。
「王になれないことが解ってるのに、まだ神殿に行く気なの?」
「セラ大神殿に行くまでは決して諦めない――それがグラディスとの約束だ」
 躊躇の欠片もなく、ユージンが笑顔を見せる。
「それに、キリエが王になるってのも癪だ。グラディスを殺した男が王位に就くなんて許せないだろ。あいつが王になるなんて、絶対に俺は認めない」
 ユージンが笑みを浮かべたまま告げる。しかし、その双眸は少しも笑ってはいなかった。
 彼は本気でキリエの野望を阻止しようとしているのだ。また、そうすることで友人を傷つけられた恨みを晴らそうとしているのだろう。
「もう一つ、大神殿に行きたい理由がある。星守姫に逢ってみたいんだ」
「ファ・ルシアに逢ってどうするの?」
「俺はディータの息子だ。俺がこの世に生まれることになった経緯を訊く権利があるだろ」
 ユージンが淡々と述べる。
 前々から考えていたことなのだろう。彼は己の出生の謎を解くためにも、シアの玉座を目指そうと思い立ったのかもしれない。
「ああ、最後にもう一つ――玉座を狙ってた俺が言うのもなんだけど、急にシアって国が気に食わなくなった」
 険しく眉根を寄せるユージンを、レイジィは不思議な気持ちで見上げた。
 言葉の意味を掴み損ねたせいもあるが、語るユージンの表情がいつになく大人びて見えたのだ。
「星一つに振り回される、この国の在り方が気に食わない。星ってのは、ただの石ころだろ? そんなものに、国王や星守人――全ての民が翻弄されるなんておかしいだろ。たかが石一つのために星戦が起こり、多くの人間が血を流し、無関係な人間が巻き添えになって死ぬなんて絶対おかしい。この国は、星神との関わりを見つめ直すべきなんだ」
「要は、根底から改めろ、ってことね……。随分と難しいことを考えるようになったのね」
 レイジィは感嘆と称讃を込めて言葉を紡いだ。
 無知で無謀な少年だと思っていたが、実は色々なことに対して真剣に思考を巡らせていたらしい。
「馬鹿は馬鹿なりに考えてんだよ」
 ユージンが拗ねたように唇を尖らせる。
 それから、彼はふっと苦笑いを浮かべた。
「シアの王になるって決めた時、グラディスに言われたんだ。シアは異常だ。シアに行くのは無謀で無意味な自殺行為だ、って……。あいつ、珍しく本気で怒ったんだ。本当はさ、あいつの忠告に耳を傾けて、シアの玉座を諦めるべきだったんだ。けど、俺はあいつの反対を押し切ってシアに入った」
 ユージンが痛ましげに顔を歪ませる。
「俺は自分の意志でシアに入った。自分で決めたことなんだ。進んで関わったからには、星戦の異常さを見て見ぬ振りをするなんてできないだろ? 途中で投げ出すことは、俺を信じて一緒に来てくれたグラディスを裏切ることにもなる」
 ユージンの言葉は力強い。
 そこには彼の決意がありありと滲んでいた。
「解った。神殿まで案内するわ」
 レイジィの顔には自然と笑みが広がっていた。
 こんなにもユージンが頼もしく見えたのは初めてだ。
「あたしね、国王の星が墜ちた時『星戦なんて冗談じゃない』って本気で思ったの。星一つで国中が大騒ぎするなんて、おかしいもの。ユージンと同じ考えなのかもね。星なんかなくても、星守人なんかいなくても――民は生きていけるわ」
 レイジィは星守人らしからぬ発言をし、ユージンに満面の笑みを向けた。
「神頼みは、もうお終い。やっぱり、自分の人生は自分の手で切り開かないとね」
「同感。――じゃ、行くか、セラ大神殿へ」
 ユージンが逡巡の欠片もなく微笑み返してくる。
 レイジィは彼の視線を正面から受け止め、力強く頷いた。
 ――今、あたしとユージンは同じことを考えている。
 不思議とそんな確信が湧いてきた。
 自分たちは、これまで誰も成し遂げようとしなかったことを実行しようとしているのだ。
 レイジィの心は自然と昂揚した。
 言い表しようのない期待と緊張が胸に溢れてくる。
 ユージンもきっと同じ心境だろう。
 二人が選択し、決断した道――それは星神セラへの叛逆に他ならないのだから。



     「星守姫の子守唄」へ続く



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2009.10.08 / Top↑
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