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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Fri
2009.10.09[08:59]
星守姫の子守唄



 冴え冴えとした秋の夜空は、色とりどりの星辰で埋め尽くされていた。
 星神の都を祝福するように無数の星々が煌めいている。
 ユージンは天を仰ぎ、瞬く星の群れを見つめていた。
 宝石を散りばめたような星空は文句なしに美しい。
 だが美しいがゆえに、どこか冷淡にも感じられる。
 決して人の手が届かぬ高みから星々は人界を眺めている。天空から星神の都を観察し、そこに住む人々を支配しようというように。それが星神セラの意志であるかのように……。
「これがセラ大神殿よ」
 隣でレイジィが無感情に告げる。
 ユージンは天から視線を引き剥がし、地上へと目を向けた。
 目の前には、王都セラシアの街並みが広がっている。
 ようやく最終目的地へ到着したのだ。
 無数の篝火に照らされて、セラ大神殿はその異容を誇示していた。
 荘厳な白亜の神殿。中央から突き出た高い尖塔が一際目立つ。
 天へと向かって伸びる塔は、国内で最も高い建造物だった。
 建物十階分に相当する高さがあるだろう。右隣に建つ王城――三階建てのアデンダ城がひどく小さく見えた。
「凄いな。あれが《星守の塔》か」
「あそこの天辺が、国王の星が祀られている《星守の間》よ。神殿が王城より高いなんて、他の国では有り得ないわよね」
 レイジィが皮肉げに言葉を吐き出す。
 王城より神殿が立派な国など、大陸中どこを探してもシアしかないだろう。
 通常であれば、国の主が住まう王城こそが国内で最も高い建造物になる。
「ここは星神の都なの。国王よりもセラ大神殿の方が強い力を持ってるのよ。セラから賜った星を祀る場所は、どこよりも天に――星空に近くなくてはならないの」
「なるほどね。国の要は、城より神殿ってわけだ」
 ユージンはチラと王城に視線を馳せた。
 一ヶ月前までギュネイ・セラシアが君臨していた場所だ。
 城は、神殿同様いくつもの松明に照らされている。
 ギュネイの城であった建物を目の当たりにした途端、ユージンの胸は鈍い疼きを発した。
 ギュネイに対する憎悪が心の深奥から迫り上がってくる。
 ギュネイ・セラシアに対する怒りと憎しみ――それこそが星神の都を目指す動機となったものだ。
 当初の目的を思い出し、ユージンは改めて心を引き締めた。
 ついに自分はセラ大神殿まで辿り着いたのだ。
「行きましょう、ユージン。メイ・キリエは既に到着してるかもしれないわ」
 緊張感を孕んだ声音でレイジィが促し、神殿へと歩き始める。
 ユージンは無言で彼女に従った。片手が無意識にグラディスのレイピアに伸び、その柄を握り締めた。
 レイジィは壮麗な大神殿に向かって、躊躇することなく大股に進んでゆく。
 神殿の正面――大階段の両脇にはそれぞれ門番が立っていた。
「おや、ラナ・レイジィ殿。お帰りになられたのですね」
 門番の一人がレイジィに気づき、にこやかに声をかけてくる。
 レイジィは片手を挙げて挨拶を返し、階段へと足を伸ばした。
 途端、門番が訝しげに問いかけてくる。
「イル・アナン殿は?」
「体調を崩してしまったから、ファーゴで休養中よ。あたしだけが先に戻ってきたの」
「では、そちらの少年は――」
 門番の探るような視線がユージンに向けられる。
「この人は新王候補よ」
 いけしゃあしゃあと嘘を吐き、レイジィはユージンの手を引いて階段を昇り始めた。
 門番はもう何も尋ねてこない。星守人であるレイジィの言葉を頭から信じているのだろう。
 門番の好奇心に満ちた視線を背に感じながらも、ユージンは努めて冷静を装い、長い階段を進んだ。
 時折、火のはぜる音が耳を掠める。
 ふと顔を上げると、美しい彫刻の施された白亜の建物が眼前に迫っていた。
 神殿の入口は巨大な篝火に彩られ、煌々と輝いている。
 入口の向こう側は星神の領域だ。
 未知の世界に対する興味と畏怖に、我知らず心臓が跳ね上がる。
 ユージンは高鳴る鼓動に負けじと、階段を踏み締める足に力を込めた。


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