ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 延々と続くかに思えた螺旋階段がようやく終わりを告げた。
《星守の塔》内部――螺旋状に巡らされた階段を、ユージンとレイジィは無言で昇り続けてきたのだ。
 天へ届くように造られた塔の最上階まで達するには、結構な時間と体力を要した。
 昇り始めた時には果てがないように感じられた螺旋階段が途切れた瞬間、ユージンは安堵の息を吐き出していた。
 階段の終着点は石造りの小さな踊り場になっていた。
 踊り場を取り囲む壁のうち、一面だけに両開きの鉄扉が設えられている。
 扉にはセラを表す八芒星が刻まれていた。
 扉の先が《星守の間》であることは容易く想像できる。
「それじゃあ、行きますか」
 レイジィが緊張を解すかのように明るい声音で告げ、前へ進み出た。
 見た目にも重々しい鉄扉の把手に両手をかけると、彼女は迷わずにそれを押した。
 軋みをあげながら扉が左右に開かれる。
 室内の明かりが踊り場に射し込んだ。
 ユージンはその眩さに目を細めた。
 一度深呼吸してから、開け放たれた入口をくぐる。
「ラナ・レイジィ!」
「おまえたちは――」
 室内に足を踏み入れた瞬間、驚愕を孕んだ二対の眼差しがユージンたちに向けられた。



《星守の間》は想像していたよりも小さく、そして簡素な様相を呈していた。
 石造りの広間の中央に、円状の祭壇があるだけの殺風景な部屋だ。
 ユージンは《星守の間》を軽く見回した。
 壁に取りつけられた無数の燭台と中央祭壇以外は、特別興味を引くものはない。
 祭壇の縁には、そこに上がるための短い階段が取りつけられている。
 階段の先――祭壇の中心部からは八角形の高い台座が突き出していた。
 台座の上には、掌ほどの大きさの無色透明な石が一つ転がっている。
 正八面体のそれが、国王の《星》と呼ばれるものなのだろう。
 輝きを失っているせいか、星からは神の威光らしきものは微塵も感じられない。
 実際に星を目の当たりにしても、ユージンは何の感動も覚えなかった。
 墜ちた星は神聖さの欠片もなく、石ころにしか見えない。
「お帰りなさい、ラナ・レイジィ」
 穏やかな女性の声がレイジィの名を呼んだ。
 その声にユージンはハッと我に返り、祭壇から視線を外した。
 祭壇の脇に、二人の人物が佇んでいる。
 一人は新王候補メイ・キリエ。彼は双眸に冷光を宿し、こちらを睨めつけていた。
 もう一人は、豊かな金髪と同じ色の瞳を持つ美しい女性だった。
 レイジィの名を口ずさんだ彼女こそが、星守姫ファ・ルシアに違いない。
「そちらの方も新王候補なのですか?」
 ルシアが一歩前に進み出る。黄金色に輝く双眸がユージンに向けられた。
 ユージンはその優雅な姿を挑むような眼差しで見返した。
 前国王ギュネイ・セラシアの愛娘。
 それだけの理由で、ユージンはルシアに対して嫌悪を抱いていた。
 しかし、目前の女性は慈愛の笑みを浮かべてユージンを見ている。彼女からギュネイの姿を想像することは困難だった。
「ちょっと前までは新王候補だったけど、残念ながら違うってことが判明しちゃったわ」
 レイジィがおどけた口調で言い、ヒョイと肩を聳やかす。
 それを受けて、ルシアが微かに眉根を寄せた。
「新王候補ではない方を神聖な《星守の間》へ連れてきたのですか?」
「成り行きよ、成り行き。仕方ないでしょう。メイ・キリエを王にするわけにはいかないんだから。彼を新王にさせたくないのよ」
 星守人の長たる星守姫に対して、レイジィは物怖じした様子もなく言い返す。
「おまえたちは私を阻止するために、ここまでやって来たのか?」
 メイ・キリエが冷笑を浮かべる。自信と余裕を感じさせる笑みだ。
 彼は、自分が王に選ばれることを信じて疑っていないのだろう。
「悪いけど、あんたが王になるなんて認めない。グラディスを殺したあんたが王になるなんて許せない。グラディスは新王候補じゃなかったのに、あんたはあいつの生命を奪った」
 ユージンは敵愾心の漲る眼差しをキリエへと投げた。
 グラディスが魔法剣士によって生き返った点は告げるつもりはない。教えたところで、今更キリエが喜ぶとも改心するとも思えない。
「あの男は新王候補ではなかったのか……。だが、それは私には関係ないことだ。自ら新王候補だと騙ったのは、あの男の方だからな。非難される所以はない」
 キリエは平然と告げ、ユージンの存在を無視するようにルシアに視線を向けた。
「ファ・ルシア。儀式を始めてくれないか」
「駄目よ、ルシア。そいつは冷酷な男よ。国を善き方向へと導く王になれるとは思えないわ」
 すかさずレイジィが制止の声をあげる。
「ですが、この方は間違いなく星の輝きを秘めた者。王気を持つ新王候補です。それに新王を選定するのは、わたくしではなくセラなのです」
 ルシアが戸惑ったようにキリエとレイジィを交互に見遣る。
「わたくしは、星守姫として星戦の掟に則り、この方が新王であるかどうかを見定めなければなりません。メイ・キリエには星に触れてみる権利があるのです」
「国王の星に、そいつを触れさせるな」
 ユージンは意を決して祭壇へと進み出た。
 キリエを睨み据えながら、素早くサーベルを抜き払う。
 それを見てルシアが驚きに目を丸め、キリエが鬱陶しげに舌打ちを鳴らした。
「星神の聖域で、剣を抜くのですか?」
 咎めるようなルシアの視線がユージンを射る。
「あんたがキリエを新王候補として認めるなら、力ずくでキリエの行動を制するしかないだろ。星には、誰一人として触れさせない」
 ユージンは決然と宣言した。
 見る間にルシアの端麗の顔が怒りにしかめられてゆく。
「何故、そのようなことを主張するのです? あなたは新王候補ですらないというのに……。厚かましくも《星守の間》に昇ってきた闖入者――不逞の輩なのです」
「構うな、星守姫。あんな小僧などすぐに追い出してやる。誰にも私の邪魔はさせぬ」
 キリエがルシアを押し退けるようにして前に出る。
 彼が剣を手に取るのを、ユージンはひどく冷静に眺めていた。
「メイ・キリエ、ここで剣を抜くのは控えて下さい。そちらのあなたも、すぐにここから退出して下さい」
 ルシアの懇願混じりの声が広間に響く。
「ユージンを止めるのは無理よ。あたしもキリエが王になるなんて認めないわ。だから、気持ちはユージンと同じなの」
 レイジィが毅然とした面持ちでルシアを見、背中の曲刀サーベルを鮮やかに鞘から抜く。
「ユージン……?」
 不意にルシアの双眸が大きく瞠られた。
 彼女はレイジィの行動を窘めるよりも、他のことに気を奪われているようだった。
 ユージンはルシアの異変を敢えて無視し、剣を構えた。
 正面でキリエも攻撃の態勢を整える。
「俺はあんたを許さない。あんたが王になるなんて認めない」
 ユージンが跳躍の姿勢をとった瞬間、
「お止しなさい、ユージン!」
 切羽詰まったルシアの叫びが谺した。
 ルシアが黄金の髪を靡かせて、キリエとユージンの間に立ちはだかる。
 彼女の思わぬ行動に、ユージンもキリエも動きを止めた。
「あなたはミラ・ユージンなのですね?」
 ルシアの神々しい双眸がユージンを見つめる。
 その顔は痛ましげに歪められていた。
「あなたは、わたくしに用があるのではないですか? ミラ・ユージン――わたくしの弟よ」
 ルシアの形の良い唇から囁くような声が滑り落ちる。
 その一言は《星守の間》に奇妙な静寂をもたらした。



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2009.10.10 / Top↑
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