ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 石造りの広間に、甲高い金属音が鳴り響いた。
 剣と剣がぶつかり合い、火花を散らす。
 ユージンとキリエが祭壇の前で剣を交えていた。
 その光景を目の当たりにした瞬間、レイジィは慌てて我に返った。過去にこの神殿で起こった悲劇に心を悩ませている場合ではない。
 前国王と先代星守姫に纏わる話は、確かに衝撃的だった。
 だが、それはキリエが述べたようにレイジィにとっても他人事だ。
 ユージンには申し訳ないが、星守人を辞めたいと願っているレイジィにしてみれば希望が湧いてくる話でさえあった。

 星刻は消えるのだ。

 消すことは可能なのだ。
 星守人にあるまじき行為をすれば、必ず星刻は消える。
 そして、自分がこれから行おうとすることは、紛れもなくセラに対する叛逆だった。
「やっと呪縛が解けるのね。俄然、勇気が湧いてきたわ」
 レイジィは唇に弧を描かせ、曲刀サーベルの柄を両の手でしっかりと握り締めた。
 チラとユージンに視線を流す。
 彼は先日の間抜け振りが嘘のように、果敢にキリエに挑んでいた。必死で戦っている。その姿が妙に頼もしく見えた。
 ――すぐに終わらせるから、頑張ってね!
 胸中でユージンに励ましの言葉を贈り、レイジィは彼の期待に応えるべく駆け出した。
 キリエはクシュカ族を従えるほどの力量の持ち主だ。
 いくら負けん気の強いユージンでも、長時間彼を引き止めておくことはできないだろう。
 何より、ユージンにグラディスの二の舞を演じさせるわけにはいかない。
 一刻も早く、星を破砕しなければならない。
 レイジィは祭壇を目指してひた走った。
 さほど広くはない室内だ。すぐに円状の祭壇に到着する。
 そのまま一気に階段を駆け昇ろうとしたところで、
「お止しなさい!」
 ファ・ルシアの悲鳴のような叫びが響いた。
 同時に、片腕が引っ張られる。
 思わず足を止め、首を振り向かせると、腕にルシアの白い手が絡みついていた。ルシアは細い四肢に懸命に力を込め、レイジィを阻止しようとしている。
「放して! 星はなくなるべきなのよ」
「星守人であるのにセラに背くのですか!?」
 ルシアが負けじと言い返してくる。
 黄金色の瞳が怒りと恐怖に爛々と輝いている。美しいが、どこか狂気と逼迫感を感じさせる輝きだった。
「ごめんなさい。あたし、もう星守人であることを辞めたの。ずっと……もう随分昔から、星守人であることに嫌気が差し、それに耐えられなくなってたの。だから、あたしは星を壊すわ。星を破壊して、ユージンと一緒に外の世界に飛び出すのよ」
 レイジィは真っ向からルシアと視線をかち合わせ、一片の逡巡もなく宣言した。
 ルシアの顔に苦悶の影がよぎる。
 哀しみと怒りが相俟って、彼女の端麗な顔を歪めた。
「わたくしは星守姫として星を護らなければなりません。ディータ様と同じく、わたくしも星なくしては生きられない星守姫なのです。それ以外の生き方などできない人間なのです。そのわたくしから星を奪うことなど断じて許しません」
 ルシアが必死に言葉を紡ぐ。
 その間に、彼女の顔色は青ざめたものから赤味がかったものへと変貌を遂げた。
 哀しみや恐怖よりも、星を失ってしまうことへの憤怒が勝ったのだろう。
 その証拠に、彼女の額に印された星刻が黄金色に輝きだした。
「星なんてなくても生きていけるわ。そう思ってるのは、あたしだけじゃないのよ。アナンは《神の眼》を捨てたわ」
「イル・アナンが――!?」
 ルシアが驚愕に目を瞠る。
 彼女は怯んだように後ずさった。
 同胞の裏切りとも言える行為に、ひどく衝撃を受けているようだった。
 僅か一瞬、レイジィを掴む手の力が緩んだ。
 その隙を見逃さずに、レイジィは力任せに彼女を振り払った。
 ルシアがよろめき、石造りの床に尻餅をつく。
「お止めなさい、ラナ・レイジィ!」
 そのままの態勢でレイジィを見上げ、ルシアは抗議する。
 レイジィは構わずに身を反転させ、階段を駆け昇り始めた。
 できることなら、ルシアに怪我を負わせるようなことはしたくない。アナン同様、ルシアも長年ともに暮らした姉のような存在なのだ。
 だが、彼女が裡に秘めた力を総動員させて自分に向かってくるようならば、こちらも本気で相手を攻撃せざるを得なくなる。星守姫に選ばれるだけの力をルシアは間違いなく宿しているのだから。
 ――ルシアの星刻に輝きが満ちる前に、星を壊さなければ!
 焦燥感に鼓動が速まる。
 レイジィは逸る心のままに一気に階段を昇りつめた。
 星が祀られている台座の前に立つ。
 八角形の台座の上には、光を失った星がぽつりと置かれていた。
 見慣れているはずの星を前にした瞬間、緊張に胸が苦しくなった。
 馴染みのあるものだからこそ、多少の罪悪感を覚えた。
 レイジィは一度深呼吸してから左手を星へと伸ばした。
 小さな星を掴み取る。
 刹那、唄が聴こえた。
 人間のものとは思えない、清廉で清浄な歌声が響く。
「――つっ……!」
 星を掴んだ掌に激痛が走った。
 反射的にレイジィは星を手放していた。
 驚愕に強張った顔で己の掌に視線を落とす。
 掌の皮膚が火に炙られたように爛れていた。
 ――ルシアの唄のせいだ。
 星守姫が紡ぐ星唄は、一種の魔術。
 レイジィたちが戯れで口ずさむ唄とは、明らかに質が違う。唄には強力な念が織り交ぜられているのだ。
 星守姫はその唄の持つ魔力で、これまでずっと星を護り続けてきたのだ。
 ルシアの唄は、あっという間に《星守の間》いっぱいに膨れ上がった。
 それに呼応するかのように、星がカタカタと小刻みに揺れる。
 輝きを失っていても星守姫の唄にはちゃんと反応を示すらしい。
 星が台座から浮き上がる。
 自分を守護してくれる星守姫の元へと行きたがっているのは明白だ。
「負けるもんですかっ!」
 レイジィは再度星に左手を伸ばした。
 触れた瞬間、物凄い熱を感じたが歯を食いしばりそれに耐えた。
 星が激しく震える。
 それを押さえつけるようにして、レイジィは星を掴み上げた。
「あなた、あたしが何をするか解ってるのね。でも、怯えたって駄目。あたしはもう、あなたを護る星守人じゃないの!」
 星の危地を察したのか、ルシアの唄が更に大きく――天へと向かって飛翔し始める。
 それに応えるように、また星が激しく震えだした。
 レイジィは堪らずにサーベルを手放し、右手を左手に被せた。
 握り締めた左の拳を右手で覆い、力を加える。
 ――ここまで来て、負けるわけにはいかないのよ!
 苦痛に顔をしかめながら祭壇の端へと移動する。
 祭壇から床までは三メートルほどの高さがある。
 後は、ここから渾身の力を込めて星を床に叩きつけるだけだ。
 強く奥歯を噛み締め、勢いよく両手を挙げる。
 それを振り下ろそうとした瞬間、視界の端にユージンの姿がよぎった。
 キリエの剣が容赦なくユージンの右腕を裂く。
 ユージンの腕から血飛沫が舞うのを見て、レイジィは声にならない悲鳴をあげた。


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2009.10.10 / Top↑
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