ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 空は白み始めていた。
 月や星々の姿は疾うに天穹から消えている。
 ユージンとレイジィは、人気のない早朝の街道をひたすら南下していた。
「休む暇もなく逃走なんて、本当に忙しないわよね。あたしたち、今日一日でどれだけ歩けばいいのかしら?」
 レイジィが笑い混じりに告げ、足を止める。
「仕方ないだろ。俺たちはシアの星を壊した重罪人なんだから。さっさとシアを脱出して、行方を眩ました方がいいんだよ」
 ユージンが無愛想に応じると、レイジィはまた笑った。
「そっか。あたしたち、お尋ね者だったわね。今日中にも追っ手がかけられるわよね」
「俺は元々盗賊だから、追われるのには慣れてるけどな」
「あたしは慣れてない。でも、逃げ延びる自信はあるわよ」
 レイジィの声は緊張感の欠片もないほど明るい。
 セラ大神殿を出てからというもの、彼女の言動は妙に清々しかった。
 目的を果たした達成感が、彼女の心を晴れやかなものにしているのだろう。
「早くシアを出て、ちゃんと医師に傷の手当てもしてもらわなきゃね。それにしても、随分と大胆にやったわよね」
 レイジィの視線がユージンの右腕に注がれる。
 ユージンの右腕には、包帯代わりの布が幾重にも巻かれているのだ。レイジィの持っていた薬草で血止めをし、折れた骨を接ぐために添え木がしてある。
 だが、充分な処置と言えるものではない。完治させるためには、やはり医師に診てもらう必要があるだろう。
「おまえだって他人のこと言えないだろ」
 ユージンは苦笑を浮かべ、レイジィの左手に視線を投げた。
 彼女の左手にも布が巻きつけられている。こちらは重度の火傷だ。星を掴んだ時にかなりの重傷を負ったらしい。
「怪我を治すためにも、追っ手を振り切るためにも、シアを抜け出さないとな。こんなところで立ち止まってないで、急ぐぞ」
 東の空は明るさを増している。
 もうすぐ日の出だ。
 日が高くなる前には、せめてハヌルの街を通過していたかった。
 目的地であるアダーシャまでは、まだかなりの距離がある。
 気力と体力が萎えないうちに少しでも先に進んでおきたい。
「解ってるわよ。――あっ、ちょっと見て!」
 不意に、レイジィが驚喜に満ちた叫びを発する。
 踏み出しかけた足を止めて、ユージンは渋々と彼女を振り返った。
 何がそんなに彼女を喜ばせているのか不思議でならない。
 レイジィが思わせぶりな視線を送ってくる。
 ユージンが目顔で『何だよ?』と問いかけると、彼女は満面の笑みを湛えて右手を差し出した。
「見て。星刻が消え始めてるの!」
 レイジィが得意気に右の掌をユージンの前で広げた。
 掌に刻印されている八芒星が徐々に薄れてゆく。
 星守人の証である星刻は見る見るうちに薄れ、ものの数秒でその姿を完全に消した。
 星神セラの呪縛が解けたのだ。
「きっとユージンの星刻も消えてるわよ」
 星刻が跡形もなく消失した掌を見つめ、レイジィが心底嬉しげに微笑む。
 彼女の指摘通り、ユージンの背にある星刻もすっかり消えてしまったに違いない。
 国王の星は、この世から姿を消した。
 同時に、星守人の役目も終わったのだ。
 おそらく、全ての星守人から星刻が消えたのだろう。
 護るべき星――星守人と星神セラを繋ぐ星は、もう地上の何処にも存在していないのだから。
 ユージンは素直に喜ぶレイジィから視線を外し、辿ってきた道の遙か北へと目を向けた。王都セラシア、そしてセラ大神殿がある方角だ。
 ――ファ・ルシアは星刻が消えた事実に、また嘆いているのだろうか?
 そんな疑問が胸に湧いてきたのだ。
「ルシアが心配?」
 ユージンの胸中を察したように、レイジィが問いかけてくる。
「心配というか、不憫というか……。星守姫という過去に縛られず、ちゃんと前を見て生きてほしいとは思う」
「大丈夫よ。ルシアは強い女性だもの。転んでもただでは起きないような逞しさを持ってるはずよ。だって、半分はユージンと同じ血を引いているんだもん」
 レイジィは楽観的に述べ、ユージンを励ますように明るい笑顔を見せた。
 つられてユージンも微笑する。
「そうだな。一度しか逢ってないし、これからも逢うことはないだろうけど――あの人は、俺の姉なんだよな。俺のしぶとさと図太さはギュネイから受け継がれたものだと、今だけはそう信じたいな」
「ルシアなら、きっと民を導いて新しいシアを創ってくれるわ」
 確信に満ちた強い口調でレイジィが告げる。
 その言葉には、ルシアに対する希望と期待がはっきりと含まれていた。
「さてと、そろそろ行きましょうか」
 レイジィの右手が控え目にユージンの左手に触れる。
 ユージンは彼女の手を握ると、南へと向けて身を翻した。
「行くか、アダーシャへ。グラディスとアナンが待ってるからな」
 アダーシャへと続く細長い街道は、未来への道だ。
 道の先には、きっと新しい世界が広がっている。
 そう信じて歩き続ける。
 もしかしたら道に果てはないのかもしれないし、自分を取り巻く世界は何も変わっていないのかもしれない。
 ――それでも、生きている限り歩き続けよう。
 自分の手で道を切り開きながら、逞しく生きてゆくのだ。
 ユージンは凛然と前を見据えた。
 レイジィと二人、しっかりとした足取りで南を目指す。
 
 いつの間にか東の空から昇っていた太陽が、二人の新しい出発を祝うように眩く道を照らし出していた。



          《了》



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本編はこれで終了ですが、妙な外伝小咄が一本だけありますので、興味のある方はそのまま「NEXT」をクリックして下さい。
あ、念のために……グラディスのイメージを壊したくない方はココで回れ右をお願い致します(笑)

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2009.10.10 / Top↑
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