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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sat
2009.10.10[11:41]
「大体ねえ、ユージンは度胸が足りないのよ、度胸がっ!」
 自分を罵るレイジィの声が響く。
 あれから更に一時間――二大酒豪につき合ったユージンは、完全に沈酔していた。
 浴びるほど酒を呑ませられ、テーブルに突っ伏している。
 限界だ。
 もう、酒を口にするどころか、喋るのも起き上がるのも到底不可能な状態だ。
 目を開ければ奇妙に歪んだ世界がグルグルと巡っているし、レイジィとグラディスの声はやけに遠くから聞こえてくる。
「ねえ、いつになったら色んなコト経験させてくれるのよっ?」
 レイジィが何やら喚いているが、ユージンには答える気力は微塵もなかった。頭の回転が著しく低下しているので、彼女が何を言わんとしているのかも全く解せない……。
「……何? 君たち、もしかして《星戦》の頃から何一つ進展していないの?」
 グラディスの声に驚きが含まれる。
「そうよ! ファーゴの宿で『遠慮しない』『期待に応えたい』って言ってたのに、結局何にも変わってないのよ! あたし、ユージンと色んなコトするの物っ凄く楽しみにしてたのに、どーすればいいのっ!?」
「可哀想に……。あれから、もう何ヶ月も経ってるのに。――まったく、君ときたら本当に馬鹿だね、ユージン」
 今度はグラディスの声音に呆れが織り込まれた。
「あたしって、そんなに女としての魅力が致命的にに欠けてるっ!? 何か、あたしからユージンを誘うなんて嫌だし! よく考えてみれば、ファーゴでキスしたのもあたしからだし――またあたしから迫ったら、飢えた野獣みたいにがっついてると思われそうだし――」
 レイジィの吐露はまだまだ続く。
 ユージンが聞いていないと思って、ここぞとばかりに言葉を捲し立てているのかもしれない。もっともユージンに聞かれていても、彼女の弁舌が止まることはないだろうが……。
 ――ああ、そういや、何となく有耶無耶になって……結局、あれから何にもしてなかったっけ?
 混濁する意識の中で、ユージンはボンヤリとアダーシャへ来てからの日々を反芻した。
 グラディスの元で護衛としての新生活が始まってからは、とにかくアルディス聖王家に伝わる礼儀作法などを徹底的に仕込まれ、ガレルから剣術を叩き込まれる――といった具合に多忙を極めていたのだ。
 そんな忙しない毎日だったので、レイジィの期待に応える気力が削がれていた。レイジィとて条件は同じなのに、それでも彼女は胸を期待に膨らませ、ユージンを待っていてくれたらしい。
 ――俺的には、野獣でも、がっつかれても全然構わないんだけどな……。
 レイジィを愛しく想う気持ちに変わりはない。
 ただ、あまりにも彼女が天真爛漫すぎて、あと一歩を踏み出すことが出来ずにいただけだ。
 ユージンが求めるものは、星神の神殿の中で彼女が思い描いていた夢や理想とは異なるかもしれない。彼女を傷つけるかもしれない、と畏れていたのも事実だ。
 ――けど、難しく考えるのはもう止めだ。次に機会があったら、高熱があっても泥酔していても、我慢しない。最後までやり遂げてやるっ!
 ユージンは途切れかけた意識の中で、密やかにそう堅く誓った。
「君は充分魅力的だよ」
 ユージンの言葉を代弁するように、グラディスが告げる。
「ユージンは馬鹿だけれど、好きな相手の心の機微を察せられないほど愚鈍でも無骨でもないよ。ただ、馬鹿で不器用だから一つのことを真っ直ぐに見つめるのが精一杯で、同時に幾つものことがこなせないだけ――もう少し余裕ができたら、嫌でも夜這いに来ると思うよ」
 グラディスの笑い声が遠くに聞こえる。
 もう意識が朦朧とし、世界は完全に超高速回転木馬の域に達していた。
「でも、女性を長く待たせるのは、確かに失礼だね。腹立たしいから、ユージンも脱がせてやろう――」
 グラディスの声に悪戯っぽさが宿る。
 だが、それさえも遙か遠くの空から聞こえてくるようで、現実味が全くない。
 ――とにかく、レイジィを待たせることは……もう止めよう。
 目覚めた時にレイジィが傍にいたら、思い切り彼女を抱き締めてあげよう。
 そう思った瞬間、急速の意識が闇に引きずり込まれた――


     *


 眩い光が降り注いでいる。
 ユージンは黄金色の輝きに触発され、瞼を震わせた。
「ん……」
 瞼に暖かな光を感じながら寝返りを打つ。
 柔らかな寝具と滑らかな肌の感触を全身に覚えた。
 ――あれ? レイジィ……?
 ユージンは無意識に手を動かして、自分の隣で寝ているであろう人物の肌を撫でた。レイジィにしては骨が太いような気がする……。
 訝しさに眉根を寄せると、二日酔い特有の嫌な頭痛が連続して起こった。
 ほぼ同時に、少し離れたところから豪快な鼾と寝息が聞こえてくる。
 それを耳にした途端、ユージンは勢いよく上体を跳ね起こしていた。
 鳴り響く頭痛を堪えて、鼾の発生源へと目を向ける。
 昨夜宴を繰り広げていたテーブル近くの床に、レイジィが仰向けに転がっていた。耳慣れた鼾は紛れもなく彼女のものだ。
 ソファに視線を流すと、イル・アナンもまだ熟睡しているようだった。
 ――ってコトは、まさか……!?
 ユージンは恐る恐る自分の隣に視線戻した。
 寝台では長い髪を散らして、グラディスが眠っていた。
 窓から射し込む陽光が剥き出しになった彼の肩を照らしている。
 ――グラディスか……って、待て待て、何で俺、裸なんだっっっ!?
 グラディスの白い肌を何気なく見て、はたと自分も衣服を着ていない事実に気がついた。
 焦燥のあまり勢いよく毛布を剥ぐ。
 そして、ユージンは驚愕に目を丸めた――全裸だったのだ。
 どうりで寝具の感触が全身にあったわけだ……。
 再びグラディスに視線を戻すと、やはり彼も一糸纏わぬ裸身だった。
 ――うわっ……何がどうして、こうなったんだっ!?
 ユージンの頭は一気に混乱を来した。
 昨夜は調子に乗って呑みすぎたので、ガレルが帰った辺りからの記憶があやふや――というか、記憶の全てが欠如しているに等しい。
「え? 何!? 何で、男二人が裸で寝てるワケ? ――あれ? 何だよ、この瓶?」
 ユージンは青ざめた顔で、自分とグラディスとの間に転がる細長い酒瓶を手に取った。
 確かコレは、幻の珍獣ハタザベスの生き血を云々……の稀少酒だったはずだ。
 中身が空のところを見ると、グラディスかユージンか、または双方があの気味の悪い紫色の液体を呑み干したらしい。
「嘘、呑んだのかよ? いや、それ以前に俺、記憶が全くないんだけど? え? ええっ!? まさか、俺――ヤッたの? それとも、ヤられたのかっっ!? うわっ……何にも思い出せねぇ――」
 ユージンはますます蒼白になって、怖々とグラディスの身体に視線を配った。
 気のせいか、白い肌に幾つか紅い痣が浮いているように見えなくもない。
「俺……身体に違和感何にもないし――やっぱり、酔った勢いで俺がグラディスを……!? 嘘だろ? ナイナイ、ぜーったいナイッ! 有り得ないっっっ!」
「――何が有り得ないんだ、小僧」
 ユージンの喚きと同時に、低く威圧的な男の声が響いた。
 瞬く間に室内の温度が凍り付く。
 ユージンは振り向きたくなかったが、何か磁石のようなものに引きつけられるようにして声の主の方へ首を巡らせていた。
 深紅のマントが鮮やかに視界に飛び込んでくる。
 魔法剣士ガレルが鬼のような形相でユージンを睨めつけていた。
「小僧、貴様という男は……! クローディア様を……私のクローディア様を――」
「ごっ、誤解だ! 酒を呑んでただけだって! 何もない。疚しいことは何一つない――多分……」
 ユージンは慌てて言い訳を連ねた。
 実際、自分では何も覚えていないのだから、明確な否定も肯定も出来なかった。
「多分――だと? その瓶、ハタザベスだな。それを一本呑んでおいて、何もない訳がないだろ!」
 ガレルの忌々しげな眼差しが、ユージンが手にした空瓶に注がれる。
「だから、誤解だって! コレを呑んだら――何が起こるんだよ? 俺が教えて欲しいくらいだ!」
「その、ハタザベス酒は――超強力感度増幅精力剤だ。世界中の国王が喉から手が出るほど欲している、幻の珍酒。それを呑んで、クローディア様と全裸で寝台を共にしているのに、何もないわけがないだろう!」
 ガレルが容赦なく猜疑と憎悪の相俟った視線でユージンを貫いた。
「……や、やっぱり、そう考える方がフツーなのか? うっわーっ、どどどどどうしようっっ!? 物凄く気まずいんですけどっっっ! もう一度眠って起きたら、ちゃんと服着て爽やかに目覚められる――って都合良くならないかな、あんたの魔法で!」
 ユージンが強張った笑顔で提案すると、ガレルからは氷よりも冷たく鋭利な視線が返ってきた。
「安心しろ。しっかり眠らせてやる」
 地獄の底から湧き出てきたようなガレルの声。
 風もないのにゆらゆらと彼の髪が揺らめく。
「だから、二度と目覚めるな――」
 ガレルの唇が呪を紡いだ刹那、遙か上空で春雷が轟き、稲妻が迸った。



 麗らかな春の午后。
 突如としてロンデル公爵邸のみを襲った春嵐の真相は、永久に歴史の闇に葬られることになる――



                 《了》



……こ、こんなオチでスミマセン(汗)
グラディスを脱がせてみたかっただけ……というのは、ナイショの話です(笑)
テンプレ表紙をご覧の方はお気づきかもしれませんが、管理人は恥ずかしげもなく『半裸萌え』を主張しております。激しく主張しております←
同志の方は是非名乗り出て下さい(笑)

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