ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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三.血



 榊葵は何気なしに彼を見た。
 彼――三条風巳(さんじょう かざみ)。
 本日、このクラスに転校してきたばかりの少年。
 GWも疾うに明けた五月中旬に編入生が来るなんて珍しい。
 普通なら新学年スタート同時か、切りのいいところで二学期からの編入を希望するだろう。そもそも三年になってから編入してくる生徒なんて皆無に等しいのだ。
 なのに、三条風巳は都内の高校から同じ都内にある聖華学園に編入してきたのだ。
 千代田区にある名門私立からM市の聖華にわざわざ転校してくる理由も必要性も、葵には全く見出せなかった。
 時期外れの転校生。
 三条風巳が気になるのは、それだけが原因ではない。 
 自己紹介の時、風巳はクラスメイトたちに笑顔を向けていた。だが、その双眸だけは他人を嘲笑うかのように冷ややかだったのだ。
 他者を見下し、従えることに慣れた冷酷な眼差し。
 それに気づいてしまったから、葵は彼の存在を無視できずにいる。
 単純に彼の心の裡を覗いてみたいと思った。笑顔の裏で何を考え、何を企んでいるのか興味を抱いたのだ。
 更に、彼の姓である『三条』にも引っかかりを覚えていてる。
 家名に『条』が入る人物は要注意だ。
 神族と敵対関係にある魔族に多いのが、名字に『条』がつく家なのである。かといって、『条』がつく家が全て魔族であるとは限らない。当然、三条風巳に面と向かって『魔族なのか?』と訊ねることなど出来るはずもなかった……。

 葵は小さな溜息を落とし、黒板に視線を戻した。
 教壇では世界史の教師が熱弁を揮っている。
 しばらく教師の声を漫然と聞いていると、急に隣から強い視線を感じた。
 先ほどの自分同様、三条風巳もこちらを窺っているらしい。
 視線だけではなく、ひどく間近に彼の熱を感じて葵は戸惑った。
 チラと視線を流すと、教科書の上に置いた葵の左手のすぐ傍に風巳の右手が存在していた。
 葵の在籍する三年A組は、二つずつ机を密着させる席割りになっている。クラス委員長であるというだけで、担任は転校生を葵の隣席に座らせたのだ。葵にとっては迷惑な話である。何故だか、転校生の方も自分に好奇心を持ってしまったらしい。
 三条風巳の右手は、葵の左手に触れるか触れないかの距離にある。
 彼の長い指はもう一歩踏み込みたいのを堪えているかのように、忙しなく蠢いていた。程なくして、彼は何かを決断するように一度動きを止めた。そうかと思うと、唐突に人差し指を伸ばして葵の手の甲を撫でるのだ。
 何をするのだろうと見守っていた葵だが、流石にこれにはゾッとした。
 驚きとともに風巳に鋭い視線を向ける。
「何か?」
 小声ながらも不快感をしっかり含めた口調で訊ねる。
 相手は頬杖をついた状態で葵を見つめていた。葵と目が合うと、端整な顔に薄笑みを浮かべる。
「いや、綺麗な血管だな、と思って」
「――は?」
 葵は予測もしなかった風巳の返答に面食らい、眉根を寄せた。
 その間にも、風巳の指は葵の手の甲に浮かぶ静脈を嬉しそうになぞっている。
 ――けっ、血管フェチ!? それとも……ゲイ!?
 葵は一瞬パニックに陥った。
 転校生の言動が理解できない。
 とにかく触れられている事実に嫌悪を覚え、慌てて手を引こうとした。だが、風巳が葵の手を押さえつける方が速かった。
「静脈も美しいけど、持ち主はもっと綺麗だな」
 風巳の唇が笑みを刻む。
 しかし、笑顔とは裏腹に葵の左手には強い重圧がかかっていた。
「素晴らしいね、榊は。惚れ惚れする」
「……ふざけるな」
 葵はようやくそれだけを言い返した。ここが学校でなければ、今すぐにでも《力》で彼をはね除けてしまいたい。
「あれ、俺は本気だけど? 隣人が美形だなんて物凄くツイてるな」
 風巳の顔に満面の笑みが広がる。
 葵が無言で睨むと、彼はパッと手の力を緩めた。葵はすかさず彼の手を振り払い、左手を彼から遠ざけた。
「ホント、転校してきてよかったな」
 風巳はニヤニヤと葵を眺め続けている。
 葵は変わり者の転校生を無視することに決め、教壇へと視線を転じた。
 風巳が同性愛者でも血管ヲタクでも構わないが、その趣向を自分に向けるのだけは遠慮してほしい。
 ――何だか、妙な奴が隣に来たな……。
 葵は再び溜息をつき、左手を庇うように右手で包み込んだ。
 三条風巳に掴まれた左手は熱を帯び、じんじんと疼いていた。


     *



……スミマセン。この話、変な人――というかヘンタイさんが多いんです(汗)
ちなみに世界史の教師は黒井馨サンですけど、この話には無関係なので名前すら省略(笑)

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2009.10.10 / Top↑
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