ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 突如として、視界が眩い輝きに包まれる。
 夏生は弾けそうになる意識を必死に現へ留め、目前の光景を確認した。
 巨大な魔魅の天辺に、一人の少年が立っていた。
 聖華学園の制服を身につけた端麗な容貌の少年。
 彼の右手には冴え冴えと輝く日本刀が握られている。
『おお、この神氣は――!』
 玉依が心底嬉しそうに甲高い声を発する。
 夏生は少年の姿を見て、安堵に胸を撫で下ろした。玉依同様、喜びが込み上げてくる。

 少年は手にした日本刀を容赦なく魔魅へ突き刺した。
 手早く刀を抜くと、彼は鮮やかに地面へ着地し、次いで敏捷に駆け出した。
 夏生を絡め取る触手を流れるような動作で、次々と斬り落としてゆく。
 彼は難なく夏生を捕縛している触手を払うと、落下する夏生の身体を片腕で抱き留めた。
 そのまま背を返し、振り向きざまに日本刀を鋭く突き出す。
 いつの間に再生していたのか、魔魅がすぐ間近まで迫っていたのだ。
 少年の刀が再び神秘的な閃光を纏う。
 彼の繰り出したただの一撃によって、魔魅は数十メートルも吹き飛ばされた。
 形勢不利と判断したのか、毛糸玉のような化け物は出現した時と同じくどす黒い霧のようなものに身を隠すようにして――消えた。

「大丈夫かい、夏生?」
 少年が夏生の身体をそっと地に降ろし、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「うん。ありがとう、美人!」
 夏生は心からの謝意とともに笑顔を少年へ向けた。
 少年が微笑を湛えて夏生を見返してくる。切れ長の双眸が榊家の双子とよく似ていた。
 少年の名は、有馬美人(ありま よしひと)。
『美人』と書いて『よしひと』と読むのだ。美人自身にとっては苦々しく笑うしかない名前である。
 彼の母親の旧姓を『榊』という。夏生たちの父の妹が美人の実母に当たるのだ。
 美人は、夏生の一つ年上の従兄。
 無論、彼も榊家の血を引く神族――狩人であった。
『美人殿、お久しゅうございます! その神氣――いつになったら妾に喰わしてくれるのじゃ? 夏生が特別に美人殿の裡に妾を降ろしてくれると言うたぞえ』
 玉依の興奮気味の声が響く。
 美人に疑惑の眼差しを向けられ、夏生は慌てふためいてカードを両手に包み込んだ。
「言ったけど、結局魔魅を追い払ったのは美人だもん。だから、さっきのアレは無効よ」
「夏生――君は一族の中で唯一神霊を他人の身体に降ろせる力を持っている。けれど、それは安易に使ってはいけないものだよ」
「……解ってるわ。ごめんなさい」
 美人に諫められ、夏生はしゅんと項垂れた。
 契約を交わした神霊を肉体に宿らせる――神降ろし。
 美人をはじめ、神族の中には自分の肉体に限り神霊を宿すことの可能な者もいる。
 だが、降ろした神霊を他者の裡に植え換える荒業を行使できるのは、今のところ夏生しか存在していなかった。
 神降ろしは受け入れる側の準備が出来ていなければ、肉体と精神に甚大な衝撃をもたらすのだ。夏生に何の予告もなく神霊を植え付けられれば、相手は神霊の放つ神氣に耐えきれずに自我を崩壊してしまう畏れもある……。
 夏生の力は諸刃の剣――稀有で強大だが危険を伴うものだ。
 術者である夏生自身がそれを知悉していなければ元も子もない。軽はずみで、そんな約束を玉依と交わしてはいけないのだ。
「反省してるならいいよ。――夏生が無事でよかった」
 美人の片手が夏生の頭を優しく撫でる。
 夏生がパッと顔を上げると、従兄は美しい顔にやはり美しい笑みを浮かべて夏生を見つめていた。  基本的にこの美貌の従兄は、夏生に物凄く甘く、優しいのだ。
「依姫も――僕は今のところ《雷師(らいし)》だけで手一杯ですから、僕のことは諦めて下さいね」
 美人が日本刀を軽く翻す。
 すると、それは瞬時に銀細工の指輪へと姿を変じ、美人の左中指に納まった。普段は指輪の形をしているこの刀が美人の神力の分身――《雷師》なのである。
『あい解った。――妾は疲れたから、もう眠るぞえ』
 玉依が聞き分けの良い返事をし、スーッとカードから姿を消す。
 ――ああ……呼びかけても一週間は起きて来ないわね。
 夏生は玉依がいなくなったカードを制服のポケットにしまいながら、苦笑いを浮かべた。
 何故だか玉依は、榊一族の男子にけなされたり、叱られたり、そつなくされると、非常に落ち込み、挙げ句臍を曲げるのだ。それだけ葵や茜や美人のことが大好きなのだろうが、その度にご機嫌を取らなければならない夏生の苦労は耐えない。
「本当にありがとう。美人が来てくれなかったら、わたし――どうなっていたか解らないわ」
「とりあえずは追い払っただけだよ。あの魔魅はちょっと変な感じだったな。雷師で貫いたのに、手応えがなかった」
 美人が不思議そうに小首を傾げる。
「うん。雷師で封じられないなんて、絶対おかしいわよね」
「しばらくは大人しくしているだろうけど……。帰ったら、葵さんに報告しておいた方がいいね。――ところで夏生、どうしてこんな所に一人でいたのかな?」
「茜ちゃんを待ってたの」
 従兄の質問にハッと本来の目的を思い出し、夏生はむくむくと迫り上がってきた怒りに唇を尖らせた。
 茜が約束の時間にちゃんと姿を現していれば、魔魅に襲われることもなかったはずだ。仮に襲われたとしても、茜がいるなら夏生一人だけの時とは異なりスムーズに魔魅を滅殺できただろう……。
「茜さんを? ――あれ? 茜さんなら、さっき見知らぬ男の人と一緒にいたけれど?」
 美人が数度目をしばたたかせ、またしても納得できないように首を捻る。
「男の人?」
 夏生はグッと眉根を寄せた。
 可愛い妹との約束をすっぽかして男と遊んでいるなんて――許せない。
「そう、金髪の男の人。結構ハンサムな人で――茜さんと一緒だから目立ってたよ。……急用が出来たんじゃないのかな?」
「ふ~ん。でも……見かけたのなら、茜ちゃんに一声かけてくれればよかったのに」
「そうだね。やっぱり声をかければよかったかな――」
 美人は夏生に微苦笑を向けた。
 茜が夏生と待ち合わせをしているのを前もって知っていれば声をかけただろうが、もう過ぎてしまったことなのでどうしようもない。
 だが、やはり美人は茜を見かけた時に声をかけるべきだったのかもしれない。
 たった一言『茜さん』と呼びかけなかったために、彼は数時間後ひどく後悔する羽目に陥るのである――


     「五.条家」へ続く



……何の捻りもなくビジンでした(汗)
ちなみに茜と一緒にいる金髪男は……もちろんレージではありませんよ!(笑)

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2009.10.18 / Top↑
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