ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 ラーザ大陸最大最古の国――アダーシャの玉座がラータネイルに引き継がれてから、早くも半年が過ぎ去っていた。
 元マイセ神殿祭祀長デメオラに前国王の暗殺とそれに付随するドチール教の解体処理等で、アダーシャ国内は目まぐるしい変化の連続だった。
 そのためにラータネイルは王宮内での簡素な戴冠式しか行わず、政務に身を費やしていたのである。
 現在、リージャナータ宮殿は、異常なまでに華やかかつ煌びやかに装飾されていた。
 新国王アルディス・アノン・ラータネイルの正式な戴冠式が、各国の貴賓を迎えて行われるからである。
 隣国セイリアからは、国王の名代としてサーデンライト公爵家から公弟クリーエルディスが夫人を伴って祝儀に参列していた。この公爵弟夫人というのが、ラータネイルのすぐ下の妹――アルディス・アノン・セリエンヌ・マルゴット・オルフェ・ロンデル・クロムバランシェ王女なのである。
 故に、新国王ラータネイルと公爵弟クリーエルディスは昵懇の間からでもあった。



「――えっ!? じゃあ、デメオラが大陸全土にあんなとんでもない神託を高々と発表したのは、《黄昏の宝玉》を手に入れるためなの!?」
 新アルディス聖王ラータの私室で素っ頓狂な声をあげたのは、セイリアのサーデンライト公爵弟クリーエルディスことクラリスである。
 ラータは苦笑を湛えながらクラリスの眼前で長い脚を優雅に組み替えた。
 彼の首からは、美しい細工が施された黄金の首飾りが垂らされている。胸元では見事な輝きを放つ碧玉が揺れた。
「そう。賢者シュタルデンの神宝《黄昏の宝玉》は、彼の子孫――つまりセイリア王家の血筋に惹かれる性質を備えているということは、神話に精通していれば誰でも解ることだからね。デメオラが夢の中で受けた神託は、マイセではなく魔王ドチールの言葉だったらしいよ。《黄昏の宝玉》を手にしているのはマイトレイヤー殿だと告げられたらしい」
 ラータが淡々と述べながら、チラと胸元の貴石に視線を落とす。
 全ての根源は、この《黄昏の宝玉》と呼ばれる創世神マイセの神宝にあったのだ。
「ああ、だから、兄上を手元に置くために、《マイセの生け贄》なんてフザけた神託を発表したのか、あいつ……。けど、神託が布告された時点では、兄上はまだ神宝を授かっていなかったけど?」
「それでも、デメオラは魔王の予見を頭から信じ込んでいたらしいよ。実際、《黄昏の宝玉》はシンシリアの手から知らずの内にマイトレイヤー殿に渡っていたしね……。デメオラの真の目的は、ドチール教における唯一神――遙かな昔に五大英雄によって封印された魔王を《黄昏の宝玉》の力を利用して復活させることだったんだ。彼らの邪悪な目論見はクラリスたちが見事阻止してくれたから大事に至らなかったけれど、もしも魔王が甦っていたら――と考えたら戦々恐々するよ。まあ、デメオラのあの偽神託があったから、俺はマイトレイヤー殿の好意で延命の魔法をかけてもらっているわけだけれど……。それも、俺がアルディス聖王としてのちゃんと機能している間だけのこと――」
 そこまで述べて、ラータは口の端にフッと微笑を刻んだ。
 生まれつき心臓に欠陥のあるラータは、アルディス聖王としての責務を果たすためだけにマイトレイヤーから《黄昏の宝玉》を譲り受けたのである。ラータが国王としての職務を次代へ継承した後には、神宝は速やかにセイリア王家へと返還される手筈となっている。
「おっと、話がズレたな……。身をもって体験したと思うけれど、ドチールの大好物は美少年。生け贄にも妙な儀式にも、信徒たちへの褒美にも――全て美少年が使用される」
「うわっ……嫌なコト思い出させないでよ……! でも、あの教団、ホントに悪趣味だよね。美少年にしか興味ないなんてさ」
 クラリスは苦々しく唇を歪め、大仰に肩を聳やかした。思わずレノビアに押し倒された時のことを反芻してしまい、背筋がゾッと粟立つ。
「父上は心底ドチールを崇拝していたらしい。……困ったものだよね。デメオラと父は二人で共謀して、ここ一年間だけで八十人もの少年をなぶり殺しにしてるんだ。実際にはそれ以上の血が流されただろうね……。奴らの計算違いは――俺に手を出したこと。それと、サーデンライト公爵に兄想いで行動力のある献身的な弟がいたことだろうね。お陰様で、彼らの腐った野望は潰え、マイセのお膝元であるアダーシャにも平和が戻ったよ」
 ラータが再び足を組み替える。彼は。大理石のテーブルの上から果実酒の注がれたグラスを取り上げると、流麗な仕種でそれを口へと運んだ。
 クラリスも自然と彼に倣う。一口舌の上で転がして、クラリスは微かに眉をひそめた。その果実酒は、レノビアの寝室で口にしたものと同じ味がしたのだ。アルディス聖王家の人間は、南国カレリアの果実酒が好みであるらしい……。
「ふ~ん……事後処理、物凄く大変だったんだろうね」
 クラリスは、レノビアの顔を打ち消すように果実酒を喉に流し込んだ。
 レノビア暗殺の罪をデメオラに被せ、前国王がドチール教の熱烈な信者であった事実を揉み消し、マイセの生け贄として大陸中に名の知られたマイトレイヤーの身柄を保護し、彼をセイリア王家へと送り届けた。
 それから、シンシリアを再起用し、彼をアダーシャの大使としてセイリアへ赴任させてしまったのだ。
 加えて、妹であるセリエをさっさとクラリスに嫁がせた。
 通常の政務をこなしながら、ラータはこの半年間でそれらの厄介事も次々と片付けていったのである。
 彼の王としての高い資質がそこには顕著に表れていた。
「まあね。でも、有り難いことに皆が協力してくれたから、思いの外に早く片付いたよ」
「それにしては、痩せたと思うけど……?」
「いや、これは、その…………ラザァが毎夜離してくれなくてね」
「――あっ、そう……」
 惚気なんて聞くんじゃなかった――と、クラリスは胸中で舌打ちを鳴らした。
 激務で痩せたのでなければ、同情の余地はない。どうせラータのことだ、『嫌だ』と口では言いながらも結局はラザァを拒まないに違いない。
「シンとマイトレイヤー殿は、どうしている?」
 ふと、ラータが思い出したように質問を繰り出す。
「相変わらずだよ。これ以上ないってくらい、愛し合ってるみたい」
 クラリスは片手で髪を掻き上げると、溜息を吐き出した。
「それに、セリエにも手を焼いてるんだけど、僕……。あいつ、『面白い』とか言って、不粋にも兄上の寝室に二人の様子を覗きに行くんだけど? ったく、身重だっていうのに全く自覚がなくて困るよ」
 クラリスはここぞとばかりに日頃の不満を吐き出した。大使としてセイリアへやって来たシンシリアが頻繁に兄を訪ねるようになり、セリエが嫁いできてからというもの、サーデンライト公爵邸は急に賑やかになった。
 だが、未だに間近でシンシリアが兄に愛を囁いたり、常にセリエがまとわりついてる現状には慣れない。
 ラータは妹の行動を聞いて眉根を寄せたが、次の瞬間、何かに思い至ったらしくハッと目を見開いた。
「身重――って?」
「決まってるじゃないか。僕の子供」
 クラリスが憮然と答えると、ラータは何故だか苦笑を湛えた。
「いや、それは解ってるけど……。クラリス――相手が男じゃなくてもちゃんとできるんだな」
「……みたいだね。っていうか、ラータだって子孫を残さなきゃいけないんだから、ラザァ以外ともできるだろ? それと同じだよ」
「ああ、まあ……。でも、意外だな。クラリスとセリエは喧嘩ばかりしていると思っていたから」
「や、想像通り毎日喧嘩ばかりだよ。あの跳ねっ返りが相手なんだからさ。けど、一緒に暮らしてるとセリエも結構可愛いところあるし、僕の奔放な交遊関係にも寛大だし――何より、僕が男と寝ても怒らないとこなんか最高だと思うよ」
 クラリスが悪びれもせずに告げると、ラータは更に苦笑を深めた。
「アレの育て方も間違ったかな……」
「まっ、アレはアレで、大人しいだけのお姫様よりは断然イイよ。僕の浮気相手も男ばっかりだから安心してよ。何かの過ちで他の女性を孕ませたりしてセリエを悲しませるようなことだけは、絶対にないから」
 あっけらかんとクラリスは言を紡ぐ。
 クラリスの言い分を聞いて、ラータは肩を竦めた。
 妻が妻なら夫も夫だ。変わり者同士で、案外均衡がとれている夫婦なのかもしれない……。
 ラータは果実酒の最後の一口を呑み干してから、穏やかな表情でクラリスを見つめた。
「とにかく、一件落着だな――」
 ラータの言葉に対して、クラリスは無言で頷いた。
 半年前のレノビアとデメオラに対する狂気じみた憤りは、すっかり沈静化している。デメオラたちの野望が成就することはなかったし、あれほど危惧していた兄の身も無事に救出できたのだ。
 クラリスは片手に持ったグラスを弄びながら、柔らかな微笑みを浮かべた。
 半年前の冒険は、もう二度と経験できるものではないだろう。
 だが、全てが終わったわけではない。
 大陸全土に散らばるドチール教が壊滅したわけでもないし、奇なる神宝《黄昏の宝玉》は確かにこの世に存在しているのだ。
 またいつか一騒動ありそうだ。
 クラリスもラータもそう直感している。

 二人の思考に呼応するかのように、窓から射し込む陽光を受けて《黄昏の宝玉》はキラリと輝いた――



       《了》



いつもご来訪下さり、ありがとうございます♪ & 最後までお付き合い下さり、多謝です!
短い物語なのに長々と連載していたせいか、締まりのない感じですが(滝汗)――この物語もようやく終幕を迎えることが出来ました。
ホントに、遊びに来て下さる皆様のおかげです♪
「黄昏~」の舞台は「星神の都」と同じ大陸ですので、興味のある方はそちらもどうぞ!(笑)

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2009.10.20 / Top↑
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