ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 一条龍一は、自分の方へ倒れてきた榊茜の身体を片手で抱き留めた。
「……他愛もない」
 呆気なく意識を失った茜を両手に抱え上げ、その身をソファへ寝かせる。
「神族の直系にしては不注意すぎるんじゃないのか、茜」
 唇に薄笑みを刻んだまま龍一はソファの脇に膝をつき、茜の顔を覗き込んだ。
 オンラインゲーム《鏡月魔境》の中で、《SAKAKI》というプレイヤーを発見した時には思わず小躍りしたくなった。しかも、鎌をかけてみると、相手は榊の血筋であることを否定しもしない。
 随分とゲームの世界を駆けずり回ったが――想像よりも容易く神族に出会すことができた。
 それも榊家の直系という大物だ。
「《AYA》が織り成す《鏡月魔境》か……。やはり、兄上の推測通りアレは我らを――魔族と神族をおびき出すためのツールなんだな」
 何者かが現代に生きる神族と魔族を、ゲームを介して集めているのだ。
 聖華学園に残される『魔境伝説』の舞台となるのが《鏡月魔境》という世界であること、そして学園の創立者である榊聡子が先々代の《天主》であること――双方を識っているのは、神族か魔族に属する者しかいないはずだ。
 ネット上で話題になっているゲームに《鏡月魔境》の名が冠されていれば、心当たりのある者なら気になって探りを入れるだろう。
 龍一もその中の一人だ。
 敬愛する兄の意に従い、ゲームに登録して、《鏡月魔境》がどんなものなのか体験した。
 ゲーム自体の内容は、他のオンラインゲームと大差ない。
 ただ、予想以上に多くの同族が世界に入り込み、神族らしきプレイヤーも時折見かける――ということだけが唯一の違和感だった。
 このゲームは一般人を愉しませるためのものではなく、特殊な存在を釣るための餌なのだ、と察した。
 ゲーム参加時に登録される個人情報の収集が主たる目的なのだろう。
 そして、データを欲しているのは、紛れもなくこのゲームの制作者である《AYA》だ。
「と、いうことは、《AYA》の正体にも大方の見当がつく。妖魅王(ようみおう)――綾織の女王が現世に甦っているということか……。あの女、まさか現世で全ての糸を断ち切る気なのか……?」
 龍一は独り言ち、眉根を寄せた。
 脳裏に、煌びやかな十二単を纏い、檜扇を舞わせる女の姿が浮かび上がる。
 黄金色の双眸が印象深い、妖艶な美女だ。
 最後に女の姿を見たのは、もう数百年も昔のことのような気がする……。
 忌々しく――それでいてひどく懐かしい存在だ。

「あの女の思惑など知ったことではないが――榊の血族に巡り逢わせてくれたことだけは、感謝しないとな。当代天主の双子の弟、か……」
 龍一は思考から和装の女を閉め出し、眼下の茜を注視した。
 神族の長――天主と一卵性双生児だというのなだから、茜と葵はそっくりな容貌をしているのだろう。
 ソファに横たわる茜の寝顔にまだ見ぬ天主を重ね、龍一は更に笑みを深めた。
「しかし、本当に美しい。私にソッチの趣味がないことが、今ばかりは残念だな。まあ――喰らうことには違いないのだけれど」
 龍一は双眸に喜悦の光を宿すと、常人よりも遙かに鋭く尖った犬歯を剥き出しにした。
 片手を茜の胸に翳す。グッと指に力を込めると、瞬く間に爪が二十センチも伸びた。
 この研ぎ澄まされた爪で茜の胸を裂き、心臓を掴み出して、血を滴らせながら鼓動する臓物に牙を突き立てる――想像するだけで心が躍った。
 甘美な緊張に肌がゾクリと粟立つ。
 だが、龍一が茜の制服に爪をかけた瞬間、
「アレ、龍一。主人よりも先に榊を食べる気なのかな?」
 揶揄を孕んだ声が背後からかけられたのである。
 驚いて振り返ると、グレーのブレザーを纏った少年が両腕を組んで立っていた。
「――風巳様!?」
 龍一は慌てて爪を引っ込め、少年の方へ身体ごと向き直った。
 端整だがどこか酷薄な印象を見る者に与える少年――それが龍一にとって今現在の主に当たる三条風巳だ。
 風巳は本日付で聖華学園高等部へ編入している。授業を終えて帰宅したところなのだろう。
「へえ、ホントにそっくりだな、葵と」
 風巳が好奇の眼差しを茜へと注ぐ。
「榊は――俺のモノだよ。三条家筆頭の俺には、その権利があるだろう、龍一?」
「はい。風巳様は次期魔王候補のお一人ですから」
 龍一が恭しく告げると風巳は満足げに微笑し、ソファへと歩み寄った。
「今のところ、久我条、二条、六条、九条くらいだろ、俺の妨げになるのは? でも、久我条の蓮は魔王の座に無関心だし、六条の璃乃はまだ子供だから――実際に邪魔なのは、二条の繭羅と九条のゆえだけだな。まっ、誰が敵でも俺は負けないけど。他の条家になど渡すものか。魔王の地位も榊も――」
 風巳が強気に断言する。
 彼の苛烈な心情を表すかのように、双眼が禍々しい赤光を放った。
 龍一同様、普段は何の変哲もない犬歯が鋭利に変形し、牙となる。
 風巳はソファに乗り上がると、躊躇いもせずに茜の制服をはだけさせ、露わになった白い首筋に齧り付いた。
 刹那、意識のないはずの茜の身体が異変を感じてピクッと震えた。
 その身体を片手で押さえつけ、風巳は頸動脈に深々と牙を突き刺した。
 ドクン、ドクン……という心臓の動きに合わせて、風巳の口内に芳しい血が運び込まれてくる。
 これまで数多の血を啜ってきたが、これほど美味なものは初めてだった。
 流石は榊の直系――体内を流れる神の残滓が、心地好い刺激と恍惚感をもたらす。
 神族の血液は、魔族にとって麻薬に等しい効果を発揮するのだ。
 血が喉を伝う度に、脳内でダイヤモンドダストの如き燦めきが舞い、身も心も陶然とさせた。 
 一息に全身の血を貪り尽くしてしまいたい衝動に駆られる。
 だが、風巳は恐ろしいまでの精神力でその欲求を抑え込み、ゆっくりと茜の首から牙を抜いた。
「何故……殺してしまわないのですか?」 
 風巳の行動を怪訝に思い、龍一は僅かに首を傾げた。
 普段の主人なら、一片の逡巡もなく相手を喰い殺している頃だ……。
「今すぐにでも心臓を抉り出したいところだけど、殺してしまえばこの先、血を吸う楽しみがなくなる。生かしておけば、この神の血を存分に味わうことができる。それに――」
 風巳は口の端から垂れ落ちた真紅の血を舌で舐め取ると、冷ややかな笑みを閃かせた。
「双子というものは二人揃ってこそ華だよ、龍一。特に榊の場合はね――」



     「六.榊」へ続く


……ひたすら妖しくてスミマセンッ(汗) でも、好きなんです、吸血とか給血とか流血シーンを読んだり書いたりするのが(滝汗)
一瞬でも「同志だ!」と思った方は、こっそり教えて下さい(笑)

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2009.10.27 / Top↑
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