ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 雷師を夏生の裡から取り出した瞬間、黄金色の光は夏生から美人へと移り、彼を淡く輝かせた。
 神々しい燐光が磨き上げられた刀身と美人の身を覆う。
「――つっ……上手くいったみたいね。後は……任せたわよ、美人」
 夏生が片手で胸を押さえ、その場にガクッと膝を着く。美人を見上げる表情は青ざめていたが、それでも彼女は微かな笑みを浮かべていた。
 何の準備もしていないところへ強引に神霊を降ろしたので、体力・気力共に著しく消耗してしまったのだろう。
 美人は夏生に向かって頷くと、神霊の力を得て強化された雷師を片手に地を蹴った。
《雷師》とは、雷神の別名。
 ゆえに美人の分身とも言える雷師は、雷神にして武神でもある建御雷之男神と非常に相性が良かった。
 美人は怯むことなく巨大な魔魅に肉迫し、神速の如く雷師で敵の触手を斬り落とした。
 触手から奇怪な体液がポタポタと洩れる。
 それらが頭上に降り注ぐ前に魔魅の懐に飛び込むと、一片の躊躇もなく美人は本体を縦横に斬り割いた。
 苦悶の叫びをあげながら、魔魅がその巨躯を崩壊させる。
 更に雷師の刀身を頽れる気味の悪い肉に打ち込ね、美人は訝しさに片眉をはね上げた。
 手応えが全くない。
 確かに肉を穿っているのに、魔魅の巨体はドロドロと溶け落ち、緑のゼリー状へと変容してゆくのだ。
 その魔魅には、人間の心臓に値する《核》がなかった。
 だから、雷師の攻撃を受けてもその身を滅されることなく、何度でも甦ってくるのだ。
「葵さん! こいつ――核がありません。繰魔(くりま)です!」
 半液状の物体と化し、地中へと姿を消す魔魅を微かな驚きと共に見つめながら、美人は緊迫した声音で葵に告げた。
 繰魔――その名の通り、何者かによって操作されている魔物。
 操っている者を斃さない限り、その魔魅は延々と再生を繰り返す。そして、繰魔が襲撃してきたということは、それを御する新たな敵が傍にいるということだ。
 美人が雷師で斬った魔魅は姿を消したが、いずれまた主の命を受けてこちらの不意を衝くように出現するに違いない。

「繰魔――ね。茜を攫った犯人がご主人様なのかな?」
 もう一体の魔魅を相手にしながら、葵が僅かに首を傾ぐ。
 ――が、次の瞬間、葵はハッと目を見開き、身体を勢いよく後方へと跳ばしていた。
 悪意に満ちた禍々しい氣――
「葵ちゃんっっっっ!?」
 夏生の絶叫が空をつんざいた刹那、宙から短刀の雨が降り注いだのだ。
 物凄い勢いで落下してくる短刀の群れは、魔魅諸共葵を狙ったらしい。
 夥しい数の短刀が地面と魔魅に突き刺さっている。
 葵は間一髪後ろへ飛び退いていたが、それでも全ての攻撃を躱せたわけではなかった。
 身体の動きに合わせて靡く長い髪。
 それがブツッと嫌な音を立てて、結んでいた紐ごと切り離されたのだ。
 急に頭が軽くなる違和感――
 葵の頸動脈を狙い、別の角度から放たれた刃物の仕業だ。
 はらりと艶やかな黒髪が宙を舞う。
 スローモーションのように己の髪が散る中、葵は短刀が飛んできた方角へと身体を向け、咄嗟に右手を前へ突き出していた。
 ほぼ同時に、右の掌に鋭く重い衝撃が生じる。
 凄まじいスピードで飛来した短刀が、葵の掌を貫いたのだ。
「――つっ……!」
 小さく呻き、葵は己の掌を見遣った。刃は掌を貫通し甲のから先端を覗かせている。傷口から刃を伝って血が流れ落ちるのを見て、葵を口の端に微苦笑を刻んだ。
「……夏生の予知夢通り――か」
 小さく呟きながら短刀が飛んできた先に視線を馳せた。
 真円を描く月を背負うようにして、夜空に黒ずくめの男が浮いていた。
 漆黒のロングコートの裾を風に翻させ、その男は高みから葵を見下ろしているのだ。
 サングラスをかけているので詳しい表情までは読み取れないが、男の唇は葵への興味を示すように笑みを象っている。
 魔族だ。
 男の身の裡からは、魔魅など足下に及ばないほどの鬼氣が発せられていた。
「あれが……魔魅のご主人様か」
 葵は冷静に宙に浮かぶ男を眺め、右手に突き刺さった短刀を左手で力任せに抜き取った。
 栓を失った掌と甲から鮮血が迸る。
「葵さんっ!?」
「ちょっと葵ちゃん、無茶しないでよっ! わたし、今日はもう降ろせないわよ!」
 背後から従弟と妹の不安げな声が飛んできたが、構わずに葵は短刀を地面に投げ捨て、強く拳を握り締めた。
 流れ落ちる真紅の液体が、地面に小さな血溜まりを創る。
「心配しなくても大丈夫だよ。――天晶(てんしょう)」
 葵は血溜まりに視線を落とし、玲瓏な声音で分身の名を紡いだ。
 直ぐさま、血溜まりが大きく膨れ上がる。そこから気高き光が溢れ始めた。
 血液を吸収するようにして代わりに金色の光が生まれてくる。
 まず初めに長い首と嘴を持つ鳥類の頭部が姿を見せ、次いで四枚の羽を持つ胴体が生まれいずる。最後に壮麗な飾りを閃かせる八枚の長い尾羽が宙を泳いだ。
 金色の神鳥――それが葵の神力の具現化させた《天晶》なのだ。

「えっ、葵さん――天晶を使うんですか!?」
 雷師で残りの魔魅を斬りつけていた美人が、黄金色の煌めきを放つ鳥に視線を流し、驚いたように目を瞠る。
 繰魔と魔族一人相手に葵が天晶を駆使するなど、本来なら有り得ないことなのだ。
 この場には美人もいることだし、天晶を使わずとも敵を退けられる。なのに、葵は魔族の姿を目にした途端、天晶を喚ぶことを決意したらしい……。
「こう見えても、僕は大事な弟を傷つけられて、物凄く怒ってるんだよ。そっちの魔魅からいくからね、美人」
 葵の言葉を聞いて、美人はもう一度恟然と目を見開いた。襲い来る魔魅の触手を適当に切り払い、迅速に魔魅から離れる。
 夏生の傍まで戻ると、美人は深呼吸を一つし、従妹を庇うようにして雷師を地面に突き刺した。


「おいで、天晶――」
 雷師の刀身から溢れた光の壁が美人と夏生を守護するのを確認し、葵は静かに相棒に呼びかけた。
 神秘的な金色の鳥は一啼きすると天へと舞い上がり、長い飾り尾を靡かせて優雅に夜空を旋回する。
 葵が未だ血の滴っている右手を広げると、天晶はまた透明感のある声で啼き、差し出された葵の掌へと向けて急降下を開始した。
 葵の掌に衝突すると見えた刹那、天晶の裡から更に眩い光が発生する。
『おおっ……久方振りに光の唄が聴こえるぞえ』
 意識を失った茜を守護している玉依が、うっとりと瞼を閉ざし、詩人めいた言葉を口ずさむ。人間ではない玉依には、天晶から発される何かしらの波動が伝わっているのかもしれない。
 目が眩むほどの光の洪水の中、葵の血から生まれた天晶は再びその姿を変えた。
 長い飾り尾が艶やかな柄と化し、四枚の翼と嘴が融合して刀身へと変化する。
 光が落ち着いた頃には、天晶は巨大な剣の形をとっていた。
 水晶の如き透明な刃の中には黄金色の光の粒子が浮遊している。
 幻想的な刀剣の長さは優に二メートルを超えていた。
 だが、手にした天晶にチラと視線を投げ、葵は微かに眉根を寄せた。
「髪を切られたから、いつもの半分しか具現化できていないね。でも――充分かな?」
 葵は苦笑混じりに独り言ち、天晶の感触を確かめるように剣を一振りした。
 鮮やかな軌跡を描き、天晶の鋭利な刃がミミズの塊のような魔魅の巨体に突き刺さる。
 瞬時、刀身から黄金の輝きが放たれ、魔魅の身体を裡から破壊した。
 魔魅の肉を裡から弾け飛ばすようにして、黄金色の閃光が大きく膨れ上がる。

『ああ……なんと美味な神氣かのう。光の波動が妾の心を震わせて心地好いぞえ』
 恍惚の笑みを浮かべる玉依に冷たい視線を投げた後、夏生は兄の方へと視線を戻した。
「葵ちゃん……ホントに怒ってるわね……」
 天晶から放出された光は――葵の神氣。
 魔魅を粉砕した後もそれは溢れ続け、こちらにまで襲いかかってきているのだ。
 美人が雷師を使って結界を張ってくれなければ、夏生たちまで光の波に呑まれていたことだろう。

 双子の片割れに傷をつけられた怒りは沸点に達していた。
 葵は木っ端微塵にした魔魅には目もくれずに天晶を掴み直すと、軽やかに跳躍した。
 宙に身を浮かべたまま悠然とこちらを見つめている魔族へと向かって、天晶を翳す。
 黒ずくめの男は、迫り来る葵と天晶を眺め、ひどく嬉しげに口の端をつり上げた。
 残忍な微笑が葵に向けられる。
 ――何処かで目にしたような笑みだ。
 ふと、既視感のようなものが葵の脳裏を掠めた。
 だが、それに答えを出すよりも早く、葵の身体は無意識に天晶を相手へ向けて振るっていた。
 黄金色の煌めきを零しながら天晶の刃が鋭く空を断つ。
 しかし、その切っ先が敵の肩を斬りつけたかのように見えた瞬間――相手の姿は闇に紛れるようにしてスッと消え失せたのである。
 残念なことに、天晶の刃は相手の左手を掠めただけに留まった。
 天晶片手に着地した葵は、目を眇めて上空を振り仰いだ。
 魔族の薄笑みには、やはり見覚えがあるような気がした。
 それに、天晶に触れたのに平然としているということは、相手はかなり高位の魔族だということになる。
 ――あの微笑みは……。
 葵はざんばらに斬られた髪を片手で掻き上げると、闇の向こうに消えた相手の姿を思い浮かべ、苛烈な眼差しで夜空を睨めつけた――



   「七.幕間」へ続く


いつもご来訪下さり、ありがとうございます♪
えーっとですね……巻ノ壱――次でラストです。いえ、巻ノ壱自体がプロローグのようなものなので……(汗)
人間ドラマ(←あるのか!?)も描けていなければ、物語も進んでいないので、極力早めに巻ノ弐に取りかかりたいと思います……うん、思います←(滝汗)

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2009.11.14 / Top↑
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