ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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一.闇



 羽が舞う。

 暗闇の中を雪のように真っ白な羽がひらひらと踊る。

 ――綺麗だな。

 男は、舞い散る羽を眺めながら陶然と目を細めた。
 闇に舞う羽の群れは幽玄の美を漂わせている。
 音も立てずに降り続ける羽の雨――

 ふと、男は純白の羽を掴もうと片手を伸ばした。
 だが、男が幾度指を動かしても、柔らかな羽は、はらり――と指の間を擦り抜けてゆく。

 ――しっかりと握り締めなくては。

 そう強く想うのに、焦れば焦るほど男を嘲笑うかのように羽は逃げてゆく。

 不意に、羽が花吹雪のように乱舞する。
 舞い上がる白き羽――その渦の中心に黄金色の輝きが生じた。
 長い金髪を羽とともに舞わせた美しい人――

 ――ああ、また逢えた……。

 眩い金髪を目にした瞬間、胸の裡から郷愁にも似た切なさが溢れてきた。

『――――』

 男は、無意識に黄金の影に向かって、その名を呼びかけていた。
 しかし、確かに唇に乗せたはずなのに、不思議と男はその名を思い出すことが出来なかった。

 ただ、とても大切で――愛おしい響きを宿していたことだけは間違いない。

 男の声が届いたのか、金色の佳人はゆるりとこちらを振り返った。

 今も昔も変わらぬ麗しい姿を確認した瞬間、強烈な欲望が芽生えた。

 ――起きなければ。

 切に想う。

 ――目醒めなければ。

 憎しみも哀しみも狂気も罪も咎も――全て背負ってくれると、そう誓ってくれた強く優しく、そして儚いあの人のために。

 男は渦巻く羽の壁を突き破り、片手を煌めく金髪へと伸ばした。
 相手の顔は羽に隠されて曖昧だが、口元には静かな微笑が刻まれていた。
 その艶めいた唇が何か言葉を紡ごうとした刹那――
 
 白刃が煌めいた。

 派手な血飛沫が上がり、視界を朱に染める。

 頭から夥しい量の鮮血を浴びて、男は恟然と息を呑み、目を瞠った。

 金色の佳人の首が斬り落とされたのだ――と理解するまでに、しばしの時間を要した。
 純白だった羽を真紅に塗り替えながら、佳人の胴体が闇に倒れ込む。
 長い髪に縁取られた首は羽の絨毯に転がり、切断面から絶え間なく血を垂れ流していた。

 豪奢な金髪を何者かが乱暴に掴む。

 首を斬り落とした相手が、鮮血に濡れた日本刀を片手に、もう一方の手で無造作に長い金髪を引いたのだ。

 ――やめ……ろ……!

 男は無性に泣きたい衝動に駆られた。
 佳人の首を斬り、その髪を引っ掴んでずるずると闇の中を引き返してゆく何者かは――紛れもなく男と同じ顔をしていた。

 ――目醒めたら、何か変わるのだろうか? 

 この世界がまだ血に飢えていた乱世であった頃に、己が犯した罪。

 数多の敵を斬って斬って斬り続けて――終には慈しむべき存在まで斬り捨てた。

 見殺しにした。
 
 ――もう一度切願すれば……覆せるのだろうか、この闇世を?

 男は苦痛に顔を歪ませ、遠ざかってゆく金色の首を茫然と眺めた。

 ――目醒めて、確かめなればならない。今一度……今一度、あの人と逢えるのか……。
 
 白から紅へと塗り替えられた羽の群れが、男を嘲笑うように闇に舞い上がる。
 気高き黄金の光輝は、もう何処に見当たらない……。

 果てしない血染めの闇だけが眼前に広がっていた――




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2009.11.24 / Top↑
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