ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 おかしい。
 先刻から同じ所ばかり何度も通っている――
 天空城を後にした水鏡は、この奇妙な事実に気がつき、足を止めた。
 視線を周囲に巡らせる。
 視界は三六〇度、深い緑に覆われている。
 水鏡が今立っているのは、森の中なのだ。この森を抜ければ、水滸城が沈む巨大な湖に辿り着くというのに、歩いても歩いても一向に森が終わる気配はない。
 何かの妖かしに囚われたか、何者かの術中にはめられたとしか考えられなかった。
 ――妖魔か?
 この天界で公然と天王に刃向かってくるのは、妖魔一族のしかいない。
 彼らの至上の歓びは、神々を喰らうことなのだ。《妖魔の森》の奥深くには、永き間に渡って幾多の天を貪り喰い、強大な力を得た魔物たちが棲み着いているという。奴らはしばしば《妖魔の森》を抜け出し、獲物を求めて天界を彷徨っているのである。
「フフフッ……」
 ふと、冷たい笑い声が水鏡の耳に届けられる。
 ――笑い声? やはり妖魔か?
 水鏡は双眸を鋭く細めると、片手を剣の柄へと伸ばした。
「――誰だ!?」
 険しい声音で誰何する。
 笑い声の主を捜そうと視線を動かした時、
 シュッッ!
 何かが物凄い速度で空を裂いた。
 ヒュン、ヒュン、ヒュンッ!
 と、続け様にソレは水鏡に襲いかかってきた――森の木々だ。
 突如として樹木が自由自在に枝を伸ばし、それを鞭のようにしならせて水鏡を狙い始めたのである。
「樹が相手とはな」
 水鏡は忌々しげに口の端を歪めると、樹木の攻撃を身軽に躱しながら鞘から剣を引き抜いた。
 薄青に輝く透明な刃が美しい細身の剣――水鏡の愛刀《青漣(せいれん)》だ。
 樹木の攻撃を避け、後方に宙返りする。
「行くぞ、青漣っ!」
 着地と同時に、青漣で襲い来る枝を薙ぎ払う。
 青漣の刀身は主の声に呼応するかのように青白く輝いていた。
 水鏡は四方八方から伸びてくる枝を目にも止まらぬ速さで斬り落とし続ける。だが、樹木は次から次へと連続攻撃をしかけてくる。
 ここは森なのだ。無数の木々が存在している。つまり樹木による攻撃が尽きることはない、ということだ。
 これでは埒が明かない。
 早々に樹木を操っている何者かを引きずり出す必要があった。
「チッ……! 切りがないなっ」
 水鏡は舌打ちを鳴らすと、防御の姿勢を解き、その場に片膝をついた。
「悪いな、蘭麗。大地から水を貰うぞ」
 青漣の切っ先を地面に突き刺す。
 片手を地に添え、瞼を閉ざした。
 動きを止めた水鏡に木の枝が容赦なく絡みついてくる。だが、水鏡はそれには目もくれずに一心に祈り続けた。大地に眠る水が自分に力を与えてくれるように。
 地天・蘭麗の許しを得たのか、地中の水が一気に蠢き始める。
 水の力が地に刺した青漣を介して水鏡に伝わってきた。
 青漣から蒼い冷光が漲り、水鏡の全身を包みこむ。
 水の力が充分に得られたところで、
「――青漣っ!」
 水鏡はカッと双眸を見開いた。
 青漣を地から引き抜き、鮮やかに刀身を一振りする。
 同時に、青漣の刃から蒼き閃光が飛び出した――水鏡の力を孕んで煌めく水だ。
 放たれた特別な水は、龍が如く空を駆け抜け、瞬く間に木々を打ち倒した。
「流石は水天・水鏡殿。そう簡単には捕らえさせてくれませんね」
 神々しい光が消え、水が大地に還った直後、すぐ間近で若い男の声が響いた。
「おまえが首謀者か……」
 水鏡は厳しい表情で声のした方向に首を巡らせた。
 声の主が樹木を操り、攻撃を仕掛けていたことは間違いない。
 木陰から背の高い男が姿を現す。酷薄そうな灰色の眼差しが、真っ直ぐに水鏡を射た。
「初めてお目にかかります、水鏡殿。俺は、紫姫魅天配下の悧魄(りはく)と申します。紫姫魅様の命令により、あなたの生命をいただきに参りました」
 水鏡の前で立ち止まると、悧魄は悠然と微笑んだ。




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2009.06.03 / Top↑
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