ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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二.蝶



 いつもと変わらぬ夕暮れ時――
 私立聖華学園前の通りは、渋い緑色に染め上げられていた。
 独特の制服に身を包んだ生徒たちの群れである。
 榊葵は、駅へと向かう人の流れに乗って学園を後にした。
 隣には、何故だか三条風巳の姿が当たり前のようにある……。
風巳が聖華学園に編入してきてから既に三週間――いつしか葵と風巳の間には奇妙な対人関係が形成されていた。クラスメイトたちに言わせると葵と風巳は『短時間で友情を育めるほど意気投合している』ように見えるらしいのだ。
 葵にとっては甚だ迷惑な見解でありイメージである。
 葵と風巳は――神族と魔族。
 どうあっても相容れない存在だ。
 宿敵同士、互いに本心を晒さないように表面上はクラスメイトとして取り繕っているだけなのだが……。
 驚くことに、それが他人の目には『仲良く』映るらしい。
 葵としては至極不本意だ。
 葵は神族の長であり、風巳は条家の一員――親交が深まるわけもない。
 だが、葵の双子の弟である茜が拉致されて以来、風巳は何も仕掛けてこない。何らかの思惑があるのだろう。だから、葵としても迂闊に彼には手を出せない。
 斯くして、クラスメイトを演じる平穏な学園生活は続き、今日もまた葵は風巳と共に家路についていた。
 葵の方は一緒に下校する気など更々ないのだが、風巳は頑なに傍から離れようとしないのだ。おかけで葵には心休まる時間がない……。

 ふと、隣で風巳がクスクスと忍び笑いを洩らす。
 葵は自然と渋面で彼を見遣った。この転校生は、時折こうして葵の気を引くかのように思い出し笑いをするのだ。いつものことなので放っておけばよいのだが、やはり気に懸かり、結局は風巳の方へと目を向けてしまう。
「――何?」
「ん? いや……髪を短くしたら、ホントに茜とそっくりだなぁ、と思って」
 勝手に茜のことまでも呼び捨てにしながら、風巳がじっと葵を見返してくる。
「……誰がそうしたんだか。まあ、また伸ばすからいいけど」
 溜息混じりに告げた直後、葵はフッと双眸を細め、足を止めた。
「ところで――これは、一体何の真似だ?」
 葵は探るような眼差しで風巳を睨めつけ、次いで無表情に周囲を見回した。
 いつの間にか辺りが得体の知れない妖気に包まれていた。
 葵と風巳を除く他の生徒たちの姿は朧に視えるが、水のヴェールのようなものを一枚隔てているような奇妙な感覚だ。
 一瞬にして、自分たちは何者かが織り成す《結界》の中へと引きずり込まれてしまったらしい。
 葵たちを取り囲んでいるのは、紛れもなく魔物の悪意――鬼気だ。
 無論、魔族である風巳がそれに気づかないわけがない。
 しかし、彼は葵に敵意を突きつけられても、悪びれた様子もなく肩を聳やかした。
「残念だけど――俺じゃない。俺は、こんな明るい内からおまえを襲うほど馬鹿じゃない」
「……嫌な《氣》だ。同族なら何とかしてほしいね、風巳」
「オイ、無理を言うなよ。仮に同族だとしても――どうして俺が、仲間の邪魔をしなきゃならない? 今更、説明する必要もないと思うけど、俺、敵だからな。それに、妖怪・物の怪・鬼・魔物――それらを封じたり滅したりするのが、おまえの仕事だろ」
 風巳が呆れ顔を向けてくる。
 葵は漂う妖気に強い不快感を覚え、険しく眉根を寄せた。
 コツ、コツ、コツ……。
 微かな靴音が耳を掠める。
 葵はひどく緩慢な動作で風巳から視線を離し、足音のする方へ首を巡らせた。
 コツ、コツ、コツ――
 すぐ間近で足音がピタリと止まる。
 純白のセーラー服を纏った少女が目の前に立っていた。
「……あの……聖華学園へ行くには、この道でいいんですか?」
 少女が葵を見上げ、躊躇いがちに問う。
 制服からして聖華学園の生徒ではない。この界隈で『純白のセーラー服』と言えば青蘭女学院しかない。おそらく少女は青蘭の生徒なのだろう。
 艶やかな黒髪は、肩の上で前下がりのボブに切り揃えられている。心なしかその美しい髪は仄かに紫がかって見えた。大きな瞳も髪と同じく不思議な色合いをしている。それが、純白の制服と相俟り、少女の華やかな美しさを更に際立たせていた。
「そうですけど……」
 葵は怪訝に思いながらも少女に応じていた。
 妖気の充満したこの場に平然と姿を現すこと自体がおかしいのだが、葵の視線は何故だか少女に釘付けにされたまま動かなかった。
 葵と目が合った瞬間、少女は笑った。
 綺麗な顔貌には不釣り合いな嗤い方――冷酷な微笑みだ。
「フフッ、榊葵さんですね? ちょっと苦しいけれど、我慢して下さいね」
 やにわに少女はフワリと優雅に両手を広げた。
 刹那、少女の掌から無数の蝶が舞い、葵に襲いかかる。
 白銀と紫紺が融け合ったような魅惑的な輝きを放つ蝶の群れだった。
 蝶たちが薄紫の鱗粉を撒き散らしながら狂ったように飛び交う。
 驚く間もなく、葵の身体は蝶に取り囲まれた。
「――あっ……! つっ……かざ……み――」
 急激な頭痛が葵を襲う。
 朦朧とする意識の中で、葵は風巳を垣間見た。
 風巳は苦い表情で葵と少女を見比べている。
 それが、意識が弾け飛ぶ直前に見えた最後の光景だった――



巻ノ壱に引き続き、一緒にいるシーンが少ない気がします、榊家の双子……( ̄ー ̄;
 
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2009.11.25 / Top↑
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