ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 三条風巳は、大きく傾いた榊葵の身体を片腕で素早く支えた。
 意識のない葵の体重が腕に重くのしかかる。
 風巳は乱舞する蝶の群れをひどくつまらなげに一瞥した。
 風巳の双眸がフッと魔族特有の血の色に変化する。その瞬間、葵に群がっていた妖冶な蝶たちは、シャボン玉が弾けるようにして跡形もなく消え失せたのである。
 瞳の色を元に戻した風巳が剣呑な視線を向けると、純白のセーラー服を纏った少女は整った顔に苦笑を浮かべた。
「随分と優しいのね、風巳。クラスメイトとして過ごすうちに、早くも情が移ったのかしら?」
「別に……」
「わたしにもそれくらい優しければいいのに。――さあ、神族の王を渡してちょうだい。わたしが捕らえたのよ」
「悪いけど、それは出来ないな。葵は俺のものだ。もちろん魔王の地位もな」
 風巳は両手に葵を抱え直し、揶揄するように口の端をつり上げた。
 それを受けて、少女がせせら笑う。
「あら、残念ね。魔王様はわたしたち条家の者に、こう云ったのよ。神族の王を捕らえた者に魔王の座を譲る――と」
 少女が大きな瞳に強気な輝きを宿して風巳を睨み上げる。目の色が更に紫がかり、彼女の美貌に凄惨さを加えた。
「だから、次期魔王はこのわたし――二条繭羅(にじょう まゆら)よ」
「諦めろ。おまえには魔王の地位は手に余るだろ?」
 自信たっぷりに宣言する繭羅を冷ややかに睥睨し、風巳は軽く鼻を鳴らした。
「わたしを……見くびっているのね、風巳? こう見えても、わたしは条家筆頭である一条家に次ぐ家柄――二条家の当主よ。未だ覚醒しきっていない、風巳なんか怖くないわ」
「俺が完全に目醒めたら、真っ先におまえを喰ってやるよ、繭羅」
 風巳が挑発するように口の端を引き上げると、繭羅も負けじと睨み返してきた。繭羅の紫色の双眸が徐々に真紅へと変化してゆく。
「何よ、偉そうに……!  一条の護りがなければ、その能力の半分も出せないくせに――」
「今、ここで八つ裂きにされたいのか? 覚醒したら俺は誰よりも強くなる。だから、龍一なんて――要らない」
 風巳は低い声音で唸るように言葉を紡いだ。
 脳裏に金髪青年の姿が浮かぶ。
 ふと、胸に針で刺されたような小さな痛みが生じたが、風巳はそれに気づかない振りをして青年の姿を意識の彼方へと押し遣った。
「……本当に要らないなら、わたしが貰うわ。あなたも他の条家も魔王の座も――全部わたしが貰ってあげる。だから、邪魔しないで、風巳。悪いけど、あなたにも眠ってもらうことにするわ」
 繭羅がスッと両眼を細め、俊敏に風巳の傍へ寄る。
 風もないの繭羅の髪が宙に舞い上がった。
 ほぼ同時に、彼女の全身から若紫に輝く蝶が一斉に羽ばたき、風巳を包み込んだ。
 蠱惑的な鱗粉を撒き散らす蝶の群れが、風巳を不可思議な世界へと誘う。
 直ぐさま、呼吸が困難に陥り、意識が急激に低迷した。
 混濁する意識の中で抵抗をしようと試みたが、先ほどのように巧くはいかなかった。繭羅はかなりの鬼気を放出しているらしい。
 何が何でも葵ごと風巳を捕縛するつもりなのだ。
 噎せ返りそうなほど大量の鱗粉を舞わせ、蝶たちが容易く風巳の意識を絡め取る。
 強烈な毒に侵されたかのように身体が麻痺し、意識が闇へと堕ちてゆく。
 とうとう風巳は力なくその場に崩れ落ちた。
 闇へと失墜する意識の中、朧気だが金色の輝き見たような気がする。

 漆黒の世界を浮遊する、真っ白な羽。
 太陽の如く煌めく長い金の髪。
 和服の裳裾を翻して舞う艶やかな姿。
 ゆるりと振り返る、美しく、そして狂おしいほどに愛しい――――

 ――りゅう……いち……?

 音にはならない呟きを最後に、風巳の意識は完全に闇に呑み込まれた。

     *

 微動だにしなくなった風巳を見下ろし、二条繭羅は悦楽の笑みを美顔に浮かべた。
 手に入れたのだ、神族の天主を。
 それも、三条風巳という特典つきで。
 繭羅はその場にしゃがみ込むと、失神している風巳の唇を指でなぞり、愛しげに囁いた。
「やっと捕まえた。わたしの大好きな、風巳――」
 唇から頬へと指を滑らせる。
 そうしながら繭羅は、風巳の腕に抱かれたまま眠っている榊葵に目を向け、思い切り眉をひそめた。
 神族の天主のくせに風巳と仲良く友人ごっこだなんて、片腹が痛い。
 たとえフリだと解っていても、風巳が葵と親密を装うのは物凄く腹立たしかった。
 ――風巳を惑わせる嫌な男……。邪魔なのよ。どう料理してくれようかしら?
 魔王がこの世に降臨するまでは、葵の身体と魂は繭羅の掌中にあるのだ。
 葵に対する怒りと憎悪をどう処理すべきか考えを巡らせながら、繭羅は静かに冷笑を湛えた……。



     「三.臨時教師」へ続く



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2009.11.28 / Top↑
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