ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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三.臨時教師



 ――マズイ。完全に遅刻だ。
 聖華学園脇の狭い通りを走りながら、榊茜はチラと腕時計に視線を落とした。
 時刻は午前八時三七分――
 今頃、教室は朝のHRの真っ最中だろう。
 茜は充血のために痛む目をしばたたかせ、眠気を払拭するように軽くかぶりを振った。
 昨夜は一睡もしていないのだ。
 いつまで待っても自分の半身である双子の兄――葵が帰って来なかったからである。
 心当たりのある場所は捜し、友人にも電話をかけてみたが全く収穫はなかった。
 もちろん本人の携帯電話にもコールしている。しかし、そちらは電源が切られているか電波の届かない場所にあるらしく、虚しいマシーンボイスが繰り返されるだけだった……。
 高校三年の男子が一晩帰って来ない――理由は色々考えられる。
 なので、茜が勝手に大騒ぎした後で葵が窮するような事態に発展しても困る……。
 だが、やはり葵の身は心配でたまらない。
 夜中にひょっこり帰宅する可能性あるので、茜はオンラインゲームで時間を潰しながら葵の帰りを待っていたのだ。
 結局、葵は戻らず――茜は不眠のままで夜を明かした。
 今朝も妹の夏生を先に学園へ送り出し、自分はギリギリまで待っていたのだ。
 けれども、葵からの連絡は一切なく、無為に時間だけが過ぎてゆく……。
 ――学園へ行って、あの三条風巳とかいう男に問い質した方が早いかもしれない。
 そう考えを改めることにし、茜はやきもきした気持ちを抱えながら学園へ向かったのだ。
 葵のクラスに編入してきた時期外れの転校生――三条風巳。
 条家の一員である彼ならば、葵を傷つけようと何らかの策を弄したとしてもおかしくない。神族の長である葵の傍にいながら、魔族としての攻撃を仕掛けて来ない方が稀有だったのだ。
 茜は、通りに人影がないことを確認すると地を蹴り、軽やかに跳躍した。聖華学園をぐるりと囲む高い塀を一息に跳び越える。
 体重を感じさせない鮮やかな身のこなしで着地すると、そのまま無人の校庭を突っ切り、校舎へと駆け込んだ。
 HRのために皆とっくに教室へ入っている。
 そのせいなのか、巨大な校舎は森閑としていた。

 無人の廊下を全速力で駆け抜け、茜は三年E組のドアを開けた。
 瞬時、クラスメイトたちの視線がパッと集中する。
 彼らの素早い反応に僅かにたじろぎながら、茜はクラス内でも親交の深い幾人かの級友たちに苦笑を向け、室内に足を踏み入れた。
 疾走のせいで乱れた呼吸を整えつつ、自分の机に着席する。
 間を空けずに、
「榊茜くん――遅刻だよ」
 教壇から声がかけられた。
 ――あれ? いつもと違う声だな。
 耳に届いた声に違和感を覚え、茜は微かに眉根を寄せた。
 担任である望月の声ではない。
 しかも、嫌な感じで聞き覚えのある声音だ。
 茜は恐る恐る面を上げ、教壇へと目を向けた。
「――――!?」
 輝く金髪が視界を掠めた瞬間、茜は驚きに息を呑んだ。
 衝撃のあまりに、思わず座ったばかりの椅子から立ち上がってしまう。
「――えっ!? 何で、おまえが聖華にいるんだよ!?」
 茜が人目も憚らずに大声をあげると、教卓に両手をついてこちらを眺めている相手は悠然と微笑んだ。
 少し長めの金色の髪。
 耳には燃えるような煌めきを放つ紅玉のピアス――
 間違いない。つい先日、自分を拉致した青年だ。
 あの日の失われた記憶は、ほぼ甦っている。
 ハンサムな顔に似合わず珍妙な性格の青年。
 それが何故、三年E組の教壇に立っているのか皆目見当もつかなかった。
 茜は猜疑の眼差しを青年へ向けた。それを受けて、また青年が微笑する。
「おや、何処かで逢ったかな? 君みたいな綺麗な子は、一度逢えば絶対に忘れるはずはないんだけど……」
 いけしゃあしゃあとしらばっくれ、青年こと一条龍一は愉しげに口の端をつり上げた。
「はじめまして、一条龍一です。望月先生が怪我で入院することになりましたので、急遽このクラスの臨時担任、兼数学教師として赴任することになりました。望月先生が退院されるまでの短い間ですが、どうぞよろしく――」
 龍一は至極穏やかな表情でそう告げた。
 あくまでも初対面を貫き通すつもりらしい。
 ――望月先生が怪我? ……って、どうせ聖華に潜り込むために、おまえがわざと怪我させたんだろっ!?
 胸中で激しく龍一を罵りながら、それでも茜は表面上は平静を装って再び腰を下ろした。
「そうそう、榊くん――この前の数学のテスト、赤点でした。HRが終わったら、先生のところへ来て下さい」
 にこやかに言葉を紡ぎ、一条龍一は颯爽と教壇を降りる。
 教室を出て行く後ろ姿を苦々しげに見送りながら、茜は重い溜息を吐き出した。
 前途多難の日々が続きそうだ。




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2009.11.29 / Top↑
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