ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 寝不足と不愉快さのせいで強まる頭痛に顔をしかめながら、茜は廊下を歩いていた。
 行き先は職員室ではない。この名門私立聖華学園には、教師一人一人に個室が用意されているのだ。十畳ほどの個室だが、教師たちが快適に仕事をこなし、休息を取れるように設備は整っている。
 臨時教師であっても、それは例外ではない。空いている個室が、一条龍一のために用意されているはずだ。
 ――条家の人間……しかも、あんな変態を採用するなんて……! 何を考えてるんだ、学園長の奴……!?
 茜は、教師専用の個室がズラリと並ぶ廊下を進みながら心の裡で毒づいた。
 ――後で必ず抗議しに行ってやる!
 密かにそう決意し、個室にドアに掲げられたプレートに『一条龍一』の名を探しながら先へと進む。
 聖華学園の創立者・榊聡子――茜は、彼女の直系の孫に当たる。
 更に、今も尚この学園の経営者であり続ける榊家の自分には、それくらいの権限は許されているはずだ。
 ――解雇だ、解雇! 即刻解雇……って、アレ以上の変人教師も雇ってるし……無理かな? ああ、そういえば保健室の先生も『女性に変えろ』って男子からの苦情が多いんだっけ……? 何か、色々と面倒臭いな……。
 一瞬にして脳裏に様々な事柄がよぎり、茜はげんなりとした。
 毎朝ポルシェで学園に乗り付ける、超美形だが超ナルシストでもある超耽美な世界史教師。
 十五センチのピンヒールで廊下を闊歩し、胸元をザックリと開けたボンテージファッションで授業を行う妖艶な数学教師。
 ……その他諸々、自由な校風をモットーにしている聖華学園には、変わり者の教師が多く在籍しているのだ。
『龍一を解雇しろ』と訴えれば、学園長は喜々として『では、ついでに誰々先生とか何某先生も排除すべきですな』と扱いに手を焼いている教諭たちの名を列挙するに違いない。
 それはそれで面倒臭い事態に発展するので、茜は仕方なく『龍一を解雇する』という案を撤回した。担任である望月が復活するまで我慢すればいい話だ……。


 一条龍一の個室を発見すると同時に、茜は視界の端に黄金色の輝きを認めて思わず足を止めた。
 個室前の廊下に、携帯電話片手に壁に背を凭せかけて佇んでいる男子生徒を発見したのだ。
 綺麗に染め上げられた金髪がパッと目を引く。
「――アレ? 茜さんだ。おはようございます」
 相手も茜に気づいたらしい。彼は、素早く携帯電話を制服のポケットにしまうと、こちらに顔を向けて嬉しそうに笑った。
 窓から射し込む光が、彼の左耳を飾る金輪のピアスをキラキラと輝かせる。
 一つ年下の従弟・有馬美人(ありま よしひと)の幼なじみ――曽父江零治(そふえ れいじ)だ。美人と同じく二年B組に所属している。
「ああ、おはよう……。こんな所で何してるんだ?」
「そりゃあ、もちろん――ビジンを待ってるに決まってるじゃないですか」
 茜が訝しげに問いかけると、零治は一条龍一の個室にチラと視線を投げた。
 美人のことを『ビジン』と呼ぶ零治は、美人のことをとても大切にしてくれている。傍から見ていて恥ずかしくなってしまうぼとの過保護振りなのだ。
「あの、臨時のセンセ――俺と同じ金髪だから気に喰わないし、何かよく解んないけどちょっと心配だし……。やっぱ一緒に中に入ればよかったかな?」
 零治が渋面を湛え、面白くなさそうに溜息を落とす。
 携帯電話を触っていたということは、美人が龍一の個室に入ってから結構な時間が経過しているのだろう……。
「美人は一条先生と一緒なのか?」
 茜は芳しくない声音で訊ね、一条龍一の部屋のドアを眺めた。
 零治がそれに答えるより早く、視界の中で扉が開き――話題の人物・有馬美人が姿を現した。
 黒曜石のような切れ長の双眸が、茜の姿を確認して柔和な光を宿す。
 ハッと目を奪われるような純和風の美少年だ。
「遅かったな、ビジン」
「――え? 中に入ってから、まだ五分も経ってないはずだけど……?」
 あからさまに不機嫌な零治を見て、美人が苦笑混じりに応じる。それから彼は茜に向き直った。
「茜さんも一条先生に呼ばれたんですか?」
「まあ……って、美人こそどうして此処に?」
「僕たち二-Bも数学の担当は望月先生なんです。なので、今、代理の一条先生にクラス名簿を届けきたところです。あの人――この前、茜さんと一緒にいましたよね? 間近で見ると、金髪の似合う端整な人ですね」
 美人が屈託なく言葉を紡いだ瞬間、幼なじみの零治の顔が可哀想なくらいに引きつった。
「――間近っ!? 端整っっ!? いくら金髪フェチだからって、迂闊に見知らぬ相手に近づくなよ! つーか、金髪なら断然俺の方が似合うし、絶対イイ男だし――」
「何言ってるの? 僕は金髪になんて全く興味ないし――ちょっと茜さんと話をしたいから先に戻っててよ、零治」
 美人が怪訝そうに眉をひそめて零治を見遣る。
「興味――ないっ!? そうか……興味ないのか――」
 美人に冷たい言葉を浴びせられ、零治が青ざめた顔で悄然と項垂れる。そのまま踵を返すと、彼はフラフラと覚束ない足取りで廊下を進み始めるのだ。
「……いいのか、アレ?」
 茜は、『俺、何のために金髪にしたんだっけ……?』とブツブツと呟きながら去ってゆく零治の後ろ姿を憐れみの眼差しで眺めていた。
 茜の記憶が正しければ――確か、中学生の頃、初めて金髪にした零治を見て美人が『零治の金髪、綺麗だね』とか『カッコイイね』とか褒めまくって以来、ずっと彼は金髪を貫き通しているはずなのだ……。
「いいんですよ。最近、過保護の度合いが増してきたので、突き放すくらいがちょうどいいんです」
 美人がそっけない口調で告げ、大仰に溜息を洩らす。
 その言動の裏には『大切な幼なじみを厄介事に巻き込みたくない』という切実な想いが込められていた。神族や魔族のことなど微塵も知らぬ幼なじみを、こちらの勝手で殺伐とした事情に引きずり込みたくないのだろう。
「まあ、確かにビックリするくらい過保護だけどな……。けど、俺も零治の意見には賛成だな。一条先生には無闇に近づかない方がいい」
「また、茜さんまで零治みたいなこと言って……。あの人、凄く優しそうだし、とてもイイ人そうでしたよ」
「あいつが優しいっ!? イイ人っっ!?」
 無邪気な感想を述べる従弟に対して、茜は先ほどの零治同様思いっ切り顔を引きつらせた。
 美人は絶対に何かを誤解している。
 茜は驚愕の眼差しを美人に向け――そこでハッとした。
 思い返してみれば、『自分を拉致したのは一条龍一という男だ』という真実を誰にも打ち明けていないことに気がついた。
 救出されてからしばらくは記憶が曖昧な日々が続いていたし、どうしても葵のクラスに転校してきた三条風巳にばかり意識が行きがちだった。
 その上、自分を攫った金髪男が学園に赴任してくるなど予測もしていなかったので、注意を喚起してもいない……。
 美人は一条龍一が性格に難ありの魔族だという事実を知らないのだ。
「美人……おまえ――変なことされなかったか?」
「変なこと――ですか?」
 小首を傾げながら美人が聞き返してくる。
「えっ、その……何だ……手を握られたり、髪を触られたり――とか」
「やだなぁ、茜さんったら。そんなことあるわけないですよ。――ところで、葵さんから連絡はありましたか?」
 微苦笑で否定した後、美人は不意に真剣な面差しで話題を転換させた。
 茜は無言で首を横に振った。
「そうですか……」
 美人は秀麗な顔を翳らせた。心優しい従弟は、一睡もしていない茜の疲弊した顔を見て、葵の身だけではなく茜の身をも案じたに違いない。
「僕の方でも手を尽くして捜してみます。――それじゃあ、授業があるのでもう行きますね。あまり無理しないで下さいね、茜さん」
 最後に労りの一言を添え、美人は背を返した。
 廊下を進む足取りは心なしか常よりも速い。きっと、今ならまだ幼なじみに追いつけるかもしれない、と考えているのだろう。
 そんな従弟の姿を微笑ましく見送ってから、茜は一条龍一の待つ個室の扉を引き開けた。



いつもご来訪下さり、ありがとうございます♪
折角同じ聖華学園にいるので、ちょっとだけ零治を出してみました。
零治って誰? ――と思った方は、「鏡月魔境」か「水幻灯」を斜めに読んで下さい(汗)

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2009.11.30 / Top↑
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