ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 室内に足を踏み入れる。
 一条龍一はコーヒーを飲んでいたらしく、マグカップに唇をつけたまま上目遣いに茜の姿を確認した。
 黄金色の髪から覗く鳶色の瞳は、彼が魔族であることを忘れてしまいそうになるほど澄んだ輝きを放っている。
「何の用ですか、一条先生?」
 茜は龍一の視線を真っ向から受け止め、わざと『先生』という言葉に強いアクセントを置いた。
 それを受けて龍一が苦笑を湛える。
「君に『先生』なんて言われると皮肉に聞こえるな」
 龍一はマグカップを机に置くと、脇に設えられている小さな応接セットへ移動した。
「プライベートな時は龍一でいいよ、茜」
 龍一が茜を振り返り、気さくな感じで手招きをする。
「プライベートって……今、プライベートなのかよ」
 馴れ馴れしい呼び捨てに軽く眉根を寄せながら毒づく。
 微笑で受け流す龍一を視野に納めながら、茜は用心深く彼の向かいのソファへ腰かけた。不覚にも前回は彼にしてやられてしまったので、当然今回は彼の手の届かない位置を選んだ。
「――で、赤点のテストは?」
 寝不足の不機嫌さ隠しもせずに、茜はぶっきらぼうに問いかけた。
 龍一がソファから身を乗り出し、執務机の上から答案を引き寄せる。
 応接テーブルの上に差し出された数学の答案を見て、茜は片眉をはね上げた。
 答案には『97点』という輝かしい数字が赤ペンで書き込まれている。
「……赤点じゃなかったのか?」
「とんでもない。アレは君を呼び出すための方便だからね。非常に優秀な成績で、私も安心したよ」
 龍一は悪びれもせずにニヤリと唇をつり上げた。
 ――何て奴だ……!
 茜は心の中で舌打ちを鳴らした。聖華学園にいる限り、龍一は教師という立場をフルに活用して茜たちにちょっかいを出して来る気らしい……。
「随分と……機嫌がいいみたいだな?」
「ああ、この学園は美少年が多いからね。さっきの子は格別に綺麗だったな」
 龍一が視線を遠くに馳せ、フッと思い出し笑いを零す。
 有馬美人の麗姿を脳裏に描いているらしい。
 反射的に茜はきつい眼差しで龍一を睨んでいた。
 変わり者の魔族に従弟を攫われてはたまらない。
「おや? 妬いているのかい?」
 茜の真摯な怒りをどう捕らえたのか、龍一は愉快そうにまた微笑んだ。
「絶対にない! 美人に――変なことしてないだろうな?」
「へえ、ヨシヒトっていうんだ、あの子」
「オイ、妙な真似をしたら承知しないからな! 美人は俺の従弟だ!」
 憤然と言い切る。
 一拍の間を措き、龍一は鋭利な光を双眸に閃かせた。
「――と、いうことは、榊聡子の孫に当たるのかな?」
 龍一が満足そうに言葉を唇に乗せる。
 ――しまった。うっかり墓穴を掘った……。
 龍一の指摘に茜はぐっと口籠もる。美人が神族――それも榊家の血を濃く受け継いでいることを自ら暴露してしまったのだ。失態以外の何ものでもない。
 茜は自己嫌悪に唇を強く引き結んだ。
「まあ、榊聡子の血族は他にもいるんだろうけどね……。流石は、神族の天主だったくせに《魔女》と畏れられた彼女が創った学園だね。色々と面白い発見がある」
「おまえのご同族がたくさん封印されてるだけだ」
 薄笑みを湛えたまま話題を換えた龍一に向かって、茜は無愛想に応じた。
 聖華学園――常人にはただの広大な私立学園にしか見えないのだろうが、感受性の強い人間の目には得体の知れない不気味な墓場として映るだろう。
 先々代の天主であった榊聡子は、魔物や鬼の封処としてこの学園を建てたのだ。
 そのため、校舎をはじめ敷地内には何のために創られたのか解らぬ特別教室やオブジェ、開かずの扉が幾つも存在しているのである。おかげで聖華では怪談話が絶えない……。
「オンラインゲーム《鏡月魔境》のモデルになった開かずの扉――この学園にあるんだってね? ネットのカキコミで聖華の《魔境伝説》が随分話題に上っていたよ。だから、茜もあのゲームに登録したんだろう?」
「……そっちも同じだろ。《魔境伝説》は学園の七不思議的に都内では広く知られている。けど、《鏡月魔境》という固有名詞を知っているのは神族でも一部の者だけだし、あとは仲間を奪われた魔族だけだ」
「仲間っていうか――あそこに封じられている魔境の王様、確か……古い時代の一条家当主だって伝え聞いてるんだけど?」

《魔境伝説》というのは、聖華学園に残される三大伝説の一つだ。
 一つ目の《水妖伝説》は、九月九日、その日が月のない夜ならば中庭の噴水から水の妖かしが出現し、人々を殺める――というもの。
 二つ目の《月光樹伝説》は、校庭の隅にある月光樹と呼ばれる巨木が十年に一度華を咲かせた時、異界への道が出現し、人喰い魔女の館へと誘われる。
 そして、最後の《魔境伝説》は、旧校舎第一音楽室の開かずの扉は魔境へと繋がっており、学園内で引き起こされる怪事は魔境から抜け出して来た魔物たちの仕業である――というものだった。

「元々《鏡月魔境》は、魔王に叛旗を翻した遙か昔の一条家当主が、彼に肩入れした五条の姫と一緒に幽閉された異空間だったはずだ。いつの時代の話かは知らないけれど……。それが何でか君のお祖母様の手によって空間ごと封じられ――《魔境伝説》として語り継がれている訳だ。アレ――ウチのご先祖様みたいだし、肉体だけでも返してくれないかな?」
 冗談とも本気ともつかない口調で龍一が告げる。
「無理。あの扉、お祖母様の強力な封印がかけられているし――そもそも、俺はお祖母様の時代の話なんて詳しく知らない。噂の魔境が実在するのかも解らないし、魔境におまえの先祖が封印されているのかも定かじゃない」
 茜は即答で龍一の申し出を拒絶した。
 祖母が苦労して封じ続けた古の魔物たちを解放するなんて、冗談ではない。祖母から譲り受けたこの学園を護り、魔物たちを眠らせ続けておくことが榊の血族の使命でもあるのだから……。
「そんな昔話より――まだ呼び出された本当の目的を聞いてないんだけど?」
「ああ、そうだったな。今は伝説やゲームについて語り合ったりしてる場合じゃなかったね。ゲーム論については、いずれ日を改めて――」
「いや、俺、おまえとゲーム談議する気なんて更々ないからな! ゲームの《鏡月魔境》も事情を知る何者かの嫌味な遊びらしい、って気づいたからもうプレイしてないし――とにかく、授業中以外は俺に話しかけるな。早く用件を言え」
 己が魔族だということを忘れたかのようにのんびりと告げる龍一を遮り、茜は矢継ぎ早に言を連ねた。何をどう考えても、神族と魔族が仲良くゲームについて語り合うなんて無理に決まっている。ましてや茜は彼らに血を啜られているのだ。迂闊に近寄りたくはない。
「用件というか……まあ――風巳様がいなくなった」
 先ほどまでの飄々とした雰囲気を潜め、龍一が至極真摯な声音で告白する。
 風巳というのは、三条家の当主だ。こともあろうに葵と同じクラスに在籍している。
 茜は、葵が帰宅しないのは風巳の仕業だとばかり思い込んでいた。だが、龍一の口振りから察するに、それは見当外れな推測であったらしい……。
 風巳までもがいなくなった、とは納得がいかない。
「葵も昨夜から姿が見えない。そっちの企みじゃないのかよ?」
「少なくとも風巳様の謀ではないよ。おそらく二人一緒に攫われたんだと思う。いや、犯人はもう判ってるんだけどね――」
 龍一が自嘲の笑みを浮かべ、スーツのポケットから一枚の写真を取り出す。
 茜の前に差し出された写真には、真っ白なセーラー服を着用した美少女が写し出されていた。
「青蘭女学院高等部、一年百合組――二条繭羅だ」
 言い終えた直後、龍一の顔に刻まれた自己に対する嘲笑が更に深まった。



ご来訪、ありがとうございます♪
ブログでは「鏡月魔境」の方を先に掲載していますが、生まれたのは「妖鬼伝」の方が先だったりします(汗)
コレはお蔵入りにしようと思っていたので、ここで生まれたキャラをアチコチに引っ張っています。特にビジン(笑)
なので、作品同士はパラレルな関係だと思っていただければ幸いです(;´▽`A``

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2009.12.02 / Top↑
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