ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
 写真の中の少女は綺麗な顔立ちをしている。
 なのに、一目見た瞬間、何故だか背筋がゾワリと粟立った。
 生理的嫌悪――写真に刻印された少女からは紛れもない鬼気が放たれている。
「二条――ってことは、条家か?」
 茜は少女――二条繭羅に視線を落としたまま苦い声で訊ねた。
《条家》というのは魔族でも高位に位置する家柄の総称だ。
 主な家名に、一条・二条・四条・五条・六条・九条・上条・下条・久我条などがある。
「そう、条家の一人――二条家の若き当主だ。君の片割れも私の風巳様も彼女に連れ去られたみたいなんだ」
「――それで?」
「手を組まないか? 私は風巳様を繭羅の魔手から護らなければならないし、茜は葵を取り戻さなければならない」
「条家なら……おまえの仲間だろ? 俺と手を組んで何のメリットがあるのか――理解できない」
 茜は写真から目を離し、龍一へと猜疑の眼差しを向けた。
「メリットなら大有りだ。我々のルールではね、神族の天主を生きて魔王に献上した者が次期魔王として認められることになっているんだ。二条の繭羅が葵を掌中にした――要するに、それでは風巳様が魔王になれない、ということだ。繭羅に葵の生命を奪われても風巳様は魔王になれなくなる」
 龍一が淡々と述べる。その割りに茜を見返す双眸には強い意志と情熱が秘められていた。
 条家の間でどのような確執や諍いがあるのか――それは茜には無関係だし興味もないが、龍一が心の奥底から風巳を救出したがっているという心意気だけはひしひしと伝わってきた。
「つまり、おまえは何よりも誰よりも風巳様が大事だというわけだ。彼のためなら仲間割れをしても構わない――と?」
 茜が揶揄混じりに言葉を口にすると、龍一は気を害した様子もなくアッサリと首肯した。
「そういうことだね。だから、一時休戦して手を組まないか? 私は繭羅の情報を持っているけれど、残念ながら彼女を凌ぐほどの能力は持ち合わせてはいない。君は《力》はあるけれど、相手に関しての知識はゼロだ。取引するには悪くない条件だと思うけれど?」
 龍一が茜に向けてニッコリと笑う。茜が自分の申し出を断らないことを疾うに確信している余裕のある微笑みだった。
 龍一が風巳第一主義であるのと同様に、茜が葵至上主義であることを見抜いた上での提案なのだ。
「……断りたいところだが、仕方がないな。ただし、今回だけだ」
 茜は不承不承だが龍一の誘いに乗った。
 実のところ現代条家の当主情報については皆無に等しいのだ。魔王が表に姿を現さないので、主要条家たちもひっそりと息を潜めているせいだろう。鬼気を極限まで抑え込んで普通の人間の日常に紛れていては、見つけるのは非常に困難なのである。
 条家の情報を得るためにも、この際、出来る限り龍一を利用させてもらおう。
 葵を奪還するためには仕方がない。
 そう割り切ることに決めた。
「一々言わなくても解ってるさ。この一件に片がつけば、君と私は宿敵同士に戻るだけだ」
「じゃあ、そういうことで。ところで――本当に聖華の教師なのか?」
「正真正銘聖華学園の臨時教師だよ。この前、教員免許持ってる――って、ちゃんと説明したはずだけど?」
 龍一が心外そうな顔つきで片眉をはね上げる。
 この前――とは、茜がまんまと騙されて龍一のマンションに連れて行かれた時のことだろう。確かに、教員免許や塾の講師が云々の話をされたような気がする。だが、あの時は妹のことが気懸かりで龍一の話など半分も耳に残ってはいなかった……。
「まあ、免許持ってるなら、とりあえずはよしとするけど……。放課後、寄るところがあるから、教室を出たら声をかけてくれ」
 茜は事務的に告げて、ソファから立ち上がった。
 ――何処の学校に、ド金髪で真っ赤なピアスしてる教師がいるんだよ……!
 心の裡で龍一に対する不満を吐き出しながら、茜は彼の個室を後にした――



     「四.有馬家」へ続く



 にほんブログ村 小説ブログへ  
← NEXT
→ BACK

ブログパーツ
スポンサーサイト
2009.12.04 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。