ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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四.有馬家



 終業後のHRがお開きになった途端、三年E組のドア口にフワフワとした栗色の髪が現れた。
「……茜ちゃん、いますか?」
 教室から出て行く生徒たちに遠慮しつつ、ヒョイと顔を覗かせたのは茜の妹――夏生だ。
「――む? 榊、客人だ」
 丁度教室を後にしようとしていたクラスメイトの徳川直杉が、黒髪のポニーテールを翻して茜を呼ぶ。
 茜が声に応じてそちらに顔を向けると、徳川は『役目は果たした』とばかりの清々しい足取りで廊下へと姿を消した。
「おっ、夏生ちゃんだ!」
 茜の隣で瞳を輝かせたのは、聖華学園バレー部のスーパーエース――祇園寺高丸(ぎおんじ たかまる)だ。彼は、一九六センチの長身を感じさせない軽やかな身のこなしで夏生へと接近してゆく。
「いや、待て! どうして、おまえが俺より先に行くんだ!?」
 茜は慌ててその後を追った。
 高丸は茜の友人であり、既に全日本入りが決定している聖華学園期待のバレーボール選手だ。だが、性格に少々問題アリ――というか、脳の構造が単純すぎるのか『大好きなもの』にバレーボールと茜を同列でカテゴライズしている変わり者なのだ……。
 茜フリークである高丸は、無条件に葵と夏生のことも気に入っていた。
「こんにちは、祇園寺先輩」
 夏生が高丸を見上げてニッコリと微笑む。
「おうっ、久し振りだね。夏生ちゃん、パーマかけたんだ? 可愛いね。たまには茜なんかじゃなくて、オレとデートしようぜ」
 高丸が気さくに夏生に声をかけている。
「何だ、その『茜なんか』って言い回しは?」
 茜は口元を引きつらせながら、彼の背中を小突いてやった。身長差があるので後頭部にクリーンヒット出来ないことが悔しい……。
「アレ? 聞いてたのかよ? 心配すんなって。オレ、何があっても茜がイチバンだからさ!」
「そんなイチバンは要らないけどな」
 茜は冷ややかに言い放ったが、級友の耳には都合の悪いことは全く聞こえていないらしい。
「今更、照れんなよ! じゃ、オレ、今日は実業団で練習だから――また明日な!」
 高丸は、やけに快活な笑みを茜に贈ると教室を出て行ってしまう。
 茜と夏生は、その目立つ後ろ姿を苦笑いで見送った。
「ねえ……前から気になってたんだけど、祇園寺先輩って――茜ちゃんの何なの?」
 夏生が心底不思議そうに訊ねてくる。茜を見上げる眼差しには好奇心と不安――そして、何故だか期待めいたものが宿っていた。どうやら妹は高丸の言葉を額面通りに受け取り、何か嫌な妄想をしたらしい……。
「何って――ストーカー。他は……思いつかないな。それより今日は、用事があるから一緒には帰れない。折角迎えに来てくれたのに、悪いな」
 高丸についてはぞんざいに応じた後、茜は真摯な口調で夏生に告げた。
 夏生が僅か一瞬顔を曇らせる。だが、妹はすぐに笑顔に戻り、元気に頷いた。
「解った。家でちゃんと待ってる。早く帰ってきてね、茜ちゃん」
「大丈夫だ。すぐに戻るよ。葵と一緒にね」
「うん。今夜のゴハンは、葵ちゃんの好きな茶碗蒸しにするわ。それじゃあ――また後でね、茜ちゃん!」
 物分かりの良い妹は深く詮索することなく、クルリと踵を返した。
 スカートの裾とフワフワの髪を靡かせて、軽やかに廊下を進んでく。
 その背中が人波に消えた頃、
「へえ、今の彼女が妹なんだ」
 耳元で低く囁く声がした。
「――――!? 無駄に近すぎなんだよ!」
 茜は慌てて身を退かせ、背後を振り返った。
 つい先ほどまで自分が立っていた位置には、一条龍一が悠然と佇んでいた。驚く茜を眺めて、楽しげに微笑を浮かべている。
「おや、つれないね。妹の十分の一でも素直だったら可愛いのに」
「俺はいつでも素直だ。おまえのことは嫌いだと言っているだろ」
 龍一のからかいを毅然とはね除け、茜は軽く彼を睨んだ。
 彼と協力態勢をとるのは一時的なものだ。目的を達成した後までズルズルと慣れ親しまれては困る。
 神族と魔族――その線引きはきっちりしておきたかった。
「声をかけろ――って言ったのは茜の方じゃないか?」
「教室を出てから、って、ちゃんと言ったはずだけどな」
「……解った。私が悪かったよ。――で、これからどうするつもりなのかな?」
「有馬家に行く」
 龍一の問いに対して、茜は双眸に鋭利な光を宿して即答した。
 何としてでも己が半身を取り戻さなければならない。
 その強い想いだけが茜を突き動かす源だった――



ご来訪、ありがとうございます♪
えーっと……茜と同じクラスの設定なので、通りすがりで「ブラックリストの」直杉と高丸を出してみました(汗)

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2009.12.05 / Top↑
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