ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
「――デ、デカイッッ!!」
 それが、有馬家を初めて目にした一条龍一の第一声であった。
 彼の眼前には、五メートル近い高さを誇る青銅の門が聳えているのである。
 重々しい雰囲気を醸し出している扉は、寺院の山門を彷彿とさせる。
 茜には見慣れた光景だが、龍一の驚愕はおそらく正しい反応なのだろう。
 確かに、有馬家は巨大だった。
 広大な敷地には堅固そうな石塀がぐるりと巡らされている。その中にある家屋は、見事な松や桜などの植木によって遮られ、屋根すら目視することは不可能だった。
 有馬家は榊家に負けず劣らずの名旧家なのである。
 しかも、榊の本家は聖華学園建設の際に取り壊され、現在、茜たちが住んでいる小振りの洋館しか残されていない。
 なので、この有馬邸がM市の中で最大最古の日本家屋になる。
「条家だって似たような屋敷に住んでるだろ? 驚いてないで、裏に廻るからな」
 ポカンと口を開けて門を見上げている龍一を尻目に、茜は塀伝いに歩き始めた。
「裏――って?」
 ハッと我に返った龍一が、慌てて茜を追いかけてくる。
「表門は滅多に使われることはないし、裏口に廻った方が母屋に近い」
 茜は素っ気なく応えて、石塀沿いに道を右へと折れた。
 先ほどより少し細くなった道を三百メートルほど足早に進む。
 塀の中に填め込まれた両開きの木戸前で、茜は一旦足を止めた。
 有馬家の三つある裏門の一つだ。
 龍一が肩を並べるのを待ってから、茜は脇に設置されているインターホンを鳴らしもせずに、木戸を開けて中へと足を踏み入れた。
 塀の随所に隠されている監視カメラが、疾うに茜の姿を確認しているに違いない。モニタールームで門番をしている者たちは、榊本家の人間を無条件で通してくれるのだ。
「門の内側も――やっぱり広いな」
 茜の後に続いた龍一が、有馬家の敷地を眺め回して苦笑を湛える。
「ここから母屋まで二百メートルくらいあるからな」
 茜は木戸を元通りに閉めると、有馬家の威容に感嘆しているらしい龍一を促し、歩き始めた。
 眼前には幽玄の美を誇る日本庭園が広がっている。
 一目で入念に手入れされていると解る純和風の庭園は、清廉かつ荘厳な雰囲気を醸し出していた。
 庭を彩るのは、綺麗に駆られた芝生や色鮮やかな花壇、見事な松の大木たちだ。
 足下からは御影石の小道が長く延びている。両側を白い玉砂利で挟まれた石畳の先には巨大な池があり、その中央には緩やかな弧を描く朱塗りの橋が架けられていた。
 茜は迷わずに御影石の道を進んだ。母屋へ行くには、池を突っ切るのが手っ取り早い。
「へえ、凄いな。一条の屋敷もそれなりにデカイけど、ここは桁違いだね」
 茜の隣を歩く龍一は気楽な様子で庭を観賞している。敵地を訪れている――という意識は全くないらしい。彼の口調も態度も寛いだものだった。

「――あれ?」
 橋の袂まできて、茜は不意に足を止めた。
 橋の隣――石灯籠脇に白い人影を発見したのだ。
 石灯籠から少し離れたところに位置する黒御影のベンチに、純白のワンピースを纏った女性が腰かけている。
「アラ、茜ちゃん」
 相手も茜の存在に気づいたらしく、ゆるりと面を上げた。
 長い黒髪に縁取られた顔は、ハッとするほど美しかった。
 銀縁の眼鏡をかけているが、それでも整った顔貌であることは歴然としている。
 純和風の楚々とした佳人――彼女の膝の上にはスケッチブックが広げられ、右手には鉛筆が握られていた。茜に視線を向けている間も、彼女の手は忙しなく紙面に何かを描き続けている。
「久し振りで――」
「茜ちゃん、ソレ――条家じゃないの?」
 にこやかに挨拶をしようとした茜の言葉を遮り、ふと彼女は眼鏡の奥で双眸を細めた。
 ピタリ、と紙面を走っていた筆が止まる。
「え? あっ、コレは――」
 彼女の視線が龍一に流されたのを見て、茜は咄嗟に何て説明をすべきか迷った。
 その一瞬の躊躇いが、相手の美女に余計な誤解を与えたらしい。
「やっぱり魔族なのね。血の臭いがするわ」
 彼女はすっくと立ち上がると、眼鏡を頭の天辺へと移動させ、黒曜石のような瞳でじっと龍一のことを凝視した。
「茜ちゃんを人質にして、ウチに乗り込んでくるなんていい度胸ね。その漢気に免じて、特別に私が相手をしてあげるわ」
 決然と告げると、彼女は手早くスケッチブックのページを捲り、そこへ物凄い速度で鉛筆を滑らせ始めるのだ。
 常人ではその動きを肉眼で捕らえることは到底無理だろう。
 彼女の鉛筆を操る姿には、一種異様な迫力と凄絶なパワーが漲っていた。
「オイ、茜……」
 事の成り行きを理解できずに、龍一が困惑気味の視線を茜に送ってくる。
 どうやら、相手の脳内では『龍一に囚われた可哀想な茜』という妄想が花開いてしまったらしい。
「や、ちょっ……ちょっと待って! 誤解だ、咲姉――!!」
 茜は慌ててワンピース姿の美女へと足を踏み出した。
 だが、茜の制止よりも僅かに彼女の行動の方が早かった。
 スケッチブックに描き込んだモノが完成したのか、彼女は筆を止めると迅速な手捌きで紙面を龍一へ向けた。
「悶え、苦しむがいいわ――妖魔封殺」
 美しい唇が呪を紡ぐ。
 刹那、彼女の全身が金色混じりの緑の光輝に包まれ、地中から飛び出した無数の蔦植物が龍一の身体を絡め取った――




 にほんブログ村 小説ブログへ  
← NEXT
→ BACK

ブログパーツ
スポンサーサイト
2009.12.06 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。