ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 突如として地から生まれてきた奇怪な植物群が螺旋を描き、龍一の身体を呪縛する。
 夥しい数の蔦植物は互いに絡み合うことで強度を増しているのか、捕縛された龍一は微動だにしない。
 植物たちによって地上五メートルほどの高さまで持ち上げられた彼は、ただ唖然と地上の美女を見下ろしていた。
「ああ……我が技ながら――美しい緊縛」
 ワンピース姿の美女が全身に金緑の冷光を纏ったまま、ゆるりと龍一を振り仰ぐ。蔦植物に搦め捕られた龍一を見つめる眼差しには、妖しげな煌めきが灯っていた。
「咲姉! 見惚れている場合じゃないだろ!」
 茜は慌てて美女に駆け寄った。
「――え、どうしてよ? 折角捕らえた魔族よ。滅殺する前に少しくらい愉しんでもいいじゃない?」
「駄目だって! 滅殺なんてしたら、葵を捜す手がかりが無くなるだろ!」
 茜は必死の形相で美女に抗議した。
 本来ならば頼もしい身内だが、今は無闇に龍一に手を出されては困る。これから二人で行方知れずになっている葵を救出に行かなければならないのだから……。
「葵ちゃん? 何? この男、茜ちゃんだけじゃなく葵ちゃんにまで手を――ハッ! もしかして、《両手に花》状態を満喫したのっ!? くっ……何て羨ましいシチュエーション……!」
 清楚な美女にしか見えない彼女の唇から不可解な呻きが洩れる。
 またしても脳内で何か勝手に有り得ない妄想を生み出したらしい……。
「いや、全っ然違うからっ! とにかく、今は葵を助けるためにあいつの情報が必要で――俺たち一時的に手を組んでるんだよ! だから、早く術を解いてくれないかな、咲姉!」
 茜は矢継ぎ早に説明を施し、彼女が掲げるスケッチブックをトントンと指で突いた。
 あの短時間で一体どうやって完成させたのか――紙面には蔦植物に身を封じられる龍一の姿が詳細に描かれているのだ。
「……アラ、そうなの。残念ね」
 美女が心底ガッカリしたように呟く。
「あの……私はいつまでこのままなのかな? 出来れば、状況を説明してほしいんだけれど――」
 頭上から龍一の減なりした声が降ってくる。
 茜が目線を上げると、彼は蔦に雁字搦めにされた状態で引きつった笑みを湛えていた。
「あー、えーっと、この人は俺の従姉で有馬家の次女――有馬咲耶さん」
 とりあえず茜はワンピース姿の美女の正体を告げた。
 美女は有馬家の令嬢である咲耶(さくや)。有馬美人の姉だ。
 だが、咲耶は聖華学園の大学部ではなく、M市内にある美大に通っていた。無論、絵の才能を更に磨くためである。
「咲姉、コッチは条家だけど――何故だか聖華の臨時教師になってる一条龍一。面倒だから詳細は省くけど、訳あって葵を救出するまでは一緒に行動することになった」
「ふ~ん、一条の、ね……。一条家特有の天然金髪――間違いないわね」
 咲耶が片手で眼鏡を元の位置に戻し、スケッチブックを裏返す。それから彼女は改めて龍一を仰ぎ見た。
「茜ちゃんの先生――か。ごめんなさい。私のスケッチブックは特別で、描いたモノがそのまま現実になっちゃうのよ――って、アラ? あなた、よく見るとイイ男ね」
 咲耶の瞳が眼鏡の奥でキラリと光る。
 その右手が無意識にスケッチブックへと延びるのを見て、茜は咄嗟に彼女の手首を掴み取っていた。
 咲耶自身が述べた通り、彼女の神力が分化したものが愛用のスケッチブックであり、念じて絵を描けばそれが実現するのである。
 咲耶の能力は確かに素晴らしいが、彼女本人には少々困った趣味があるのだ。
 美少年や美青年――とにかく美形男子に目がないのである。気に入った美形を発見するなり一心不乱にスケッチし始める厄介な人物なのだ。
 美大へ進学したのも、誰に憚ることなく、大好きな美形をモデルにして思う存分に色男の絵を描きたいがためではないか――と、茜は密かにそう睨んでいる。
「咲姉、俺、結構急いでるんだけど?」
 茜は咲耶に向かって苦笑いを向けた。時間がないことを強調すると、咲耶は龍一をスケッチすることを渋々諦めたようだった。
「条家の色男を描けるなんて滅多にない機会だけれど、葵ちゃんのためなら仕方ないわね。術を解くわ」
 咲耶が溜息混じりに告げ、茜の腕をそっと引き剥がす。咲耶の技は解除する時にもスケッチブックが必要なのだ。
 再び、咲耶の全身から金と緑が融け合ったような淡い光が滲み出る。
 彼女は神速の如き手捌きでスケッチブックに筆を走らせた。
 龍一に絡みついている無数の蔦植物たちがザワザワと蠢き出す。
「――――!?」
 蔦の中で、龍一がハッと息を呑んだ。
 不気味な蔦植物たちは龍一を解放するどころか戒めを強め、更にシャツの胸元を脈絡なくはだけさせたのである。
「……スミマセン、おねーさん。さっきより酷くなってるんですけど?」
「アラ? おかしいわね? ちゃんと直してるつもりなんだけど――」
 黒髪をサラサラと揺らしながら小首を傾げ、咲耶がまた恐ろしい速さでスケッチブックに何かを描き込む。
 すると今度は、龍一のシャツが蔦植物によって一気に剥ぎ取られ、白い首筋や鎖骨――そして肩が露出した。
「――わざとやってるだろ、咲姉?」
 茜は呆れ混じりの視線を咲耶へ向けた。
 どうやら龍一は咲耶好みの美形であるらしい。そうでなければ、こんな無駄なことに時間を費やす理由がない……。
「何言ってるのよ、茜ちゃん! 久々の美青年魔族だからちゃっかり辱めようとか、うっかりセミヌードくらい披露してくれてもいいんじゃない――とか全然思ってないわよ! 真面目に闘うのが久し振りすぎて、ちょっとスケッチブックの使い方に自信がないだけだからね!」
 咲耶が言い訳めいた言葉を繰り出す。
 ……解りやすい嘘だ。
 眼鏡をかけた横顔は嬉しそうに紅潮しているのだから、故意に龍一の肌を剥き出しにしたことは間違いない。
「――ったく、もういい。俺がやる」
 茜はもう一度咲耶に冷ややかな視線を浴びせ、巨大な蔦植物群へと向けて足を踏み出した。
 と、そこへ――
「頭を下げろ、茜!」
 凜とした声が響いた。
 茜が反射的に身を屈めるのと、何者かが疾風の如く宙を駆けるのが同時だった。
 真紅の閃光と共に白刃が煌めく。
 瞬く間に咲耶の生み出した蔦植物たちは鋭利な刃によって切り刻まれ、龍一を自由にする。
 呪縛を解かれた龍一が軽やかに着地する。
 僅かに遅れて、新たに出現した人物も華麗に地表へ降り立った。
 頭の上で一つに束ねられた黒髪が美しい流線を描く。その手には、冴え冴えとした刀身を持つ長刀が握られていた。
「ナイスタイミング、智姉!」
 純白の袴を身につけた相手の姿を確認して、茜はホッと胸を撫で下ろした。
「ちょっと、智美! 私の愉しみを奪うなんて、酷いじゃない!」
 すかさず咲耶が抗議の声をあげる。
 だが、非難された相手は長刀を己の肩に乗せると、大仰に溜息をついた。
 全身から放出されていた紅い神氣がスーッと引いてゆく。
「私も男前は嫌いじゃないけれど――今は葵のことが第一優先よ」
 そう凛然と言葉を紡ぐ顔は、咲耶と全く同じ造りをしていた。
「双子――なのか?」
 乱れたシャツを直しながら、龍一が確認するように茜に視線を流す。
 茜は無言で首肯した。
 袴姿の女性は――有馬智美。有馬家の長女であり、咲耶とは一卵性の双子だった。
 榊の血族は、昔から双子が生まれやすい家系なのだ。
「智姉がいてくれて、よかった。――俺たち、もう行ってもいいかな?」
 茜は即座に咲耶のことは智美に任せることに決めた。
 咲耶の相手をしていると延々母屋に辿り着けない畏れがある。折角智美が駆けつけてきたのだから、咲耶のことは彼女に引き継いで先を急ぎたかった。
「もちろん。母は留守だけど、美人なら離れにいるわ」
 智美が簡素に有馬家の現状を説明する。
 彼女の言葉を聞いて、茜は行き先を母屋から離れへと変更した。
 有馬美人に逢うために――




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2009.12.10 / Top↑
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