ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 母屋を通過して更に奥へ進むと、ようやく有馬家の離れに辿り着いた。
 母屋よりも二回りほど小さい日本家屋だ。
 茜は庭に面した縁側から屋内に侵入すると、慣れた足取りで廊下を進んだ。龍一も無言で後を着いてくる。
 よく磨かれた廊下を一分ほど歩いた頃、
「――何度言ったら解るんだ!」
 何の前触れもなく、奥の部屋から凄まじい怒鳴り声が聞こえてきた。
 次いで、バシッ! と何かを叩くような不快な音が響く。
 茜は眉間に皺を寄せて、奥の部屋を睨めつけた。
「いいか、よく聞け! 美城(よしき)が不在の今、有馬家の当主はおまえだ!」
 荒々しさを伴った若い男の声が谺する。
 美城というのは、有馬姉弟の父親の名だ。
 本来ならば、有馬家の大黒柱として――そして、榊を支える分家筆頭として使命を全うしなければいけない立場にある男は、今現在有馬家にはいなかった。
 長男である美人が誕生した直後に出奔し、以来行方知れずのままなのである。
 美城の所在は杳として掴めず、もう十数年――血族の中で彼の姿を目撃した者もいない……。
 榊本家から嫁いできた妻の桐子が当主代理として、未成年の子供たちを庇護しつつ有馬家を切り盛りしているのが現状だった。
「榊など放っておけと言っているだろっ! ――葵がいないだと? 好都合じゃないか。おまえの何処があの双子に劣る!? この隙に本家を乗っ取ってしまえ!」
 また怒声と共に激しい物音が響き渡る。
「何だ、アレは?」
 龍一が怪訝そうに訊ねてくる。
「如月の叔父だ。桐子叔母さんが居ないのをいいことに、美人で遊んでやがる」
 茜は舌打ちを鳴らし、吐き捨てるように告げた。
 胸の奥底から怒りが沸々と込み上げてくる。
「如月――って、もしかして榊グループと事業提携している如月製薬のことかな?」
「そう……父の末の妹――鞠生(まりお)叔母さんが嫁いでいる。相手は如月祐介。如月製薬の取締役社長だ」
 茜は感情の籠もらぬ平淡な声音で説明すると、奥の部屋へと向かった。
「おまえが一つ頷きさえすれば、この有馬家だけではなく榊家の財産も名声も手に入るというのに! こんなにも私が目をかけてやっているのに、もどかしい奴だな、美人! 私はおまえを気に入っている。だからこそ余計に憎くもある。いっそのこと、その白い首――へし折ってやろうか」
 険のある如月の声。
 争うような物音が続いた後――突如として静寂が訪れた。
「――あっ……殺したいのなら殺せばいいでしょう。葵さんたちの両親を殺した時のように――」
 美人の苦しげな声がしたが、それすぐに凄まじい殴打の嵐によって掻き消された。
 龍一がハッとしたように茜に視線を流す。
「……証拠はない。けど、俺は事実だと思ってる」
 茜は冷ややかに応じた。
 二年前に交通事故で他界した父・保(たもつ)と母・志輝子(しきこ)。
 単なる交通事故でないことは一族の誰もが知っている。先代天主である保が交通事故などで死ぬはずがない。
 真相は定かではないが、保の友人であった如月が裏で暗殺を企て、父は友から与えられる死を享受したのだ――と大人たちはそう囁き合っている。 
 如月が両親の死に関与している確率は高かった……。
 脳裏に両親の顔が浮かんだが、茜はそれを打ち消すようにギュッと拳を握り締めた。
 わざと音を立てて廊下を進み、奥の間の障子を勢いよく開ける。
「こんにちは、叔父さん」
 茜は断りもなくズカズカと室内に足を踏み入れた。



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現在、不定期&短め更新実施中です(汗) スミマセン……。

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2009.12.16 / Top↑
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