ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 バランスを崩した茜の腕を龍一が咄嗟に掴む。
 シートベルトを締めていないので、急激な車体の傾斜に身体がシートから浮いたのだ。龍一が機転を利かせて腕を掴んでくれなければ、側頭部か後頭部を窓ガラスに激突させていたことだろう。
 龍一は茜を支えていない方の手でハンドルを握り、辛うじて体勢を保っている。
 数度激しい揺れが続き――車体は急にピタリと動きを止めた。
 奇妙で不吉な静寂が車内を満たす。
 茜は困惑の眼差しで龍一を見上げた。すぐには何が起こったのか理解できなかったのだ。
「どうやらお迎えが来たみたいだね」
 茜の視線を受けて、龍一が唇に苦笑を刻む。彼が顎で背後を示すので、茜はつられるように首をねじ曲げた。
 助手席の窓にヌメヌメと光る奇怪な物体がへばりついていた。
「――うわっ、気色悪い……!」
 茜は恟然と目を瞠った。
 吸盤の付いた若紫色をした蛸の足のようなものが、車体を持ち上げているのだ。
 触手の直系は一メートル以上あるように見える……。
「潰される前に――跳ぶよ、茜」
 龍一が淡然と告げ、ハンドルを握っていた手を運転席のドアへと移動させた。
「オイ、ちょっ――!?」
 再び身体が傾斜する。
 茜の懸念を察したのか、繋がれた龍一の手に力がこもった。
 次いで、大きな爆音を轟かせて運転席のドアが吹き飛ぶ。
 外の空間への脱出口を確保したのだ。
 龍一は茜の腕を力強く引き寄せると、躊躇いもせずに運転席から外へと身を投じた。彼に手を掴まれている茜も当然後に続く。
 アウディの車体はいつの間にか地上から五十メートルほど離れた高みへと持ち上げられていたようだ。
 身体が急降下する。
 闇の底に着地した直後、龍一が素早く茜の腕を解放した。
 間髪入れずに、薄墨を溶かしたような闇の中から奇怪な触手が襲ってくる。
 茜は反射的にそれを手刀で払い除けながら、後方へ飛び退いていた。
 至極不愉快な《お迎え》が現れたせいなのか、気づけば先刻まで真っ暗闇だった世界はぼんやりとした灰色の景色に塗り替えられていた。
 暗闇の中で闘うことは相手も不得手であるらしい。
 闇が薄れたおかげで、敵の正体も容易く肉眼で捉えることができた。
 体長二十メートルはありそうな巨大な化け物だ。
 潰れた蛙のような胴体から蛸の足の如き触手が伸び、うねっている。
「……蛙と蛸の混合かよ」
 巨大魔魅をしかめっ面で見上げ、茜はボヤいた。
「下級魔だね。しかも、繰魔だ」
 巨体を引き摺るようにしてこちらへ向かってくる魔魅を一瞥し、龍一がフンと鼻を鳴らす。
「――繰魔?」
 茜は柳眉をひそめ、説明を求めて龍一に視線を流した。
「魔物の匂いがしない。それに、繭羅はこんなちゃちな玩具も部下も持ってはいないよ。さっき君と前世や転生について話した時に、チラッと思い出したんだけれど――如月祐介、私とは前世の何処かで逢ってるみたいだね」
 龍一が面白くなさそうに言葉を紡ぐ。
 ――そういえば、龍一と擦れ違う時、やけに険しい顔してたな、あの人……。
 ふと、脳裏に有馬家での何気ないワンシーンが甦る。
 茜の隣に佇んでいた龍一に対して、如月は明らかに敵意を向けていた。
「私の記憶が正しければ――過去の何処かで……私は彼に殺されているね。つまり彼は普通の人間どころか、私たちと同じ能力者であり転生者だということだ。彼が普通の人間だなんて――嘘を吐いたね、茜」
 龍一が不満げに声のトーンを落とす。
「普通の人――って言ったのは、俺じゃなくて美人だし……」
 龍一から非難の眼差しを向けられ、茜は言い訳がましい言葉を口にした。
 龍一を謀るつもりはなかったが、積極的に真実を告げる気にもなれなかっただけだ。
 だが、過去世で龍一と如月に接点があるのなら、如月の血筋のことを隠蔽するのは不可能だし――無意味だ。
 茜は溜息を吐きながら片手で髪を掻き上げ、改めて龍一に視線を据えた。
「いや、別に嘘を吐いたつもりも騙すつもりも隠すつもりもない。アレは俺たち神族にとっても厄介な存在だからな。妖鬼族が第三勢力なら、アレは第四の勢力ってことになるのかな。魔魅遣い――混沌(カオス)の一族だ」
「ああ……元は我らの同胞か。魔魅を増殖させ、調教する役目を担っていた下級魔たちが、戦国の混乱に乗じて魔王様を裏切り、離反したんだったね、確か……」
 龍一が胸の奥深くに仕舞われた記憶を手繰り寄せるように眉根を寄せる。
「そう、魔族とは異なる道を歩むことに決めた魔魅遣いの一族たちだ。血を繋ぐために神族、魔族、妖鬼族――全ての一族と子を成してきた奴らは、今ではかなりの力を有している。その力を榊家にも取り込もうと目論んだのか、お祖母様は鞠生叔母さんを如月祐介に嫁がせた。幸か不幸か、二人の間にはまだ子供はいないけどな」
「私たちのいいところ取りをした結果かが――アレとはね」
 龍一がひどく不愉快そうに、蛙と蛸の合わさったような魔魅を見遣る。
 綺麗なものに惹かれる彼には、醜悪な魔魅の存在が心底耐えられないのだろう。
「如月氏の美的感覚は最悪だね」
「残念だけど、そうでもないみたいだ。鞠生叔母さんて三十を過ぎたばかりなんだけど、それはそれは綺麗で少女みたいな人なんだ。あいつは昔から叔母さんに惚れてたみたいだけど、叔母さんの方は全く相手にしない。結婚した今も拒絶し続けている。だから、美人に暴力を振るう――」
「如月氏がそれなりの美意識の持ち主だということは解ったけれど、どうしてそれが君の従弟に繋がるのか――教えてほしいね」
 龍一が興味津々の体で言葉を紡ぐ。
 茜は口の端に微笑を刻むと、不気味な魔魅を冷ややかな眼差しで見つめた。
「美人が鞠生叔母さんにそっくりだからだよ。あいつは自分の妻に拒まれ続け、けれど面と向かって文句を言うこともできないから、瓜二つな美人に八つ当たりするんだ。――ねえ、叔父さん、どこか間違ってるかな、俺?」
 刺々しい言葉を放ち、茜は鋭い眼差しで魔魅の上空を睨めつけた。
 転瞬、
「黙れ、茜っっ!!」
 ヒステリックな声が頭上から降り注ぎ、灰色の世界に如月祐介が姿を現した。



40000HIT ありがとうございます♪

茜、葵と夏生が一緒じゃないと若干毒舌気味に……(汗)
次こそ戦闘シーンに突入できると思います←

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2010.01.06 / Top↑
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