ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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六.最果ての契り



 トクン、と心臓が跳ねた。
 金色の輝きを視野の端に捉えた途端、訳もなく胸が高鳴り、全身の血がざわついた。
 ――何故だろう?
 氷上遼(ひかみ りょう)は、少し離れた場所を歩く後ろ姿を眺め、眉をひそめた。
 長い金髪がサラサラと揺れている。
 陽の光を浴びて金髪がより一層美しい光輝を放っている。
 大学の構内――人目を引く金髪を靡かせながら歩いているのは、確か『一条』とかいう名前の院生だったような気がする。
 彼がどの学部に所属し、どの教授の下で研究に勤しんでいるのかは不思議なことに判然としない。
 周りの友人らに訊ねても『そんな派手な人、院にいたっけ?』と首を傾げられる始末だ。
 だが、最近キャンパス内でよく見かけるし、今もこうして自分の前を歩いているのだから、彼が同じ大学の先輩であることは間違いないだろう。
 この頃、よく彼の姿が目につく。
 数週間前に姉と喋っているのを見かけた瞬間から、何故だか遼はその青年に興味を惹かれていた。
 金髪に縁取られたその顔が、男性とは思えぬほど綺麗だったからかもしれない。
 ゲームの製作会社に勤務する姉の綾は、自らが手がけたオンラインゲーム《鏡月魔境》のスマッシュヒットのおかけで多忙を極めている。
 忙しさゆえか、綾は気難しい顔や思い詰めたような表情をすることが多くなった。
 ふと気がつくと険しい眼差しで宙を睨んだり、放心したように遼を凝視していることさえあるのだ。
 姉想いの弟としては、綾のそんな憔悴した姿は見るに耐えなかった。かといって、大学生である自分が仕事に関して何を手助けしてあげられるわけでもない……。
 そっと見守るだけの日々が続いたある日――大学の近くで綾と喋っている金髪青年を見かけた。
 遠目からでも二人が深刻な表情で会話を交わしているのが解った。
 二人の間には静かな緊迫感が漂っており、非常に声をかけづらい雰囲気だった。
 結局、遼は金髪青年が立ち去るまで姉の名を呼ぶことは出来なかったのである。
 青年が去った後に遼が姉を呼び止めると、彼女はひどく驚いたような顔で遼を振り返った。
『今の人、誰?』
 単刀直入に訊ねた遼に対して、綾は曖昧な笑みを浮かべこう言ったのだ。
『一条遙。古い友人よ』
 応えた姉の声には何処か苦々しさが滲み出ていた。
 勝手な憶測でしかないが、もしかしたら中学か高校で交際していた相手なのかもしれない。金髪青年は、遼よりは年上――つまりは綾と同年代に見えた。
 その時は『派手な美形とつき合ってたんだな』くらいの感想しか抱かなかった。
 だが、大学の構内で一条遙の姿を目撃した時、胸を鷲掴みにされたような衝撃が全身に迸った。
 同じ大学に属していたことに驚いただけではない。
 行き交う学生たちの中に、一条遙の横顔を発見した刹那、心の奥底から郷愁にも似た切なさが込み上げてきたのだ。

 以来――夢を見る。

 闇の中を彷徨い、乱舞する羽に包まれた金色の佳人の夢を。
 一条遙と思しき人物を彼が見つけた途端に、世界は血の色に塗り替えられ、唐突に夢は終わりを告げる――
 
 夜ごと不可思議な夢を見るせいか、現実世界でも自然と黄金色の髪を目で追うようになっていた。
 今もまた遙の姿を無意識に視野に納めている。
 姉の知り合いの男性を急に意識し出すなんて、自分でもどうかしていると思う。
 なのに、遼は一条遙から目を離すことが出来なかった。
 
 りん――

 と、何処かで鈴の音が響いた。

 不意に、前を歩いていた遙が歩みを止める。
 その手から鞄が離れ、スローモーションのように地面に落下する。
 遙の右手が心臓の辺りを押さえ、細身の身体がゆらりと傾く。
 遼は反射的に駆け寄り、彼の肩を抱くようにして支えていた。
「――大丈夫ですか?」
 支えた身体の軽さと薄さに驚きながら遼は遙の顔を覗き込んだ。
「ええ――」
 青ざめた顔が遼を見上げる。
 視線が合致した瞬間、

 りん――

 再び遠くで鈴が鳴った。

 カラーコンタクトでも使用しているのか冴え冴えとしたブルーに輝く遙の双眸が遼を見つめ――次いで大きく瞠られた。
「どこか具合でも悪いんじゃないですか?」
「……少し眩暈がしただけです。心配は要りませんので、離して下さい」
 遙に指摘されて、遼はそっと彼の肩から手を離した。
 想像していたよりも冷淡な声音に妙な焦燥を覚えて、遼は離した手を地面に伸ばして遙の鞄を拾い上げた。
「ありがとうございます」
 遙が遼から鞄を受け取り、軽く頭を下げる。
 そのまま踵を返しかけた遙の手を、遼は自分でも不思議なほど自然に掴み取っていた。
「――何か?」
 遙が渋々といった様子で足を止め、冷ややかな眼差しで遼を振り返る。
「いえ、あの、昔――何処かで逢いませんでしたか?」
 自分でも彼を引き止めた理由が解せずに、遼は脈絡もなくそんな質問を浴びせていた。
「いいえ」
 何の逡巡もなく遙が応じる。
 ふと、その蒼き眼差しが遼から逸れ、虚空を見上げた。
「……りゅう……いち――」
 形の良い唇が小さな呟きを発する。
 直後、青ざめた顔からは更に血の気が失せた。
「急用がありますので、失礼させていただきます」
 一条遙は硬質な声音でそう告げると遼の手を振り払い、足早に去っていく。
 遼が唖然としている間に彼の金髪は人混みの中へと消えていった。
「俺……何やってんだろ?」
 遼は遙に振り払われた己の手を見下ろし、茫然と独りごちた。

 また逢えた。

 遙の双眸を正面から捉えた瞬間、心の中でそう強く思った。
 彼に触れた時、確かに言い表しようのない懐かしさと感慨――そして、愛おしさを感じた。
 
 再び巡り逢った。
 だから、目醒めなければならない。

 強烈な想いが胸を衝く。

 ドクンッ。
 心臓が昂ぶりを示すように大きく跳ねる。

 意識の奥深くで眠りに就いていたはずの《何か》が力強く鼓動し始めた――


     *



アレ? 後半、女の子が殆どいません……orz
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2010.01.13 / Top↑
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