ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑

     *


 次の世でお待ちしております。

 そう云って女は笑った。
 朗らかで、誇らしげな笑顔だった。

 金色の髪と瞳が美しい女だった。
 ようやく主の許しを得た男は、戦が終結した暁には女と婚儀を結ぶ手筈となっていた。
 宿敵である神族との闘いは、魔族側の圧倒的勝利でもうじき幕を下ろす。

 血生臭い戦国の世は、魔族にとっては有利に事が運んでいた。

 余裕だった。
 楽勝だった。

 なのに――肝心なところで謀反が起こった。

 魔魅を飼育し、調教する役目を担っていた下っ端の一族が魔王に叛旗を翻し、離反を企てたのだ。
 彼らは密かに繁殖させていた魔魅を使って、同族であるはずの条家に牙を剥いた。
 
 四条・六条・九条・上条・下条・久我条――と次々と名だたる条家の者が魔魅たちに喰い荒らされていった。

 おぞけを催すような凄惨で醜い共喰い――

 魔魅遣いたちの凶行は、無論男や女の家にも及んだ。

『――さま……三条様、急ぎお逃げ下さい』
 紫紺の着物を翻しながら女は男を屋敷の裏口へと導いた。
『姫! どうか姫も共に――』
 懇願する男に対して、女はゆるやかに首を横に振った。
『魔王様をお護りするのがあなた様の使命です。そして、わたくしにはこの屋敷の家人を護る役目がございます』
 女の黄金色の双眸に迷いはなかった。
『もしも……もしも、来世で邂逅することがあれば、その時はまた――』
 女の白い手が男の手に重ねられる。
『ああ、生まれ変わったその時は、必ずやまた契りを交わそう』
 男は細い指に己の指を絡めると、力強く女を抱き寄せた。
 眩い金の髪に顔を埋め、女に対する全ての想いを込めて耳元で囁く。
『俺の妻は――未来永劫、姫だけだ』
『そのお言葉だけで充分でございます』
 女がそっと身を引き剥がす。
 男は、女の指先が離れるのを痛切な想いで眺めていた。

 屋敷の中から絶叫が迸る。
 屋敷の随所で火の手が上がり、巨大な魔魅たちが我が物顔で暴れ回っている。

『心よりお慕い申し上げております』
 女の金色の髪がさわさわと揺れ、宙を舞う。
 同時に、女の背後――屋敷の裏手に三つの頭を持つ大蛇が姿を現した。

『あなた様より少しだけ早く――次の世でお待ちしております』
 女が心底幸せそうに微笑む。
 長く伸びた金色の髪が勢いよく男の胸を突き、屋敷の外へと弾き飛ばす。
 
 迅速に閉ざされる裏門――

 それが、己が目で女を見た最後の瞬間だった。


     *



 
← NEXT
→ BACK

ブログパーツ


スポンサーサイト
2010.01.16 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。