ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 大将に注文を伝え、用意したあがりをルイさんと山梨くんの個室へと運ぶ。
 もちろん、極力手早く素早く退散よ。
 大将が腕を振るって作った恵方巻とにぎりも――当然迅速かつ丁寧に個室へ運び、二人の方を見ないように気をつけたわよ!
 だって、何の気構えもなくうっかり障子を開けたら、二人がキスとかしてそうで怖いんだもん!
 そんな妖しいシーンを見ちゃったら、この後ますますパニックを引き起こしてバイトにならなくなるじゃない!
 一通り注文の品を運び終え、再びホールに戻った時、あたしは女性客たちからの鋭く強烈な視線を痛いほど浴びせられた。

『なに、あの女? ルイさんとナッシーを独り占めにして!』
『何なの、あの可愛くないバイト! やけに山梨くんとルイさんと親しげだったじゃない!?』
『ちょっと、あの子――《WALTZ》のイサヤくんとつき合ってるらしいわよ?』
『ヤダ、最悪!』

 とかいう皆々様の心の声が今にも聞こえてきそうで、あたしは全身から一気に嫌な汗が噴き出すのを禁じ得なかった。
 あたしはただの《WALTZ》の常連客です!
 六楼さんのことはともかく、ルイさんと山梨くんとは何でもありません!
 寧ろ、あの二人の薔薇色世界の被害者なのよ!
 超フツーでノーマル思考のあたしの前で、あの人たちキスしたコトあるんだからね!
 それって、あたしにとってはスッゴイ迷惑なコトなんだからっ!!
 あたしが過去を思い出しつつ心の裡でメラメラと怒りと闘争心を燃え上がらせていると、それを煽るように店内のスピーカーから真夏の太陽を思わせるギラギラとしたイントロが流れてきた。
 ――こっ、これはまさか、山梨くんの『ジョウネツーナ』!?
 あたしは驚きのあまりに物凄い形相でカウンターの中の大将を見遣った。
「――大将っ!?」
「ボンゴレが駄目だっていうなら、あとはコレしかねェだろ」
 大将は『ジョウネツーナ』に聞き入るように目を瞑り、腕組みをしている。
「こいつァ、泳ぐのを止めると死んじまうマグロの子孫繁栄に対する情熱と悲哀を見事に表現した――奥の深ェスゲェ曲だ」
「いえ、コレ――そんな歌じゃありませんからっ!」
 あたしは思わず大声でツッコんでいた。
 そんな『ジョウネツーナ』の新解釈、今まで聞いたことないわよ。
 斬新すぎるわよ、大将!
 コレってセクシーソング――っていうか、ぶっちゃけエロソングよ!
『紅蓮の鏡月』信者の間では、勝手に魔王のテーマソングにされちゃってる上に、魔王が王子を押し倒すことを示す『ジョナる』って造語の語源にもなってるんだからっ!
「いつ聴いても心に染み入るいい歌詞だぜ。漢の浪漫だ」
 いや、だからエロソングですからっ!
 ちょっと、歌ってる本人がいるのに、こんな恥ずかしい曲をこんなに大音量でかけないでよ、大将!
「っていうか、どうして大将が山梨くんのCDなんか常備してるんですかっ!?」
「ああ、カミさんが山梨くんのファンなのよ。あとでサインをもらっとかねェとな」
 そう言って大将が『ジョウネツーナ』を口ずさむ。
 もう、どれだけ奥さんのことが大好きなんですかっ!?
 奥さんのためなら『ジョウネツーナ』も歌えるようになっちゃうんですかっ!?
 渋くて男前の大将なのに――何ですか、この新事実発覚……。
 おのれ、山梨めっ!
 あたしの知らぬ間にウチの大事な大将まで虜にしやがって……!
 憎たらしいくらいのその魅惑のセクシーボイス、奪ってやりたいわ!
 あたしは眦を吊り上げながら個室のある奥をキッと睨めつけた。

「大将、中トロ二貫お願いします」
「あいよ」
「あ、こっちも赤身と大トロ下さい」
 なのに、あたしの鬱憤とは裏腹にカウンターからもテーブル席からも次々と女性客がマグロ関連のメニューを注文し始める。
 店内は瞬く間に『赤身』『ネギトロ』『ヅケ』『鉄火丼』『鉄火巻』などの声で埋め尽くされた。
 ……何ですかね、この急展開のマグロ祭り。
 あたしは引きつりまくった気味の悪い表情で店内を見回した。
 みんな、どれだけ山梨くんに媚びを売りたいの?
 ウチでマグロを注文したからって、山梨くんは喜ばないわよ! 喜ぶのは大将だけよっ!!
 ああ、でも前言は撤回しておきます。山梨くんの魅惑のセクシーボイスには、他人を惹きつけてやまない不思議な力が確かに宿っているわ。その声を奪うなんて、流石にあたしも出来ないわね。
 何故だか店内は俄に活気づき、売上急上昇だもの。
 あたしが苦笑を浮かべた時、ガラガラッと入口が開く音が響いた。
「いらっしゃいませ――」
 条件反射で笑顔を浮かべかけ――あたしは本日二度目になる恐怖を覚えた。


「ああ、やっぱり『ジョウネツーナ』の発生源はココだったのね! ――あ、ヤッホー、沙羅」
 ガラガラガラガラガラッと巨大スーツケースを引きながら店内へ入ってきたのは――あたしの友人であり筋金入りの腐女子・神原南海だった。
 大将が大音量で『ジョウネツーナ』なんて流すから、呼びこまなくていいモノまでうっかり召喚しちゃったじゃない!
 今、ここにはルイさんと山梨くんがいるのよ! 
 南海の鼻血噴射まであと五分もないわ、きっと!
「ヤッホーじゃないわよ! 何しに来たのよ、南海?」
 あたしは南海の腕を掴むとホールの隅へと強引に連れ去った。
「え? 何って――親に恵方巻のテイクアウト頼まれただけだけど? 節分なのに何故かマグロ祭りが展開されてるみたいね。……何なの、コレ?」
 南海が不思議そうに首を傾げ、それから店内の異様な熱気に目を向ける。
「何でもないわよ! そっちこそ、その大きなスーツケースは何よ?」
 あたしは南海が片手にひしと握り締めている、馬鹿でかいスーツケースを見遣った。中に何が入っているのか知らないが、ボディがパンパンな上に引き摺る度にキャスターが悲鳴じみた音を生み出すのだ。耳障りでしょうがない。
「ああ、ビッショウ様がね、今はもうイベントでは売っていない昔の――そう、幻の同人誌を特別に譲って下さるっていうから、ちょっと有馬邸に寄ってきたのよ。フフッ」
 南海がスーツケースに視線を流し、心底嬉しそうに口元を弛緩させる。
 説明したくないような気もするけれど――ビッショウ様というのは、M市屈指の資産家である有馬家のご令嬢であり、ルイさんの同い年の幼なじみだ。そして、南海が師匠と崇める腐女子界のカリスマでもある……らしい。
 やっぱり、コレもあくまで『らしい』よ。南海やビッショウ様がこよなく愛するBLワールドは、あたしには新世界過ぎて全くついていけないんだもん!
 南海もビッショウ様も六楼さんが手がける『紅蓮の鏡月』の大ファンだ。
 山梨くんとルイさん出演で実写映画化が決まってからというもの(信じられないけど、ホントにアレ映画化するのよ!)、南海たちの魔王×王子萌えはヒートアップしている。
「……凄いわね。あの人、一体何歳から同人活動始めてるのよ? こんなに過去に本を作ってるなんて、恐ろしい人だわ」
「ビッショウ様はね、描くのを止めると死んでしまう刹那のカリスマ絵師なのよ! そう、まるで山梨くんが歌うこの『ジョウネツーナ』のマグロのように!」
 南海が陶然とした眼差しでスピーカーを見上げる。
 ……ちょっと南海、あんた、大将の話――何処で聞いてたのよっ!? 間違いなく聞いてたわよね?
 南海が『ジョウネツーナ』の主人公をマグロだと思ってるわけがないもの。
 南海はやれば何でも出来ちゃう子だって薄々勘づいてはいたけれど………………ビッショウ様に負けず劣らず恐ろしい腐女子だわ。
「刹那のカリスマ絵師って、意味が解らな――」
「――ハッ!? ルイさんっ!」
 あたしの文句を遮り、突如として南海が大きく目を見開く。
「ルイさんの匂いがするわっ!」
 南海の双眸が忙しなく店内を探り出す。
 南海がルイさんをこよなく愛する腐女子だってコトを忘れてたわ。更に言及するなら、山梨くんとか六楼さんとか店長に愛されまくってるシチュエーションだと萌え度が一気に跳ね上がるらしいわよ……。
「匂いで解るのっ!?」
「フフッ、ルイさんのシャンプーはね、曽父江家の次男坊・璃稀さんの美容室で特別に調合されているレアモノなのよ。あそこでしか手に入らないのよ! だから、わたしがルイさんの匂いを間違えるはずはないのっ!!」
 南海が妙に自信ありげに断言し、力強く拳を握り締める。
 あっ……と、知らない人が多いと思うけれど、璃稀さんというはルイさんの兄で、M市でサロンを開いているカリスマ美容師さんのことです。
「沙羅――ルイさんは何処なのっ!? さっさと教えた方が身のためよ」
 南海が爛々と目を輝かせながらあたしににじり寄ってくる。
「い、いないわよ! 気のせいじゃ――――」
「ちょっと、園生沙羅――オレの曲、流すの止めてくんない? ルイが腹抱えてゲラゲラ笑い転げてるんだけど? オレ、スゲー遣り切れないからさ」
 折角あたしがはぐらかそうとしたのに、そんな時に限って間の悪いのことに奥の個室からヒョイと山梨くんが顔を覗かせたのよ! 信じられないわ!
 ホントに、どうしてあんたはいつもいつもあたしの邪魔ばかりするのよ、山梨ィィッッ!!
「や、や、山梨くんっっっ!?」
 南海の感極まった声。
 その声に山梨がビクリと身を強張らせた。
「――あ、美祥寺腐妄子の弟子!」
「山梨くんとルイさんが――二人だけで奥の個室に籠もって、太巻きを咥えながらリアルでジョナってるのねっっっっ!!」
 南海が興奮の叫びを放つ。
 ちょっと、ウチの個室はホテルじゃないわよっ!
 太巻きの用途も若干違う風に聞こえるわよ!
 ウチはこのM市に開業して二十年も経つ立派な寿司屋なのよ!
 お願いだから、変な言い回しは止めてよ、南海っっ!!
 ホールのお客様が山梨くんとルイさんの変な姿を妄想して、無駄に騒ぎ出しちゃったじゃない!
「ああ……あああああ、何て素敵なのっ! すぐそこに目くるめく薔薇色の園が――」
 感極まった南海の頬が己の発言通りに薔薇色に染まる。
 転瞬、南海の鼻腔からは大量の血液が噴き出した――



5万打、ありがとうございます♪
なのに、本日の更新……妄想だらけでスミマセンッ(汗)
相変わらず主人公がちっとも活躍しない物語ですが(←)、次の更新で終わる予定ですので今しばらくおつき合い下さいませ。


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2010.02.01 / Top↑
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