ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 頽れる茜の身体を葵は無意識に両手で抱き寄せていた。
 双子の弟の顔は血の気を失い、蒼白だ。
 扉越しでも茜が強引に《朔》を喚び起こし、惜しみなく神力を放出しているが手に取るように解った。
 風巳に血を吸われた痛手から快復していないのに、茜は無茶をしたのだ。
 全ては、自分を助けるためだ。
 茜が救出に来てくれたことは頗る嬉しいが、無理をさせてしまったことに対しては罪悪感と自己嫌悪が込み上げてきた。茜を危険に晒したのは、迂闊にも二条繭羅に捕縛された自分に他ならない……。
「茜……! 大丈夫か?」
 葵は、荒い呼吸を繰り返している茜の背を労るようにそっと撫でた。
「俺は……平気だ。それより――酷いことされたんじゃないのか、葵?」
 葵の首に回された茜の手が、彼の不安を表すように強く葵を引き寄せる。
「何もされてないよ」
「――本当に?」
「それが……奇妙なことにこの屋敷に閉じ込められていただけなんだ。だから、何も心配しなくていいよ。二条繭羅は実のところ――僕にはさして興味はないんだと思う」
 葵は茜の頬に走る傷を見て柳眉をひそめながら客観的な見解を述べた。
 二条繭羅は、三条風巳の心を揺さぶりたいだけだ。
 何とかして風巳の興味を惹きたいだけなのだろう。
 だから、折角捕らえた葵を嬲りもせずに放置しているのだ。
「そうか……とにかく葵が無事でよかった」
「来てくれて――ありがとう、茜。無理をさせてしまったね……。今、僕の神氣を移すから――」
 葵は両手を茜の頬に添えると、ゆっくりと彼の額に自分の額を押し当てた。
 自分の裡に蓄えてある神氣を触れた肌を通じて弟の体内へと送り込む。茜が失ったエネルギーを少しでも充填してあげたかった。
 一分も経たないうちに茜の呼吸は正常に戻り、頬の傷も完治した。
「ああ……生き返った気がする。サンキュー、葵」
 額をくっつけたまま茜が微笑する。
 直後、すぐ傍で軽い咳払いが起こった。
「あの、感動の再会中、非常に申し訳ありませんけど――」
 葵と茜が同時に声のした方へ顔を向けると、一条龍一が居心地が悪そうに苦笑いを浮かべていた。
「風巳様は一緒じゃないのですか?」
 龍一の真摯な眼差しが葵を射る。
「風巳とはさっき離れ離れにされました。ですが、部屋は解ります」
「じゃあ、そこへ案内してくれないかな?」
 龍一に請われ、葵は咄嗟に茜に視線を流していた。すかさず茜が首肯する。
 おそらく茜は葵を救出するために一時的に龍一と手を組んだのだろう。そして、彼との間で交わされた口約束の中には『風巳の奪取』も織り込まれているに違いない。
「解りました。こっちです」
 素早く状況を呑み込むと、葵は立ち上がり、茜と龍一についてくるように促した。


 葵を先頭に三人は複雑に折れ曲がった廊下を黙々と進んだ。
 不思議なことに下級魔人や魔魅の類は一体も襲ってこない。
 奇妙な静けさが二条邸を包み込んでいた。
 ――おかしい。
 葵が閉じ込められていた牢の前には夥しい数の魔魅や魔人が配置されていたのに、風巳の方には何の策も張り巡らさないなんて、どう考えても有り得なかった。
 これでは、まるで風巳を餌に誘い込まれているみたいだ。
 静寂に故意と悪意を感じた。
「――駄目だ。止めよう」
 しばらく廊下を歩いた末に、葵はゆっくりと脚を止めた。
「これは……進むだけ体力の無駄だよ。さっきから同じ所ばかり通っている。どうやら僕たちは二条繭羅の術中にはまっているらしい」
 葵は軽く唇を噛んだ。
 茜が苛立たしげに舌打ちを鳴らし、龍一は『またか……』というように溜息を落とした。
 そもそも、この屋敷のある空間自体が繭羅の箱庭なのだ。繭羅は自分が思う存分に能力を発揮できる世界で、屋敷内に更なる細工を施したようだ。
 行けども行けども先刻まで幽閉されていた部屋に辿り着けないのは、繭羅の幻術によるものなのだろう。彼女の生み出した世界なのだから、彼女がその気になればいくらでも自由自在に変化できる。
「ホンット、こんなにアッサリ捕まってくれるなんて拍子抜けだわ!」
 突如として、甲高い少女の声が響く。
 一同がハッと声の主を探すと――前方に純白のセーラー服が出現した。
 二条繭羅だ。
 空間を割くようにして姿を現した繭羅は、その力を誇示するように優雅に宙に身を浮かせていた。



 
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2010.02.06 / Top↑
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