ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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「うわっ、何だよ、アレッ!?」
 北階段を昇り、三階の廊下に飛び込んだ瞬間、園田充が雷に打たれたように足を止めた。
「あっ……ええっ!? 俺なのかっ?」
 充の後に続いた水柯は、目の前に広がる光景を見て仰天した。
 隣では、珍しく驚きを感じたらしく直杉が小さく息を呑む気配があった。
 薄暗い廊下では異様な光景が展開されていた。
 青白く光る半透明の充が、田端樹里と口づけを交わしている真っ最中だったのである。
「オイ、俺! 早まった真似をするなっ!」
 充が偽者の自分に向かって盛大に喚く。
「どうして充くんがいるの?」
 水柯は懐中電灯を片手に唖然と呟いた。
 懐中電灯は、階段の途中に転げ落ちていたのを今し方拾い上げてきたのである。
 その光に照らされて、偽の充と樹里の姿がはっきりと闇の中に浮かび上がっていた。
「水妖の変化だろう。燐光を発している」
 直杉が苦々しく応える。
「俺のバカ野郎! 偽者の分際で樹里に近づくな。さっさと離れやがれっ!」
 充が更に喚き散らすと、彼の姿を模した水妖はゆっくりと顔を上げた。
 鬱陶しげにこちらに首を巡らせる。
 凄絶な眼光を宿らせた双眸が、水柯たちを睨めつけた。
 無言のまま、偽の充は樹里を両手に抱きかかえて立ち上がる。
 瞬時、青白い物体は変化を解き、充から本来の姿へと戻った。
『あなたたち、精神世界から逃げおおせたのね。嫌な人たち。今までの侵入者と違って遊び甲斐がありそうだけど――邪魔ね。大人しく死んでくれればよかったのに』
 少女姿の水妖が、忌々しげに吐き捨てる。
 少女の腕に抱かれた樹里は、意識を失っているのかグッタリとしていた。
「樹里をどうする気なのっ!?」
 水柯は水妖を睨み返し、詰問した。
『この人、似てるの』
 水妖が愛しさを込めた眼差しを樹里に注ぐ。
『わたしの愛した人に似てるから、連れて行くわ。誰にも邪魔させない』
 静かに、だが確固たる決意を込めて水妖は宣言する。
「連れて行くって、どこによ?」
『わたしの傍――わたしの世界へ。この子には、わたしの子供になってもらうの』
 水妖の顔に愉悦の微笑が広がる。
 彼女は、己が人外の存在だということを誇示するように、樹里を抱えたままスーッと宙に浮かび上がった。
「待ちなさいよ。樹里を返して!」
 水柯は咄嗟に駆け出していた。
「樹里はおまえの息子なんかじゃないぞ!」
 充も憤りたっぷりに怒鳴る。
 しかし、それさえも水妖は冷厳とした眼差しではね除けた。
『今宵は九月九日――禁忌を犯したあなたたちが悪いのよ』
 水妖の右手が素早く挙がる。
 直後、それは直杉に向けて振り下ろされた。
「――む!」
 突如として、直杉の身体に青白い流動体が巻きつく。
 細い触手のような水は、直杉の胸ポケットから何かを取り出すと、それを彼女の頬に叩きつけた。
 小さな長方形の物体が、直杉の頬に跳ね返って床に落下する。
 それが合図だったかのように、水妖の姿は忽然と消え失せた。樹里を道連れに。
 廊下に重苦しい沈黙が垂れ込める。
 しとしとと降る密やかな雨の音だけが、絶え間なく続いていた。




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2009.06.04 / Top↑
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