ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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 過去、九月九日夜、学園に忍んだ者の中に生還した前例なし。
 因って、毎年九月九日午後六時以降、学園を完全に封鎖する。
 教師・生徒・警備員を含め、全ての者は学園に立ち入ることを禁ずる。

                     一九九X年 九月一〇日
                       生徒会長 桐生蒔柯




「なるほど。校則を破って学園に侵入した私たちが悪い、と奴は言いたかったのだな」
「だーかーら、さっきも言ったけど、生徒手帳に目を通す生徒なんかいないって」
 充が非難するように手帳を睨めつける。
 こんな事柄まで校則に記されているとは、今まで水柯は知らなかった。
 いや、全校生徒の大部分が知らない事実だろう。
 伝説についての校則が明記されていること自体、おかしいのだ。
 いくら怪現象が頻発する学園だといっても過剰すぎる。
「何でだろう? これ、変だわ。ママの名前があるのは理解できるけど……」
 水柯は釈然としない面持ちで手帳を眺めた。
「ああ。水柯ちゃんのママ、ここの生徒会長だったもんな」
 充が『生徒会長 桐生蒔柯』と印字された箇所を指で示す。
「名が刻まれているということは、水柯の母が生徒会長時代に特記を作成したのだな」
「うん。これ、ママが作った校則だわ。悪夢の中でも、ママは持田先生に校則の提案してたもの。きっと、これがそうなのよ。でも、何か変なのよね。引っかかるの……」
 水柯は目を凝らして特記を読み直した。
 そして、その中にどうしても納得のいかない部分を発見した。
「何が、どう変なのだ?」
「おかしいのよ――この日付」
 水柯は蒔柯の名の傍に記されている年月日を指差した。
「一九九X年って、本当ならママは三年生なんだけど……わたしを産むために、ママは三年に進級する前に退学してるはずなのよ。この年、ママはもう聖華にいないはずなの。だって、一九九X年九月一〇日って、わたしが産まれた日だもん」
 水柯が疑問点を挙げると、直杉と充は顔を見合わせた。
 二人とも、水柯の誕生日が明日だという事実に気づいたのだろう。
 ついでに彼らも水柯と同じく、生まれ年は西暦一九九X年であることを思い出したに違いない。
 水柯を産んだその日が校則認可ないし作成月日となっているのは、理解に窮する。
 どうしても解せない。
 この年、この日、桐生蒔柯という生徒会長は存在していないはずなのだ。
「単なる印字ミスじゃないのか」
 充が楽観的な意見を述べる。
「そうかもしれんが、謎ではあるな」
 直杉は、充の意見を無視しなかったが重視もしなかった。
 それには水柯も同感だった。
 そう簡単には、単純な印刷ミスだと信じることはできない。
「まあ、真偽のほどは水柯の母か持田先生に訊けば判明するだろう。だが今は、そんなことを悠長に論議している場合ではない。田端を救出しに行かねばならぬ」
 直杉が気を引き締めるように、真摯な眼差しで水柯たちを見遣る。
「ナオちゃんの言う通りだわ。悩んでる場合じゃない。樹里を助けに行かなきゃ!今のわたしたちにできるのは、それだけだもん」
 水柯は大きく頷き、声高に宣言した。
「さて、奴は何処へ消え――」
 不意に、直杉の声が途切れる。
 予期せずして、電子メロディが廊下に鳴り響いたからである。
 携帯電話の着信音だった。
 直杉の視線が迷惑そうに充へ向けられる。
「え? 俺、ケータイ持ってないよ。鞄、生徒玄関前に放置したままだし」
 直杉の無言の抗議に、充が慌てて手を振る。
 彼の視線が水柯に向けられた。
 確かに、水壁との攻防の際、直杉と充は鞄を廊下に放り出していた。
 ならば、残るは水柯しかいない。
「――あっ!」
 水柯はポンと両手を叩き合わせた。
 充のケータイという言葉で思い出した。
 家を出る時、鞄に携帯電話を放り込んできたことを。
 改めて着信音に耳を澄ますと、それは聞き慣れた『椿姫』の旋律を奏でていた。
 しかも発生源は、紛れもなく肩からたすき掛けにした鞄の中だ。
「ゴメンゴメン、わたしだ」
 水柯は謝りながら携帯電話を取り出した。
 ――そうだ。わたしには、この文明の利器があったのよ!
 どうして今まで、その存在に思い至らなかったのだろう。
 気が動転していなければ、もっと早くに携帯を通じて外界と接触することができたかもしれないのに……。
 一瞬己の愚かさを呪ったが、過ぎてしまったことはどうしようもない。
 とにかく今、誰かが水柯と接触をとりたがっているのだ。
 液晶画面は、午後十一時三十二分の時刻と着信の合図を報せている。
 相手は『自宅』と表示されていた。
 その二文字を目にした瞬間、心がパッと明るくなる。
 水柯は逸る心のままに勢いよく通話ボタンをプッシュした。




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2009.06.04 / Top↑
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