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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Sun
2010.08.08[11:43]
1.発端


 今日のあたしは、ツイてない。

 葉月真央は、廊下を荒々しく進みながら痛烈にそう思った。
 無意識に大振りになる腕と歩幅の広い脚のせいで、更に歩調が強まる。
 あまりの激しさに、濃紺のブレザーを彩る水色のリボンが胸の真ん中で大きく弾んだ。
「――ったく、なに考えてんのよっ!」
 口から飛び出すのは苛立ち混じりの言葉ばかりだ。
 頭の中は無数の『何故?』で埋め尽くされている。
 真央は《3-D》という自分の教室を見つけると勢いよくドアを開け、中に足を踏み入れた。
 室内のクラスメイトたちを掻き分けるようにして、窓際の自分の席へ辿り着く。
 机の横にかけてあった鞄を乱暴に手に取ると、真央は踵を返した。
 入室した時とは逆の経路で教室を飛び出す。
 再び廊下をズカズカズカッと大股で歩き始めた。
「真央! ちょっと待ってよっ!」
 だが、数メートルほど進んだところで、背後から呼び止められた。
 仕方なく足を止める。
「――何?」
 キッと鋭く振り返る。
 友人の桜が『荒れてるわねぇ』と困り顔で呟いた。
「あんた、藤川とどうなったのよ?」
「今、その名前は出さないでっ!」
 真央は眦をつり上げて桜を睨んだ。自然と鞄を掴む手に力が加わる。
「ねえ、藤川のことフッたってホント?」
 真央に拒絶にめげもせずに、桜は興味津々の体で訊いてくる。
「――どうして十分も経ってないのに、ソレを知ってんのよっ!?」
「えっ、みんなもう知ってるわよ。情報網広いんだから今の時代。『学園一の美形――藤川を真央がこっぴどくフッた』って。いい度胸してるわね、真央」
 桜が驚愕と畏怖を織り交ぜたような声音で告げ、しげしげと真央を見つめる。
 ――もう学園中に広まってるなんて、サイテー!
 真央は急な頭痛を感じた。ショックで頭がクラクラし、胸がムカムカする。
「あたし、帰るね……」
 桜に向かって力なく片手を振ると、真央は身を反転させて廊下を進み始めた。


 ――ホントに今日はツイてないっ!
 思えば、朝の寝坊から本日の不運は確定していたような気がする。
 急いで家を飛び出したら、慌てすぎて自転車から転げ落ちた。
 始業ベルギリギリに校舎に滑り込んだところで、生活指導の教師に捕まり『スカートが短い!』とくどくど説教された。
 そのせいで朝のホームルームには間に合わず、結局《遅刻》扱いにされた。
 朝の気疲れのせいか三時限目の数学でうっかり居眠りをしてしまった。目敏くそれを発見した教師にわざと問題の回答を求められ、答えが全く解らずに大恥をかいた。
 お昼休みにお弁当を食べようと思って鞄を開けたら、焦って家を出てきたせいで兄特製の弁当を持ってくるのをすっかり忘れていた。
 仕方がないので購買部で《焼きそばパン》を買って食べたけれど、当たりが悪かったのか午後からお腹がゴロゴロ鳴りっぱなしで調子が悪い。

 そして、極めつけに――放課後、大嫌いな藤川琉に呼び出された。

『何の用なのよ?』と訝りながら琉の後について屋上へ行くと、そこで全く予期せぬことに『僕とつき合ってくれ』と告白されたのだ。
 無論、そんなことを言われるとは露ほども想像していなかったので、真央は心底驚倒した。
 あまりにも意外な展開過ぎて、しばし全身が強張り、口元が戦慄いた。
 藤川琉。
 真央と同じ三年生で、端整な顔立ちをした少年だ。
 凜とした柳眉に、スッキリと筋が通った鼻梁。双眸は青みがかった黒色で、少しつり上がり気味の二重だ。唇は少し薄目だが形は良く、妙に艶っぽい。風変わりな瞳の色が不思議な雰囲気を醸し出すのか、近寄りがたいオーラを発している。だが、彼の魅惑的な容姿は常に女生徒たちの話題の的だった。同級生はもちろん下級生からも絶大な支持を得ている。
 しかし、真央は琉が苦手だった。
 いや、不得手というよりも――正直、彼のことが嫌いなのだ。
 出来れば関わり合いになりたくない。琉を見る度に、その美貌に見え隠れする冷淡さと冷酷さにハッとさせられる。背筋に悪寒が走る。
 確かに顔の造作は恐ろしく整っているのだが、美しすぎるがゆえにどこか人間離れした印象を受ける。
 それに藤川琉は、どういう訳なのかしつこく真央につきまとってくる。
 何よりもそれが鬱陶しくて、真央は彼のことが嫌いだった。
 そんな琉から告白されるなんて、冗談ではない。
 真央は『あたし、あんたのこと嫌いだから』とハッキリキッパリ彼の申し出を拒絶した。
 そして、非常に不愉快な気分のまま――今に至る。

 ――アッチだってあたしのことは嫌いなはずなのに……マジで何なのよ、あいつ!
 生理的に琉を受け付けないので、どうしても侮蔑と罵りの言葉が胸中に渦巻いてしまう。
 藤川琉が真央に対して一片の恋愛感情も抱いていないことは、彼の凍てついて双眸が如実に物語っている。それなのに告白してくるとは、嫌がらせ以外の何ものでもないだろう。
「ムカツク……!」
 小さな罵声を放ち、真央は生徒玄関から校庭へと飛び出した。
 生徒たちでごった返す校庭を器用に進み、隅にある自転車置き場へと移動する。
 自転車置き場で多数の生徒たちが屯し、放課後のお喋りに花を咲かせていた。
「――あ、真央! 藤川、フッたんだって!」
 自転車のロックを解き、鞄を乱暴にカゴに突っ込んだところで、同級生の一人が真央に声をかけてきた。
「げっ、何で知ってんのよっ!?」
 真央はギョッと目を剥き、同級生を恟然と見返した。
「えー、だって、誰かツイッターで呟いてたよ」
 事も無げに告げ、同級生が片手を振ってみせる。その手には、最新型のiPhoneが握られていた。
 どうやら藤川琉が真央に告白した一件は、たまたまソレを目撃していた誰かによってコミュニケーションツールからネット世界へとバラ蒔かれているらしい……。
「……うわっ、サイアク!」
 真央は思いきり顔を引きつらせ、同級生が手にしているiPhoneを忌々しげに睨めつけた。
「ねえねえ、真央ってナッシー好きだったっけ?」
 今度は別のクラスメイトがやはりケータイを操りながら声をかけてくる。ネイルで綺麗に彩られた長い爪を持つ指が、器用かつ迅速にキーボードを打ち続けている。
「ナッシーって誰よ?」
「山梨和久」
「ああ……」
 もたらされた返答に、真央はまたしても口の端を引きつらせた。
 言われてようやく、相手が誰だか気がついた。超人気アイドル山梨和久のことだ。
 歌って、踊って、魅せる――何かとスキャンダルの多いお騒がせアイドルだが、その人気は凄まじく、真央の通うM市桃苑学園の女子も七割方彼にハマッているというのが現状である。
「ナッシーのツアコン、友達とダブッちゃってチケット余ってるんだけど――真央、行かない? つーか、買わない?」
「行かない。買わない――興味ない」
 真央は抑揚のない声で即答すると、同級生たちに「じゃあね」と素っ気ない挨拶を述べ、自転車に飛び乗った。
 如何にスーパーアイドルといえども興味がないものはないし、今のささくれ立った心にはどんな些細なことでさえも自分を苛立たせる要素にしかならなかった。
 最新型のスマートフォンもアイドルの放つ煌めきも――要らない。
 真央には不必要ものだ。
 制服のポケットの中――大切なガラス玉一つあればいい。

「ちょっ……真央! 藤川フるなんて、ちょーもったいないって! 考え直し――――」
「お願いだから、藤川のコトは放っておいてっっっっっ!!」
 真央は激しい語調で怒鳴ると、勢いよくペダルを漕ぎ始めた。
「もおぉぉぉぉぉっっっっ、藤川琉のバカヤローッッ!!」
 下校する生徒たちの隙間を豪快なハンドル捌きで進みながら、真央は最大限の怒りを込めて叫びを発した。
 みんなが注目していたが構わなかった。腹の底から声を振り絞らなければ、胸に蟠る苛立ちと憤怒は収まりそうにない……。
 真央は原チャリにも負けない速度で自転車を漕ぎ続け、一路愛する我が家を目指した――



     「2.シエスタ」へ続く


70000HIT、ありがとうございます♪
物凄く久し振りに通常更新するような気がします(汗)
「妖鬼伝」の続きにするか聖華学園のホラー話にするか「魔法使い」にするか迷い――結局、中編のコレをアップすることに決めました←
相変わらずの不定期連載ですが、20話前後で終わる予定です。
あ、ちなみにタイトル通り「魔法使い」の物語ですので、山梨は出てきませんよ!(笑)

 
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Category * 魔法使い
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