ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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2.シエスタ


「レイン? ――レイン、いないの?」
 帰宅するなり、真央は勢いよくリビングへ飛び込んだ。
 キョロキョロと室内を見回すが、広いリビングは無人だった。当然、捜し求めている相手もいない……。
 真央は溜息を一つ吐くと、制服の胸ポケットからガラス玉を取り出した。
 直径二センチほどの蒼いビー玉。
 南国の澄んだ海の如く綺麗な藍玉。
 その美しさは、アクアマリンの中でも深く透明なマリンブルーを特つ稀少石『サンタマリア・アフリカーナ』を想起させる。
 蒼きガラス玉は玲瓏たる輝きを放っていた。
「……レイン、何処なの?」
 真央はガラス玉に向かって真剣に問いかけた。しかし、応えはない。
 他人から見ればただのビー玉に過ぎないが、真央にとっては物凄く貴重な存在だ。
「アレ? 無視ですか……? ――もうっ、きっとお兄ちゃんのところね!」
 真央は不満げにボヤきながら、艶やかな黒髪を翻して方向を転換させた。
 リビングから廊下に移動する。突き当たりには二階へと伸びる階段があり、その階段脇には一つのドアが設えられていた。
 ドアを開けると、兄である森理(しんり)が経営している喫茶店《Siesta》に出るのである。

 学生の街で知られるM市には、数多のカフェや喫茶店が存在している。
 JR駅の北側には歩行者天国を中心にデパート群が立ち並び、有名ケーキ店《WALTZ》を筆頭にお洒落なオープンカフェやファストカジュアルがひしめき合っている状態だ。
 反対側の南口には、ドラマのロケなどで頻用される『Mの杜公園』の広大な緑が広がっている。
 公園を越えた先には、高級住宅が軒を並べるハイソな世界が形成されていた。

 喫茶店《Siesta》を含む葉月家は、南口出てMの杜公園へと続く道を進み――公園正面入口の手前にある路地を右に折れたところにひっそりと佇んでいる。
 大々的に看板を出しているわけではないので、パッと見は煉瓦造りの瀟洒な洋館にしか見えない。
 白い飾りに縁取られたメルヘンチックなフランス窓に、深い緑色の蔦植物が自由奔放に這っている煉瓦の壁。
 館の左端にある純白のドアに填め込まれたプレートに、小さく《Siesta》の文字が刻印されているだけなのである。
 商売気のない店構えだが、『手作りケーキと紅茶のお店《Siesta》』は森理のファンたちが口コミで広めてくれるおかげで、赤字にならない程度の集客力は得ていた。

「ただいま、お兄ちゃん。――レイン、来てない?」
 真央は《Siesta》へと続くドアを開けると、葉月家の居住区から喫茶店へと身を移した。
 カウンターの中にいた青年が、真央の声に反応を示して振り返る。
 青みがかった黒髪と涼しげな感じのする切れ長の双眸が印象的な青年だ。顔の造形はファッション誌のモデルになれそうなほど整っている。
 真央の姿を視界に捕らえ、青年は柔らかい笑みを浮かべた。
「おかえり、真央」
 真央の実兄――葉月森理だ。
 二十四歳にして《Siesta》を切り盛りする若き店主でもある。
「あっ、おかえりなさい、真央」
 ティーカップを磨いている森理の影からヒョイと金髪碧眼の青年が顔を覗かせる。
 森理とはタイプが異なるが、こちらも端麗な顔立ちの美青年だ。
 真っ直ぐに真央を見つめる双眸は、鮮やかな海の色をしていてる。
 彼こそ真央が捜し求めていたレイン本人である。
「お兄ちゃん! レインにお店の手伝いさせないで――って、何度も言ってるでしょ!」
 真央はカウンターの正面に移動すると、兄を軽く睨み上げた。
 妹の抗議を受けて、森理が肩を竦める。
「別にいいじゃないか、真央。元々、レインは俺が拾ってきたんだから。――ね、レイン?」
 森理が意味深な微笑を浮かべ、チラとレインを見遣る。
「まあ、どうせ真央が学校へ行っている間、私は暇ですし――お店の手伝いくらい何の苦にもなりませんよ。森理には拾っていただいた恩義もありますし」
 レインが屈託のない微笑みを森理へ返す。
 ほのぼのと笑みを交わし合う二人を見て、真央は胸中でメラメラと嫉妬の炎が燃え上がるのを感じた。
「レーイーンー! マスターのあたしよりお兄ちゃんを取るの?」
「何を言ってるんですか? 森理はこの人間界に於いて、とても稀少な存在――感謝と尊敬の念を抱いて当然です。マスターとは別の次元で敬愛しています」
 レインが真顔で語る。
 ――ホント、ウチの住人はアホみたいにお兄ちゃんのことが大好きなのよね……困るわ。
 真央は内心で呆れ混じりのボヤきを吐き、口元を引きつらせた。
「ですが、私のマスターは紛れもなく真央ただ一人です。この世で最も愛するのも真央だけです」
 明澄な輝きを放つブルーの瞳がひたと真央に注がれる。
 ハリウッドのファンタジー映画に出てきそうな超美形に見つめられ、挙げ句すんなりと告白され――真央は面食らった。
 心臓がドクンと跳ね、見慣れているはずのレインの瞳に吸い込まれそうになる。
「魔法使いは、何時如何なる時でも主人に忠実ですよ。我がウィザード・マスター」
 レインが首からかけていたエプロンを外し、艶やかな笑みを閃かせる。
 整いすぎた美貌に極上のスマイルを浮かべられると、それだけで浮世離れして見えた。
 この世のモノとは思えない美しさだ。
 いや、事実――彼は人間ではない。
 魔法使い。
 そう呼称される稀有な存在だった――



     「3.魔法使い」へ続く


短め更新を目指そうと思います← 無駄に話数が増えたらスミマセンッ(汗)
 

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2010.08.11 / Top↑
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