ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
--.--.-- / Top↑
3.魔法使い


 人間界とは別の次元に存在するという《魔法の国》
 魔法使いは、女王が統べるその摩訶不思議な世界で生まれ育つ。
 だが、何かの弾みで時々魔法使いたちは人間界に流れ着く。
 地震や台風などの天災――つまり、次元を揺るがしたり歪ませたりする大きな衝撃があると、魔法の国と人間界を繋ぐ通路が開き、魔法使いたちはそこに落ちてしまうことがあるのだという。
 次元路に落ちた魔法使いは、ガラス玉のような形態となり、人間界に漂着する。
《生命玉》と呼ばれるものだ。
 女王が決定した魔法の国の掟に従い、人間界に落ちた魔法使いは人間のマスターに遣えなければならない。
 この世界で最初に《生命玉》を拾ってくれた人間をマスターと定め、その人のためだけに神秘の力――《魔法》を駆使することが許されるのである。
 
 真央の持つマリンブルーの玉は、レインの《生命玉》だ。
 真央は、レインのマスターなのである。

「……うん。レインは、あたしだけの魔法使いだもんね」
 レインに純粋な信愛の眼差しを向けられ、真央は内心ドキドキしながら微笑み返した。
 レインが真央のことを心底大事に想ってくれているのが伝わってきて、嬉しかった。
 たとえそれがマスターに対する忠義から生まれたものでも、彼の裡で自分が《特別》であることに喜びを覚える。
 真央の裡で密やかに芽生えた淡い恋心。
 レインの笑顔を目にするだけで、真央の胸は温かな光のようなもので満たされる。
 ささやかな幸せ。
 それ以上は望めなくても充分だと思った。自分は人間でレインは魔法使いなのだから――
「確かにレインは真央の魔法使いだけど――拾ったのは俺だからね」
 ティーカップを丁寧に磨き続けながら、森理がさり気なくレインの拾い主であることを強調する。
「お兄ちゃんが妖しい世界では有名人だって解ってるつもりだけど――くどいわよ」
 涼しげな微笑を口元に刻む兄に呆れた眼差しを向け、真央は苦々しく言葉を放った。
 兄の森理は、喫茶店経営の傍ら星術師としての裏の顔を持ち合わせているのだ。
 裏の顔――というよりも、星術師の方が本業なのかもしれない。喫茶店の売上よりも裏稼業の方が遙かに設けているのだから。
 星の動きや輝きで未来を予見し、星の持つ神秘の力を借りて超能力に似た不可思議な脳力を発揮する星術師。
 オカルトマニアの世界で、森理は《現代の魔術師》として称讃されていた。事実、非現実的な苦難や悩みを解決するために、森理を頼って《Siesta》を訪れる者も多い。
 両親を早くに亡くした真央は、七歳年上の兄である森理に育てられたと言っても過言ではない。
 森理には言葉には表せないくらい感謝しているし、深い愛情を抱いている。
 また、オカルトを愛して止まない森理の影響を多大に受けて、真央自身もまた超常現象や不可思議なモノの存在をすんなりと受容できる性質を持っていた。

 だから、一年前――森理が海辺で『魔法使いを拾った』と言って、宝石のようなブルーの玉を持ち帰った時も、真央は驚いたりはしなかった。逆に過剰なほどに喜び、はしゃいだ。
 森理が拾った《生命玉》を自分に譲渡してくれるのが解っていたからだ。
 本来ならば一番最初に《生命玉》に触れた人間がマスターとなるのだが、魔法使いたちの間には『一人の人間に対して、一人の魔法使い』という女王の定めたルールが存在しているらしいのだ。
 自分の《生命玉》を発見した人間が疾うに別の誰かのマスターである場合は、他の者をマスターに選ぶことが出来る。
 当時、既に森理には契約を交わしてる魔法使いがいた。
 なので、彼は拾ってきたマリンブルーの玉を『特別だよ』と言って、真央の掌に乗せてくれたのである。
 こうして、真央は魔法使いのマスターとなった。
 そして、そのマリンブルーの《生命玉》に宿っていた魔法使いというのが、目の前にいる麗しい金髪のレインなのである。
 その――自分だけの魔法使いであるレインが、他の者に優しくすることは極端に嫌だった。
 心が狭すぎるし、独占欲が強すぎるのも重々承知しているが、たとえ兄の森理でさえもレインと親密にしている姿をみると妬心が湧き上がってきてしまう。
 それほどまでに真央はレインのことが好きなのだ。

「いい加減、魔法使い以外の友達も作った方がいいわよ、お兄ちゃん」
 からかい半分、本気の心配が半分――そんな微妙な心境で、真央は森理をじっと見つめた。
 星術師である森理は、不思議なモノを視る能力が他者より遙かに優れている。そういった人間の周囲には、どうしても磁力に引き寄せられるようにして堕ちてきた《生命玉》が集ってしまうようなのだ。
 レイン以降も森理の傍に漂着する魔法使いは後を絶たなかった。
 しかし、森理には決まった相棒がいるので、他の者のマスターにはなれない。
 そこで森理は、レインのように落ちてきた魔法使いを拾っては、マスターに相応しい人間を捜し出し、彼らを導いているのだ。
 そんな経緯もあり、元々オカルト嗜好で人付き合いも悪かった森理には、人間の友達が殆どいない。もしかしたら魔法使いの知己の方が多いかもしれない……。
「心配はなくても大丈夫だよ。友人ならちゃんといるし――」
「や、お兄ちゃんの友達って、ちょー引き籠もりで悪魔ヲタクの雅さんだけでしょ!」
 飄々と述べる森理の声を遮り、真央は思わず非難めかしい叫びをあげていた。
 真央は学生時代からの森理の友人を一人しか知らなかった。
 Mの杜公園の向こう側に広がる高級住宅街。その中に存在する桔梗に囲まれた白い洋館。
 通称『桔梗屋敷』――お化け屋敷だと噂される曰くつきの屋敷だ。そこの世帯主である椎名雅という青年が、兄唯一の人間の友なのである。
 類は友を呼ぶ――兄の友人だというだけあり、雅も相当な変わり者だった。
 親から受け継いだ莫大な遺産があるのをいいことに、馬鹿デカイ館に引き籠もり、日々『悪魔学』の研究に勤しんでいるほどの悪魔ヲタクなのだ。
 森理と雅の間で交わされる会話は得体が知れず、真央には妖しげな呪文にしか聞こえない。
「雅ひとりいれば充分だと――」
「あの人、もう二年近く家から出てないんじゃない!? お兄ちゃんたちが顔を合わさずにどうやってコミュニケーションを取っているのか、考えただけでも怖いんですけどっ!」
 またしても真央は兄の言葉を遮断した。
 森理と雅がケータイやネットなどで交信を行っていないことだけは確かだ。きっと使い魔とかテレパシーとか得体の知れない方法を用いているに違いない……。
「真央、あまり雅の悪口を言うと呪いを――」
「スミマセンッ! わたくしが悪かったですっっ!! もう二度と雅さんのことをけなしたりしませんっ!」
 真央は必死の形相で、三度兄の言葉を阻んだ。雅の悪魔召喚術の素晴らしさは、真央もよく知っている。軽い嫌味如きで悪魔をけしかけられては、たまったものではない。
「話は済んだようですね。――じゃあ、私はこれで失礼しますね、森理」
 兄妹の不毛な会話が一段落したところで、今まで静観していたレインが口を挟む。
 レインは後ろで三つ編みにしていた長い金髪を解くと、森理に向かって破顔した。
「ああ――サンキュー、レイン」
 森理の片手が素早くレインの腕を捕らえる。次の瞬間、森理はレインの白い頬に軽くキスしていた。
「おにーちゃんっっっっっっ!?」
 真央は極限まで目をつり上げて兄を睨んだ。自分をからかうためにわざとやっているのだ。そうと解っていても腹立たしいことこの上ない。
「あたしのレインに変なコトしないでよっ!!」
「そんなに怒らないで下さい、真央。森理だって悪気があったわけではないですし――」
 レインがのんびりとして口調で真央を嗜める。
 ――レインに対する悪意はなくても、あたしに対する悪戯心は満載なのよっっ!!
 真央は引きつった顔でレインを見遣った。雅について揶揄したことが、兄の厄介な悪戯心に火を点けたのだろう……。
「それに私――森理のこと好きですら」
 真央の荒れ狂う心情など汲んだ様子もなく、レインが微笑を湛える。
 ――それじゃあ、もっと悪いじゃない!
 真央はこめかみに青筋を浮かべ、もう一度森理を睨めつけた。
「あっ、俺もレインのこと好き」
 真央の視線を受けて、森理がニッコリ笑いながら言葉を紡ぐ。
 ――妹をいたぶって面白がるなんて、ホンット酷い兄だわっ!
 真央は両の拳を握り締め、兄に反撃しようと唇を開きかけた。
 転瞬、
「――マスター!」
 悲鳴に近い叫びが響いた。
 何も無い空間に捻れが生じ、そこから忽然と銀髪の少年が姿を現す。
 少年は宙に浮いたまま森理の首に後ろから抱き着いた。
「マスター、僕はっっ!?」
 今にも泣き出そうなほどアメジストの輝きを放つ瞳を潤ませ、少年が森理の顔を不安げに覗き込む。
 年の頃は、十四、五歳。ただし、人間で言えば――である。
 生憎、彼は人間ではなかった。レインと同じく魔法使いなのである。
「もちろん、大好きだよ、シルク」
 森理がシルクを両手で床に降ろしながら満面の笑みを浮かべる。
 シルクは、数年前から我が家に棲み着いている森理の魔法使いだ。森理は愛らしい魔法使いのことを実の弟のように溺愛していた。
 ――親バカだわ。
 自身のことを棚に上げ、真央は言葉には出さずに胸中で毒突いた。
「……お兄ちゃん、あたしたち家に戻るからね。――レイン、行くわよ」
 真央は、兄の意識がシルクへ移行したのを見逃さず、レインの手を引いて喫茶店と家とを隔てるドアへと向かった――
   

     「4.レイン」へ続く


……真央より森理の方が想い入れがあったりしますけど――主人公は真央です←(笑)
 
← NEXT
→ BACK

ブログパーツ

スポンサーサイト
2010.08.14 / Top↑
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。