ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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4.レイン


 二階にある真央の私室に向かうために階段を登る。
 階段の半ばまできて、真央はレインの手首を掴んでいる事実にはたと気がついた。
 同時に、もう一方の手に海色の《生命玉》を握りっぱなしにしていることも思い出す。
 真央は足を止めると、極力自然を装ってレインの腕を離し、ゆるりと振り返った。
 直ぐさま、軽く宙に身を浮かせながら後を着いてきているレインと目が合う。
「――何ですか、真央?」
 レインが動きを停止させ、不思議そうに真央を見返してくる。
 いつまでも手を握ってるのが急に気恥ずかしくなっただけなので、特に用件はない。
 真央は一瞬言葉に詰まったが、手の中にある《生命玉》の感触に多少強引な口実を思い付いた。
「この《生命玉》――ネックレスにしてほしいの」
 真央はズイッとレインに向かって手を差し出した。
 掌を広げると、深いアクアマリンの輝きが出現する。
 レインの瞳の色と同じだ。
 どういう原理なのか、魔法使いの心臓とも言える《生命玉》は、彼らの瞳の色と同一の色彩を放っているのである。単純に誰の《生命玉》なのか一目で判別出来るように――という人間のマスターに対する配慮なのかもしれないが……。
「お安い御用ですけど――急にどうしたのですか?」
 己の《生命玉》を受け取りながらレインが小首を傾げる。
 レインが真央の魔法使いになって約一年――その間、真央は一度もそんな提案をしたことがない。なので、レインとっては『何故、今更?』という心情なのだろう。
 まさか『単なる照れ隠しよ』と答えるわけにもいかず、真央は取り繕うように曖昧な笑みを浮かべた。
「手で持ってる――ってコトが物凄く面倒臭いって、たった今気づいたのよ。お兄ちゃんみたく首からぶら下げていた方が、きっと落としたりする確率も低いだろうし……」
 兄の森理は、紫水晶のようなシルクの《生命玉》をネックレス仕立てにしている。それを見て『いいな』とはチラッと思っていたのだが、万が一クラスメイトたちに見つかった時に巧く言い訳できないような気がして、結局何も細工をせずにいたのだ。
「そ、それは――鈍い……ですね……」
 何て応じていいのか困窮したらしく、レインが微苦笑で相槌を打つ。
「真央は森理とは違って、手で持っているのが好きなんだと思っていましたけど――」
「いいのっ! 今気づいたものは、今気づいたのよっ!」
 真央は、レインに『鈍い』とズハリ図星を突かれたことに激しい羞恥を覚え、頬を上気させた。そんなことは一々指摘されなくても自分がよく解っている……。
 大好きなレインに一瞬でも呆れられたのかもしれない――と想像すると、恥ずかしさの他に自己嫌悪まで込み上げてきた。
 真央はそれらを悟られたくなくて反射的にクルリと背を返し、逃げるように一気に階段を駈け上った。

「真央――」
 階段を登り切ったところで、周囲の空気が緩やかに流れた。
 レインが真央に追いつき、後ろからそっと肩を捕まえたのだ。限りなく優しい動作で、身体を反転させられる。
 次の瞬間、レインの白い腕が優雅に動き、真央の首に《生命玉》をかけた。
 それは、いつの間にか銀色のチェーンにしっかりと繋がれ、首飾りの形をとっていた。
 真央は《生命玉》を掌に乗せ、しげしげと眺めた。
 ブルーの玉には傷一つついていない。鎖と玉の繋ぎ目も至極綺麗な状態だ。どうやって鎖が玉から生まれているのか、全く判らない。レインが魔法で特殊な細工を施してくれたのだろう。
「今日は、いつになくイライラしていますね、真央。学校で何かありましたか?」
 レインが双眸に真摯な光を灯し、じっと真央を見つめる。
 問われて、真央はより一層顔が紅潮するのを感じた。
 レインに心の機微を察知されているのも気恥ずかしいが、脳裏に藤川琉の冷ややかな美貌を想起してしまい、怒りが再燃したのだ。
「――キライな奴に、告白されたのよ」
 真央は眉間に皺を寄せ、低い声音で呟いた。
 琉に告白された――という事実が甦ってくるだけで、胸が不愉快な気分に満たされる。
『つき合ってくれ』だなんて、とんでもない。真央にはそんな気持ちは更々ないのだ。
 真央は、目の前にいる魔法使いに強烈な恋心を抱いているのだから。
 初めてレインを目にした時から彼に惹かれた。
 レインの美しさ、優しさ、自分に向けられる真摯で穏やかな眼差し、魅惑的な魔法――レインという存在そのものが急激に真央を虜にしたのだ。
 魔法使いという特異性に物珍しさを覚えたのも一因しているだろう。だが、それを抜きにしても自分は彼に惚れていたに違いない。
 毎日同じ時を過ごしているのに――顔を合わせる度に胸が高鳴り、心が眩い光に照らされる。
 レインが好きだ。
 だけど、素直になれない真央は、ついついレインに対しても意地を張ってしまう。自業自得というべきか、そんな己の態度が災いして、レインが真央の気持ちに勘づいている素振りは全くなかった……。
「青春――ですね?」
「藤川と青春なんて味わいたくないわよ!」
「何もそんなに毛嫌いしなくても……。真央は美人ですから、異性からたくさん告白されても不思議じゃないと思いますよ」
「……お世辞でも嬉しいわね!」
 真央は憤然と言い放ち、プイッとレインから顔を背けた。
 ――レイン以外の人に告られても、ちっとも嬉しくないのよっ……! 藤川のバカッ!
 再び藤川琉に対する不満が込み上げてきて、真央はこめかみを引きつらせた。
「あーっ、もうっ……! 思い出しちゃったじゃない! ホント、いけ好かない男だわ、藤川琉!」
「――え? 誰ですって?」
 ふと、レインが真央の言葉尻を捕まえて柳眉をひそめる。
「藤川琉よ、藤川琉! ちょっと浮世離れした感じの美形なんだけどね、眼光が冷ややかすぎて――あたしはキライなのっ!」
「藤川琉……リュウ――ですか? 昔、何処かで耳にしたことがあるような……ないような――」
「何? 知ってる奴なの、レイン?」
 思案するように軽く瞼を伏せたレインに、真央は率直に訊ねた。
「いえ……はっきり思い出せないのですが……昔、そんな名を聞いた気がします。ですが、リュウなんて特別珍しい名前でもないですし――私の思い違いかもしれません……」
 レインが歯切れ悪く述べる。
 明瞭に記憶を引き出せないことにもどかしさを覚えているのか、レインの秀麗な顔は翳っていた。
「じゃあ、きっと気のせいよ! あたし、レインに藤川の話をするのは初めてだし、レインは藤川に逢ったこともないはずよ」
 放っておけば延々と記憶を遡り続けそうなレインの様子を見て、真央はピシャリと話題にピリオドを打つ。
 レインを学校に連れて行ったことはないのだから、藤川琉と出逢うきっかけなどないだろう。そもそも、あまり《Siesta》の外に出たがらない性質なのだから、レインに人間の知り合いがいるとも思えなかった。
 レインは納得がいかないように首を捻っている。
 だが、真央は藤川琉に関する話題をそれ以上交わしたくなくて、踵を返すと自室のドアを勢いよく開いた――



     「5.琉と楠葉」へ続く



 

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2010.08.16 / Top↑
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