ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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5.琉と楠葉


 真央がレインに向かって藤川琉に対する嫌悪を露わにしていた頃――
 当の本人は、自宅のソファーに寝転がり、形の良い唇に薄笑みを刻み込んでいた。
 室内は仄暗く、ソファーの脇に置いてあるナイトランプの淡い光が、琉の整った顔貌に奇妙な陰翳を作り出してた。
「――とうとうあと一人になったよ、楠葉」
 琉は気怠げに上体を起こすと、片手を開き、掌に載っているものをうっとりとした眼差しで眺めた。
 掌では琥珀色の玉が魅惑的な輝きを放っている。
 琉が話しかけると、それは自らの意思を持っているかのように左右に細かく揺れた。
 転瞬、眼前の空気が僅かに歪み、自分以外の何者かの気配が生じる。
「オレは――どうして琉があんな気の強い我が儘女を選んだのか、理解に苦しむけどね」
 不愉快さを隠そうともしない低い声が、琉の耳に届けられる。
 琉は微笑を湛えたまま声の主を上目遣いに見つめた。
 シトリントパーズのような双眸を持つ少年が、不機嫌な顔でじっと琉を見下ろしている。
 薄闇の中で猫の目のように輝く瞳は、彼が《人外の存在》であることの証だ。
「そうかな? 僕はこれでも結構彼女を気に入ってるんだけどね」
 琥珀色の玉を右手から左手、左手から右手へと転がしながら、唇に更なる弧を描かせる。
 そんな琉の様子を見て、トパーズの瞳をした少年――楠葉(くすば)はヒョイと肩を聳やかした。
「こんな女、どこがいいんだかね」
 楠葉がパチンと指を鳴らす。
 すると、巨大な鏡が琉と楠葉の前に出現した。
 鏡面には一人の少女が映し出されている。
 癖のない黒髪が印象的だ。桜色の唇は可愛いが、端がキュッときつく結ばれている。大きな瞳は、力強い光を宿していた。
 美人の部類に入るのだろうが、口元と双眸から勝ち気で頑なな性格が滲み出ていた。
「葉月真央――最後の標的だ」
 鏡に映る少女に視点を据え、琉は抑揚のない声で告げる。
 琉と同じ学年に在籍する葉月真央。
 彼女さえ手に入れれば、琉の目的は果たされるのだ。
「もちろん、協力してくれるだろ、楠葉?」
 琉は楠葉へ視線を流すと、先ほどとは打って変わった甘い声音で問いかけた。
「嫌だね。気乗りしない」
 だが、楠葉からは即座につっけんどんな答えが返ってくる。琉に向けられた顔にはあからさまな不満が浮かび上がっていた。
 楠葉の返答を受けて、琉は青みがかった双眸をスッと細めた。
「楠葉――コレを割ったらどうなるのかな?」
 琉は、琥珀色の玉を親指と人差し指で摘み、意味深に目の前に翳してみせた。
 楠葉の身体が一瞬にして強張る。
 琉が手にしている琥珀の玉は、この世界における楠葉の生命。
 魔法使いの《生命玉》だ。
 心臓に値する《生命玉》を破壊された時には、楠葉そのものも砕け散り――人間界から消滅するだろう。
 瞬時に破砕された己を想起してしまい、楠葉は目を見開き、琉が手にする《生命玉》を凝視していた。
「冗談だよ、楠葉。僕を――助けてくれるだろ?」
 楠葉の瞠られた双眸を見つめ、琉がクスクスと笑い声を立てる。
 唇は確かに弧を描いているのに、楠葉に向けられた瞳には冷ややかな光が宿っていた……。
「……当たり前だ。マスターの命令なら――何でもしてやるよ」
 楠葉が身体の硬直を解き、正面から琉を見返す。『マスター』という部分に微かな揶揄と反発が織り交ぜられていた。
 基本的に魔法使いはマスターには逆らえない。
 生命の源である《生命玉》を所持するマスターには『絶対服従』が掟なのだ。
「けど――何でこの女なんだ? 他のヤツの方がやりやすいだろ?」
 楠葉の視線が再び鏡の中の葉月真央に注がれる。
「それは……彼女が《強い》ってこと?」
 楠葉の《生命玉》を掌で転がしながら琉は問いかけた。
「そうだな。彼女はきっと――手強い。ってゆーか、彼女から感じる魔法使いの波動が強いな。何も好きこのんで強いヤツを相手にする必要はないだろ? もっと簡単に壊せる脆弱なヤツを探した方が、万事上手くいくぜ」
「……解ってる。だけど、彼女が最も手近な人間だったんだ。それに僕は――強い相手は嫌いじゃない。強ければ強いほどねじ伏せたくなるね」
「自分の趣味を優先するなよ、琉」
 楠葉の唇から呆れたような溜息が洩れる。
「それで、もし失敗したらどうするんだよ? オレたちの目論見は水の泡だ」
「失敗はしない。だって、僕には楠葉がいるだろ?」
 琉は楠葉の片手を引き寄せると、彼の懸念を払拭するかのように手の甲に唇を押し当てる。
 琉の冷たい唇の感触に楠葉は驚いたが、主の好きなようにさせておいた。
「僕に――この僕に失敗は有り得ない。必ず計画通りに事は運ぶよ」
「……そうなれば、晴れて人間界から解放されるな」
「僕らのために、葉月真央――彼女を手に入れよう」
 琉がほくそ笑みむ。顔立ちが整っているだけに、その微笑は毒々しい艶やかさを醸し出していた。
 楠葉の手から顔を離すと、琉は鋭利な眼差しで鏡の中の真央を射た。
 紅い唇に蠱惑的な笑みが広がる。
「彼女で最後――十人目のウィザード・マスターだ」



     「6.告白?」へ続く





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2010.08.18 / Top↑
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