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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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6.告白?


 私立桃苑学園からJR駅へと向かう道の途中に、望月公園という小さな公園が存在していた。
 南口に存在するMの杜公園の雄大さには叶わないが、緑に囲まれた小綺麗な公園であり、駅に近いという理由から待ち合わせ場所としても活用されている。
 時刻は午後三時半――
 公園は、学校帰りの中高生や子供連れの母親たちでこそこ賑わっていた。
 駅と繁華街の中間に位置しているので、公園に面した通りも滅多に人足が途絶えることはない。
 真央は、入口付近に設置されているベンチに独りポツンと腰かけていた。
 兄の森理を待っている最中なのである。
 今日は一緒に夕食の買い物をする約束をしている。週に一度、《Siesta》の定休日に合わせて二人で食料品の調達を行うことが、葉月家の習慣なのだ。
 公園の駐輪場に自転車を止めてから約十分――森理は未だ姿を現さない。
「何やってんのよ、お兄ちゃん?」
 真央は腕時計に手を落とし、溜息を吐いた。
 几帳面な森理が約束の時間より前に到着していないのは珍しい。
 真央は膝に乗せた鞄の上に両肘をつき、頬杖をついた。
 その状態のままで視界をよぎる子供たちの姿をしばし眺める。
 ――が、やはりすぐに飽きてしまった。
「……つまんない」
 真央は頬杖を解くと、大きな欠伸をしながら両腕を思い切り伸ばした。
「こんなに待たされるなら、連れてくればよかったな――レイン」
 腕の力を抜き、再び吐息を洩らす。
 真央は首にかけている銀の鎖を取り出し、マリンブルーの玉を見つめた。
 玉と同じ色の瞳を持つ魔法使い――レインは、朝から『図書館に行って来ます!』とやけに張り切っていた。彼は、人間界の書物を読むことが大好きなのだ。なので、普段は滅多に外出などしないくせに、M市立図書館に赴く時だけは妙なハイテンションのまま喜々として出掛けてゆく。
 図書館に行く時は閉館ギリギリまで居座っているので、今もまだ本の世界に没頭していることだろう。
《生命玉》に向かって名前を呼べば、レインは簡単にこの場に出現する。だが、そうまでするほどの理由はない。単に森理が来るまでの時間を持て余しているだけなのだから。
 真央は穏和なレインの顔を脳裏に思い浮かべながら、玲瓏たる宝玉をじっと見つめた。
 レインの双眸と同じ輝きを放つ《生命玉》は、いつ見ても神秘的で吸い込まれそうになる。
 陽の光を反射して煌めく様は、レイン本人の内なる光輝を現しているようで、真央は思わず見惚れてしまった。
 無意識に口元がフッと緩む。


「――綺麗な石だね」
 突如として、すぐ間近で声が響いた。
 あまりにも予期せぬ出来事だったので、真央はハッと息を呑み、唇を引き締めた。
 聞き覚えのある声だ。しかも、あまり耳にしたくない部類に属する……。
 ベンチに腰かける真央の前に、スーッと黒い影が覆い被さる。
 真央は嫌な予感に身を強張らせると、恐る恐る顔を上げた。
 直ぐさま、端整な顔立ちの少年が視野に飛び込んでくる。
「げっ、藤川っ!?」
 予想通り『逢いたくない人物ナンバーワン』とバッチリ顔を合わせる羽目になり、真央は思いっ切り顔を引きつらせ、口の端を歪めた。
 眼前に出現したのは、学園一の美形――藤川琉だ。
 真央は不審さを隠しもせずに、警戒心の孕んだ眼差しで彼を見上げた。
 昨日の今日で堂々と声をかけてくるとは、信じられないほどタフな神経の持ち主だ。
 もしかしたら、真央にフラれたことに対して何らダメージを受けていないのかもしれない。
 有り得ることだ。
 そもそも琉が真央に告白してくること自体がおかしいのだ。
 琉からは真央に対する恋愛感情は全く感じられないし、到底こちらに好意があるとも思えないのだから……。
 なのに、何故告白してきたのか皆目解らない。
 何かしらの意図があって近づいてきたのだとすれば、それはきっとあまり喜ばしくない理由に違いない。
「随分なリアクションだね、葉月さん」
 琉が艶かな唇に弧を描かせる。口は笑みを象っているが、青みがかった瞳の奥には冷ややかな光を宿していた。
「いつもと変わらないリアクションだと思うわよ」
 真央は怪訝な視線を琉に注いだまま素っ気なく言葉を紡いだ。
 ――今、全然気配がなかったわよね、こいつ……。
 いくらレインの《生命玉》に見入っていたからといって、目の前に誰かが接近しているのに全く気づかないなんて――おかしい。
 無意識なのか故意なのか、琉は完璧に気配を消して真央に忍び寄っていたのだ。
 気味が悪い。
 また一つ琉に対する不審と違和感が生じ、真央は微かに眉をひそめた。
「いつもと変わらない――か。それはそれでショックだね」
 琉が心にも思ってもいないことをサラリと唇に乗せる。
「それ――本当に綺麗な石だね。僕にも見せてよ」
 唐突に琉の細い指がスッと伸ばされ、真央の持つ青玉に触れようとする。
「ダ、ダメよっっ!!」
 咄嗟に真央は《生命玉》を掌に包み込んでいた。
 これは、レインは生命。
 無闇矢鱈と他人に触らせるわけにはいかない。
 相手が得体の知れない藤川琉なら尚更だ。
「――大切なものなんだ?」
 真央の反応を冷徹な眼差しで眺め、琉が低い声で呟く。僅か一瞬、双眸が鋭利な輝きを閃かせた。
「そうよ。あたしにとっては、物凄く大切なものなの」
 真央は強い語調で断言し、《生命玉》を制服の中へと素早く隠した。
 魔法使いの《生命玉》に好奇心を抱かれては困るし、追及されることは絶対に避けたかった。
 そんな真央の想いが通じたのか、琉はそれ以上《生命玉》についての質問を繰り出してはこなかった。代わりに話題をもっと芳しくない方向へと転換させたのだ。
「ところで葉月さん、昨日の話なんだけど――」
「えっ!? それは――キッパリ断ったはずよ!」
 真央は慌てて琉の言葉を遮った。
 告白の件に関しては、蒸し返されるのは御免だ。まさかと思うが、今また改めて告白されるなんて以ての外だ。
「フラれたのは解ってるよ。でも、僕も葉月さんもお互いのことをよく知らないわけだし――もう少し真剣に考えてみてくれてもいいんじゃないかな?」
 琉が完璧な笑顔のまま問いかけてる。やはり、まだ真央のことを諦めてはいないらしい。
 琉の真意は解らぬが、真央は彼に対して恋愛感情を微塵も抱いていないのだから、いくら粘ってもこれ以上の発展は無理というものだ……。
 ――考える余地なんてないわよっ!
 心の裡で叫ぶが、何故だか口には出せなかった。
 自分を見据える琉の凍てついた眼差しが恐ろしかったのだ。感情の籠もらぬ視線――それでいて他人の心を全て見透かしているような不可思議な双眸だ。
 この場をどう切り抜けようか?
 良策を捻り出そうと思案を巡らせかけた時、
「まーおっ!」
 天の助けがやって来た。


     「7.誘惑?」へ続く



 
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2010.08.29 / Top↑
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