ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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9.モテ期到来!?



「オレとつき合わない、葉月さん?」
 楽しいランチタイム。
 いきなり現れた少年に真っ向から告白されて、真央は唖然とした。
「――はい?」
 呆気にとられすぎて間抜けな返ししかできない。
 口に入れ損ねた玉子焼きがポタリ……と箸から転げ落ちた。
 少年は整った顔に微笑を浮かべて、真央を見下ろしている。茶色がかった瞳は好奇心に満ちていた。どうやら真央の反応を楽しんでいるらしい……。
「ちょっと……カッコイイじゃない。真央、どうするの?」
 友人の桜が小声で囁く。ボリュームは抑えているものの声音には興奮した響きが宿っていた。こちらも意外な展開を面白がっているようだ。
「藤川に続いて、また告白されるなんて――モテ期到来なんじゃない、真央?」
 まるで自分のことのようにソワソワしている桜の脇腹を軽く肘で小突き、真央は改めて眼前に立っている少年を見上げた。
「今――何て言ったの?」
 心の裡で『幻聴でありますように』と祈りながら訊ねる。
 しかし、少年からの返答は真央の期待を見事に裏切るものだった。
「だから、オレとつき合おう――って。悪い話じゃないでしょ、葉月真央さん」
「…………」
 悪びれた様子もなく微笑む少年を見て、真央は口元を引きつらせた。
 玉子焼きを落としてしまったことに密やかな恨みを抱きつつ箸を置き、その手で額を押さえる。
 楽しかったはずのランチタイムは一気に暗転した。気分は憂鬱だし、おまけに頭痛までしてきた。
 最近、意外な人物からの告白――というシチュエーションが流行っているらしい。
 桜の言うように『モテ期』が到来したのではなく、ただ単に流行しているだけなのだろう。
 藤川琉同様、目の前の少年の告白からは切実な想いや真剣さが微塵も伝わってこないのだから……。
 何にせよ、告白の舞台が比較的人気の少ない屋上だったことだけが幸いだ。少なくとも琉の時のようにあっという間に噂になり、学校中に流布されることもないだろう。
 それにしても、琉もこの少年も何を基準にして、告白ゲームのターゲットを真央に定めたのだろうか?
 皆目理解出来ないし、彼らが自分に純粋な好意を抱いているとも思えなかった。
 それに真央は、自分に告白をしてきた少年のことを全く知らなかった。
 真央の通う桃苑学園は全校生徒三千人を超えるマンモス校なので、顔と名前が一致しない生徒がいても何ら不思議はない。
 真央は相手を知らないが、少年はこちらのことを知っているのだろう。
 しかし、名前も知らない相手に突如として告白されても――何だか釈然としない。
「……あたし、あなたのこと知らないんだけど?」
 疑問を率直に唇に乗せると、すかさず桜に耳を引っ張られた。
「バカね! A組の楠葉尊くんでしょ!」
 今にも『何で知らないのよ!?』とこちらを責め立ててきそうな勢いで、桜が情報を提供してくれる。
 三年A組――楠葉尊(くすば みこと)。
 記憶のデータベースをザッと探ってみるが――鮮明に思い出せる出来事は何も無い。
 やはり、楠葉とは面識はないのだ。あったとしても廊下などで擦れ違っている程度だろう。
「悪いけど――葉月さんと二人だけにしてくれない?」
 楠葉がチラと桜に視線を投げる。
「あー、ハイハイ、わたしはお邪魔ってコトね」
 桜が一瞬呆けたように楠葉を見返し、揶揄混じりに言葉を吐き出す。
 彼女は手早くお弁当を片付けると、軽やかに腰を上げた。
「じゃあ、わたし、先に戻るから。頑張るのよ、真央」
「ちょっ、ちょっと桜っっ!?」
 友人の所業に真央はギョッと目を剥いた。
 ――頑張るって、一体何をっっ!? よく知らない男と二人きりにしないでよっ!!
 胸中で盛大に喚き、それを物凄い眼力で訴える。
 だが、桜は無情にもスタスタと歩き始め、校舎へと続くドアを開けて姿を消してしまったのだ。


 残れた真央と楠葉は、しばし無言のまま向き合っていた。
 真央には楠葉に対してかけられる言葉をなかったし、楠葉はどういう意図なのか観察するような眼差しをじっと真央に注いでいるのである。
 奇怪な沈黙に耐えられなくなったのは――真央の方だった。
 元々勝ち気で短気な性格なので、桜を追い出したくせに無言を保っている楠葉の不可解な態度にイライラが高じたのだ。
「楠葉くん――だっけ? 悪いけど、あたし、好きな人がいるから」
 兄特製のお弁当を仕舞いながら、素っ気なく拒絶の意を示す。毎日手の込んだお弁当を作ってくれる森理には申し訳ないが、今は全てを食べきれる心境ではなかった。
「ふ~ん……まさか相手は『藤川琉』ってコトは、ないよね?」
 からかいを含んだ楠葉の声。
 琉の名を耳にした途端、真央はピキッとこめかみの辺りが引きつるのを感じた。
「だっ、誰が、あんな奴っ! 思い出すだけでも寒気がするわっっ!!」
 メラメラと怒りがわき上がってくる。真央は思わず力強く拳を握り締めて立ち上がっていた。お弁当箱が膝から転げ落ちたが、そこまで気を回す余裕などなかった。
 今は『藤川琉』という名前を聞くだけで、シルクに精神的苦痛を与えられた恨みと怒りが心の奥底から迫り上がってくるのだ。
「へえ……随分と徹底的に嫌われたもんだな、琉も」
 楠葉が愉快そうにニヤッと唇をつり上げる。
 真央に向けられた眼差しには、鋭利な冷光が煌めいていた。
「何? もしかして――藤川の友達なの?」
 真央は思いきり眉をひそめた。
 今の楠葉の口調から察するに、彼は琉のことをよく知っている感じだ。
 よくよく思い返してみると、琉もA組に在籍していたような気がする。
 もしかしたら、琉の友人代表として琉をフッた女の顔を見にきたのかもしれない。純真な告白よりもそちらの方が可能性は高そうだ……。
「友達? ――ちょっと違うな。もっと複雑な関係だよ、オレと琉は」
 楠葉が意味深な笑みを満面に広げ、ゆるりと真央に向けて足を踏み出す。
 真央は咄嗟に後退っていた。緊張した面持ちで楠葉を見上げる。
 何故だか目の前の少年に恐怖を感じたのだ。
 第六感が『危険』だと警戒信号を発している。
「けど、ある意味――良かったな。あんたが琉のコトを何とも想っていなくて」
 楠葉がまた一歩真央に歩み寄ってくる。
 真央は、楠葉の顔に張りつく微笑とアーモンド色の瞳を固唾を呑んで見つめていた。
 視界の中、楠葉の双眸が徐々に茶色から金茶色へと変化していく――
「万が一にでも琉のコトが好きだったら可哀想だと思ったけど、そんな心配はなさそうだな。琉を嫌ってるなんて好都合――おかげで心置きなくオレはあんたを八つ裂きにできる」
 ひどく冷静に言葉を紡ぎながら楠葉が真央に迫ってくる。
 彼は真央にすぐ傍で歩みを止めると一度瞼を閉ざし、再びゆっくりとそれを持ち上げた。
 その時には、彼の瞳は最早茶色でも金茶色でもなかった。
 美しい輝きを放つ黄金色――尋常な人間では有り得ない色素だ。
 トパーズのような魅惑的な双眼は、しなやかな黒豹を連想させる。
「ちょっ……嘘……でしょ……?」
 楠葉の視線に射竦められた瞬間、真央の全身を電流のような衝撃が駆け抜けた。
 ――こ、この感覚は……まさか……まさか……!?
 真央は楠葉の顔に釘付けになったまま心の裡で激しく動揺していた。
 楠葉の全身から滲み出る神秘的な力の存在。
 淡い黄金色の光が楠葉を取り巻いているのが視える。
 真央が『視える』ということは、それだけで彼が特別な存在であることを意味していた。
 楠葉の裡から放出される眩く美しい輝きは、真央には馴染みのある光輝だ。
「あんた――魔法使いなのっっ!?」
 結論に辿り着くと同時に、真央の口からは悲鳴に近い叫びが迸っていた。



     「10.屋上・異常・戦場――土壇場」へ続く



 
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2010.09.23 / Top↑
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