ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です

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10.屋上・異常・戦場――土壇場


 魔法使い。
 楠葉尊は紛れもなく異界からやってきた魔法使いだ。
 真央は強張った顔で楠葉を睨めつけた。
 レインやシルクをあまり人目に触れさせたくなかったので深く考えたことはないが、その気になれば魔法使いたちは色彩を人間らしく変化させ、学校生活や社会人生活を送ることも可能なのだ。周囲の記憶を都合良く魔法で書き換えてしまえば、誰もその存在に気づくことはないだろう。
 楠葉は真央の指摘を否定しなかった。勝ち誇ったような微笑を湛えて、真央の反応を愉しんでいる。
「悪いけど――死んでもらうよ」
 楠葉のトパーズような瞳が爛々と輝く。
「じょ、冗談じゃないわよっっ!!」
 楠葉が放った『あんたを八つ裂きにできる』という物騒な台詞を思い出し、真央は身を震わせた。
 とにかく彼から離れ、この場から逃げ出さなければならない。
 真央はゴクリと大きく唾を呑み込むと、己を奮い立たせ、楠葉を押し退けるようにしてダッシュした。
 目指すは、校舎へと続く扉だ。
 生徒がたくさんいる校舎へ身を移せば、楠葉とて迂闊に攻撃を仕掛けてくることはできないだろう。
 あと一歩で取っ手に指が触れる――という際どいところで、背後から楠葉の声が追ってきた。
「冗談なんかじゃないさ。逃げるなんて無理だよ、葉月さん」
 楠葉の声には余裕の笑いが織り込まれている。
 真央は彼を無視して取っ手に指をかけた。
 ノブを回して扉を開けようとするのだが、ガチャガチャと耳障りな音がするだけでビクともしない。
「だから、無駄だって」
 楠葉の手が背後から真央の肩を掴む。
「――――!? 触らないでっ!」
 背筋がゾクリと粟立ち、真央は反射的に楠葉の手を払い除けていた。
 ――敵に背中を見せるのは……得策じゃない、ってことね!
 触れられた瞬間の悪寒を打ち消すような勢いで楠葉へ向き直る。
 そして、愕然とした。
 恟然と目を瞠る。
 時が――止まっていた。
 屋上でランチタイムを満喫していたはずの生徒たちは、みな一様に石像のように固まっている。
 全ての人間が微動だにしない――異様な光景だった。
 呼吸をして動いているのは、真央と楠葉だけ……。
 楠葉の仕業だ――考えを巡らさなくても、異常事態を引き起こした犯人はすぐに判る。
「あんたが――やったのねっ!」
 真央は鋭い視線を楠葉に向けた。
 いつの間に《時止めの魔法》なんて使ったのだろう?
 レインから『時間を止める魔法がある』と聞いたことはあるが、実際に目にするのは初めてだ。
 それ以前に、レインとシルク以外の魔法使いに遭遇すること自体が初体験だった。
「そっ、屋上だけ人間界から切り離して、邪魔なギャラリーにはちょっと止まってもらった。ここは、オレの世界だ。外に出ることなんて不可能だよ」
「…………」
 楠葉に挑戦的な眼差しで見下ろされ、真央は悔しさに唇を噛み締めた。
 脱出不可能なのは、扉が開かないと判明した時点で何となく察していた。真央だって、伊達にレインのマスターをやっている訳ではない。それなりに魔法に関する知識は得ている。
 今、屋上は楠葉の魔法で創り上げられた特殊空間と化している。楠葉本人が述べたように、現実世界から巧妙に分離されている状態なのだろう。
 楠葉がこの不可思議な世界の主として君臨している限り、彼の世界に取り込まれている真央はここから脱出できない……。
 ウィザード・マスターではあるが、真央自身は何の力も持たない普通の女子高生だ。誰かが楠葉を上回る力で外側からこの世界を壊してくれなくては、楠葉の餌食になる道しか残されていない――
「大人しく諦めて、オレに殺されなよ」
「嫌よっ! 何で、こんなことするのよっ!? あんたとあたし――今日まで接点なんてなかったわよねっ! 全く理解できないし、納得もできないんだけどっ!!」
 理不尽な状況に追い込まれ、真央は憤然と抗議した。
 楠葉の意図が全く読めない。
 どうして自分に狙いを定め、『殺す』などという物騒な宣告をするのだろうか?
 楠葉の話は突飛すぎて、ついていけない。
 困惑する真央を尻目に、
「琉の命令だからだよ」
 楠葉はアッサリと答えを告げた。
「――うわっ、サイアクッ! 藤川があんたのマスターってワケ?」
 明かされた事実に真央は目を見開き、次いで不愉快さにきつく眉根を寄せた。
 あの大嫌いな藤川琉が関わっている事実が、無性に腹立たしかった。
 どうやら楠葉は琉のクラスメイトであると同時に、彼の充実なる魔法使いでもあったらしい……。
「当たり。オレは琉の魔法使い……。あんたに消えてもらいたい理由は、それで充分だろ? だから、さっさとカタをつけさせてもらう――」
 楠葉の片手が真央に向かって突き出される。
 彼のトパーズの瞳が輝きを増した直後、その掌に金色の光の粒子が集まり始めた。魔法力を一所へ集中させているのだ。
 溜まったエネルギーを真央へ向かって容赦なく放出する気だろう。
 凝縮された魔法エネルギーをこんな至近距離で浴びせられては、たまらない。
 即、あの世行きだ。一瞬にして肉体が灰燼に帰すだろう。
 想像するとゾッとした。
 普段は気丈で勝ち気な真央だが、直面した人生最大の危機に底知れない恐怖を感じた。対処法もない上に、恐ろしさに足が竦んで動けない。
 目と鼻の先で、楠葉の魔法力を結集させた光の球が大きく膨らんでゆく。
 今しもそれは楠葉の手から離れようとしていた。
 正視に耐えず、真央はギュッと堅く目を瞑った。
「――レイン……!」
 瞼の裏に大好きな魔法使いの姿が浮かび上がる。
 無意識に手がレイン《生命玉》を手繰り寄せていた。
「レイン……レイン――助けて、レインッッ!!」
 真央は両手で《生命玉》を握り締め、必死にレインの名を連呼する。
 それしか術を知らなかった。
 この土壇場で、自分を護ってくれる唯一の希望だ。
 肥大した魔法エネルギーを間近に感じる。
 ――熱い……! もう……ダメかも……!!
 もうすぐ射出されるであろう攻撃を予測し、真央は身を強張らせた。
 直後、
「――真央っ!」
 聴き慣れた声が響き、温かな腕が真央をひしと抱き寄せた――



     「11.純情な愛情と過剰な友情」



 
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2010.09.25 / Top↑
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