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ファンタジー&ジュヴナイルを中心とした自作小説です
Thu
2009.06.04[00:22]
     *

 貴籐蒔柯は、娘との電話を終えた途端、敏捷に身を翻した。
 リビングを出て、二階にある寝室へと駆け込む。
 真っ直ぐに化粧台へ向かうと、その上に置かれたジュエリーケースを開けた。
 逡巡せずに銀色に輝く二つの鍵を取り出す――聖華学園のマスターキーだ。
「ごめんなさい、聡さん」
 胸の前で鍵を握り締め、蒔柯はこの場にいない夫に謝罪した。
 十七年前、二度と学園に――あの中庭には近づかないと心に誓った。
 聡とともに。
 自分は今、その誓いを破ろうとしているのだ。
 愛する一人娘のために。
 夫に対する罪悪感はあったが、それよりも水柯を助けたい気持ちの方が勝った。
 結婚後、子宝に恵まれることのなかった蒔柯にとって、学生時代に授かった水柯は何ものにも代えられない大切な娘なのだ。
「聡さん、あの子を傷つけてしまうかもしれないけど、許してね」
 ひっそりとした呟きを残して寝室を出る。
 足早に階段を降り、リビングの前に差し掛かったところで、ふと足を止めた。
 数秒悩んだ末にリビングへ入り、再び電話の受話器を手に取る。
 もう夜も遅い。学園に閉じ込められている四人は、まだ未成年だ。
 それぞれの家でも帰りの遅い子供を心配しているかもしれない。
 要らぬお節介かとも思ったが、徳川家と園田家にも連絡を入れておくことにした。
 隣の田端家はおそらく留守だ。
 ここ十日ほど、樹里以外の住人を見かけた記憶はない。
「樹里くんは私が保護者代わりになるとして、まずはナオちゃんのところね」
 溜息を一つ落としてから、蒔柯は少々緊張した面持ちで徳川家の番号をプッシュした。




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テーマ * 学園小説 ジャンル * 小説・文学
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